桜の宵

 

 

最近では攘夷志士の中でも、穏健派と言われる様になった、桂 小太郎一派が、
過激 戦闘派 攘夷志士・高杉 晋助率いる鬼兵隊と対立、
宇宙海賊“春雨”を巻き込んだ戦闘をやらかした。

春雨と手を組んだ高杉 鬼兵隊を、撃退した桂等、攘夷一派の助っ人に、
妙なガキを二人連れた、バカ強い白髪頭の侍がいた。

との情報を得た武装警察 真選組 副長である、
土方十四郎としては、事の真相を明らかにし、
攘夷派志士であったならば処断せざるを得ない、
子供二人を従えた白髪頭の侍には、真選組連中誰もが心当たりがある。

土方は、監察方の山崎に
事の確認をさせる事にした。

 

「副長、こいつぁ、もしかして」

「野郎か・・・洗うか」

「副長、これで、もし旦那が、
攘夷活動に関わっていた場合は・・・」

「んなもん決まってんだろ、斬れ!」

 

 

[取り敢えず、身辺調査してみるかな]

山崎はあまり乗り気では無かったが、坂田銀時を調べに向かった。

山崎は溜め息混じり、心の中で呟く。

[しかし、斬れとは・・・
副長も無茶を言う。
自分も旦那に負けたくせに、
俺が勝てるワケないだろ、
何考えてんだ・・・どうしろってんだよ
あーヤベ、帰りて・・・]

 

 


[また、桂だ・・・]

土方は心中穏やかでは、無かった。

[銀時のヤツぁ、
何故、桂とつるんでやがる]

[斬った、張ったの世界に生きる俺達にゃあ、
惚れたはれたは関係ねぇ]

[おめーが攘夷志士だったら、俺ァ、間違いなく、おめーを斬るだろうよ。銀時]

[後の事ァ、考えられねぇが・・・
喩え、後悔しようとも、な]

 

 

 

 

 

 

 


―ガラッ―

玄関の引戸を開ける音に銀時はフト顔をあげる。

[勝手に入ってくんのは、土方くんか。ピンポーンっての、あんだけど?
その存在、相変わらず無視ですか?]

ガラリと事務所の引戸を開ける。

「おう、おめー、居たのかよ」

「アンタ誰ん家来たの?
コレ俺ん家じゃね?
居て当たり前じゃね?」

[怖えぇ顔して何だよ]

銀時は土方を見詰めた。

「ここんとこ、
居なねぇ様だったからよ」

「ああ、新八ん家に居たからな。
で?何かご用ですか?」

空惚けた顔をして聞く銀時に土方は

「用が無きゃ来ちゃいけねぇのか?」

不機嫌に聞く。

「別にィ?
隊服のまんまだし、時間的にもアンタ仕事中じゃねぇの?土方くん」

「ああ、さぼった」

「へ?アンタ、何言ってんの?
仕事の鬼のくせして、」

銀時は土方のセリフに驚く。

「おめーに会いたかったんだよ、銀時」

[アレ?何か、変、]

土方は銀時の隣りに座り、銀時を抱き締めながら

「いつ来ても、居ねぇから、
何かあったのかと、思ってよ」

呟く真剣な声に、銀時は土方を抱き返し、背中を撫でた。

「何にもねぇよ。
仕事で、ちょっ、いなかっただけだ」

[ヤベぇな、高杉の一件・・・
バレたな・・・
それ以上聞くなよ]

「そうか、」

身体を離して土方は銀時を見詰めた。

何か言いたそうな視線だが、銀時はいつもの様に何の感情も表さない、目で返し、ボリボリ首を掻いた。

「仕事に戻る」

「そ、気ィ付けて」

「後で来る」

「ああ、子供達ァ居ねぇから、いいよ」

頷き、立ち去る土方を見詰め

「ありゃあ、夜、問い詰める気だな」

銀時は小さな溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 


「なんだこりゃあ!」

珍しく浴衣姿の銀時を、脱がしてみたら、下は晒しでグルグル巻きの身体が出て来て、土方は動揺しながら怒鳴る。

「誰だよ、昼間と違う人じゃねぇ?怖えぇよ、土方くん」

「この怪我は何だって聞いてんだよ!」

[そりゃアンタ、言えねぇって。
肩から腹まで晒しでグルグル巻きじゃ、怒鳴りたくもなるわなァ・・・
ケド、山崎くんから報告受けてないの?色々嗅ぎまわってたじゃない?俺の事]

「銀時!空惚けてんじゃねぇぞ!」

「仕事で怪我した。
んで、ずっと新八ん家に居たんだよ」

「おめーがこんな怪我するなんざ、よっぽどの相手だ、何で俺が知らねぇ?警察に届けてねぇな。コノヤロー」

「んな面倒くせえ事するかよ。
ったく、うるっせぇなぁ・・・
やんのか、やんねぇのか
どっちなんだよ!」

不機嫌に言う銀時。

「テメェ警察舐めてんのか?」

「んなモン舐めるかッ!
舐めんのはおめーのキンタマだけだッ!早く脱げ!」

「上等だコルァァァ!
俺ァ痛がっても途中で止めねぇぞ!!」

「望む所だ!掛かって来いや!」

[え?望んでんの?]

その言葉にも動揺しつつ、土方は隊服を脱ぎ捨て銀時の上に伸掛かった。

「んっ!」

「痛ぇんだろう?」

「んな事、誰が言ったよ。
俺ァ、アレだ、久々だなぁって、
トシの重みがさ」

「シレッとした顔で、
嘘吐くんじゃねぇ」

「嘘じゃねぇよ。分んだろう?」

銀時は硬くなった男根を土方の腹に押付けた。

「テメェ・・・」

「早く、やろうぜ・・・」

銀時はニヤリとし、土方を抱き寄せて口付ける。

「こんな怪我気にする事無いからさぁあ、手加減無しでイこうぜ。久々だし?」

[このヤロー・・・
何企んでやがる・・・
ったく、山崎のヤツ、女の子の笑顔が見たかったのなんの、
訳分らねぇ作文寄越しやがって、
銀時の怪我の事ァ、何にも触れてねぇ・・・
やっぱ、桂、高杉の一件に関わってんじゃねぇのか!?
あのヤロー、クビにしてやっかな・・・]

「うぅんっ、ハァ、いいよ、もっと、」

考え事しながら口付け愛撫している土方に銀時は催促する。

身体は痛いが、欲望はそれ以上を上回っていた。

[ノリノリで喘ぎやがって・・・
心配するだけ、無駄って事か・・・]

土方は小さな笑みを浮かべ、銀時の望みを満たす事を考えてた。

[銀時ってぇより、自分の望みか?
こんな所で手加減したら、こいつは怒るだろうな、]

「うぅん、トシ、」

硬く張り詰め、滴っている男根をしゃぶる土方の髪を掴み、イクと呟く銀時を、土方は頷き、更に煽る。

「挿入れ、、早くッ」

銀時の望み通りに土方は、濡れ柔らかくほぐれた尻に硬く猛ったモノを深々と沈める。

「はぁぁん、トシぃぃ」

キツく抱き付く銀時の髪を撫で、掏り上がる肩を肘で固定して激しく突き上げた。

「は、ひぁっ!
ふ、かい、トシ、いい、気持ち、いい!はぁん、あん」

身悶えし激しく喘ぐ銀時に口付けた土方は

「凄ぇ、乱れっぷりたなァ、銀時・・・
そんなにいいか?」

笑って聞く。

「う、うん。
もっと、擦って、、突き立てて!」

「相変わらず、激しいのが好きだなァ」

「んっ、トシの、気持ち、いいッ」

激しく抱き合い、身悶え、喘ぐ、銀時が

「んっ、んっ、あっああぁんっ・・・
ハァんっ、いい、死ぬ、死ぬ~ぅ」

と繰り返し、布団に倒れ込み、身体をくねらせ、震えているのを見て、土方はギョッとし動きが止まる。

真っ白な晒しに血が赤く滲み出ていた。

「な、なに?
や、やめんな、よ・・・」

赤く上気した頬の銀時は自ら腰を蠢かし、催促する。

「トシ、俺、イキそうなんだけど・・・
なんで、やめんの?」

「血、血が出てる・・・」

「だから・・なに?
血ィ見んの、初めてな訳でも無いのに?
アンタ、大丈夫?顔青いケドぉ?」

銀時は笑って身体を起こし土方と向い合った。

「トシ、おめー、
なんで涙目になってんの?」

「怪我が、酷くなる、」

「んな心配よか、続きやってくんない?
ねぇ?イケ無いと、イライラするからさぁあ」

余裕で言う銀時。

「おめーに血を流させてぇ訳じゃねぇ」

真剣な土方に銀時は笑う。

「な~に、言ってんですか。
アンタ、初めての時から俺の命狙って、二度目ん時は肩をバッサリ斬ったくせしてさぁあ。
あん時だって血は出てたよ。
おめー気にして無かったろ?」

銀時はニヤニヤ言って土方の唇に舌を這わす。

「やりてぇんだよ。
わかんだろ?
おめーだってその気でいたんだろ?
十四郎くん?違うの?ねぇ」

土方を押し倒して上に乗った銀時は笑って腰を蠢かし始めた。

「おめー、気にし過ぎなんだよ、俺だって馬鹿じゃねぇ、
駄目な時ゃあ駄目って言うよ。ね?」

銀時は楽しそうに聞いて腰の動きを早めた。

「本当に、いいんだな?
平気なんだな?」

「ああ、気持ち良くしてくれよ。
楽しもうぜ」

 

 

 

 

 

 


傍らで静かに眠る銀時を見詰めて土方は、ずれて解けた晒しに手を掛ける。

銀時の言う、大した事無い怪我だ、等と、思ってはいない。

治りかけているにしても、激しく交わった事で、悪化したかもしれない。

「やっぱ、酷ぇ怪我じゃねぇか・・・
なんだよ、この刀傷は?
普通の刀剣じゃねぇな・・・
おめー、どんな仕事だよ」

脇腹を幅広の刀剣で刺され、胸は横に斬られている。

土方は溜め息吐いて、グッタリ寝入り、揺すっても起きそうに無い銀時に、新しい晒しを巻き直した。

 

 

 


ゆっくり煙草を一本吸い付け、土方は夜明け前、万事屋を後にした。

「優しいねぇ、土方くん」

銀時は玄関の引戸が閉まる音を聞いて呟いた。

 

 

 

 


土方が帰った後も布団の上でゴロゴロとしていると、いつの間にか眠ってしまった銀時を、昼前に戻って来た新八が起こした。

「アレ~?寝てた?」

「ええ、そりゃあ、もう高鼾で。
どうですか?怪我の具合は」

「あ?良いよ。
それよかさぁあ、腹減ったんだけど」

「はい、姉上が、」

「いや、
お妙の作った食いもんはいらねぇ」

「大丈夫ですよ、
お土産持たせてくれたんです」

「何?糖的なモン?」

「はい。それとお肉、今焼きますから」

「肉かぁ、久しぶりだなぁ、」

「あ、銀さん、土方さん来たんですね。吸い殻二本しか無かったから、
すぐに帰ったみたいですけど、」

「ん?ああ」

「今回の事で何か聞かれました?」

「ん?まぁ、お前等には何も聞いて来ねぇとは思うケドな・・・
俺達ゃあ攘夷だのなんの、関係ねぇから、知らねぇって言やあいい」

[聡いな新八、
煙草の匂いはほとんどしねぇのに、吸い殻だけで土方くんだって分るのか・・・
いや、馬鹿でも分るのか?
でも、俺達の関係には?
気付いてないよね?]

「銀ちゃ~ん、今日は月曜アル。ジャンプ買って来たヨ~」

神楽はジャンプを銀時に渡す。

「流石、神楽ッち~ゃん!
ってテメッ、これ赤丸じゃねぇかッ!!しかも前号!!
ベタなお母さん的な事してんじゃねぇよっ!」

銀時は布団にジャンプを叩き付け。

「ちがたか、でも、ジャンプ卒業するいい機会ヨ今度サンデーにするヨロシ」

神楽はジャンプを蹴り飛し去って行った。

「赤丸でもジャンプ蹴り飛してんじゃねぇよ!」

「銀さん出来ましたよ」

「お~」

ヨッコラショの掛け声で立上がり、居間に向かう。

「銀ちゃん、旨そうアル~」

ニコニコ神楽に新八は

「銀さんの分だからね神楽ちゃんは食べたでしょ」

窘める。

「銀さん、たくさん食べて、早く元気になって下さいね」

「なんだヨ~、新八、ケチくさい事言うんじゃね~ヨ~」

「ケチも何もアンタ、家で山程喰ったでしょうがァァァ!」

「悪いねぇ、神楽。新八いただきます」

銀時はモッサモッサと食欲旺盛に食べ始めた。

「デザートにプリンがありますよ」

嬉しそうな銀時の笑みを見詰め、新八は考え事を始める。

 

 

 

 

僕は知っている。
銀さんと土方さんの関係を・・・
初めて会った時から
銀さんと土方さんは
気の合う関係じゃ無かった・・・
土方さんはいきなり刀で
銀さんに切り掛かり・・・
殺す勢いだった・・・
それは攘夷志士の桂さん達と一緒だったからだけど・・・
二度目も、土方さんは
姉上を賭けた闘いで
敗れた近藤さんの敵討ちで、
銀さんに切り掛かり、
その時は銀さんの肩を
バッサリ斬った・・・
命のやり取りが好きな
土方さんに
銀さんは
いつも命を狙われていた・・・
似ている二人はよく喧嘩する
まるで、子供の様に・・・
罵り合いの口喧嘩、然り・・・
殴り合いの喧嘩、然り・・・
そんな二人が
何故か・・・
いつの間にか・・・
親しくなっているのを・・・
僕は知っている
二人共、強い侍だ
特に銀さんは強い!
土方さんも強い
強い者同士、魅かれ合うのか・・・
僕だって強い者に憧れ、魅かれる
だから、
普段はグウタラ、グダグダな銀さんに
付いて来たんだと思う
銀さんと土方さんの間には、何があり、魅かれ合うのだろう
二人は、徒ならぬ関係だ
銀さんは、僕が気付いていない、
と、思っているみたいだけれど・・・
僕は知っている
愛し合う男女の様に
銀さんと土方さんには
身体の関係がある事を・・・
姉上の仕事がお休みで
僕の家に神楽ちゃんと泊まりに行って
銀さんしか居ない時
土方さんが泊まって行くのを・・・
ただ、話をしに来る土方さんは
部屋中を真っ白にヤニ臭くして
灰皿天こ盛りの吸い殻を残して行く
けれど、銀さんと過ごす時は、煙草の量が違う
一、二本吸うだけで
匂いもほとんど残らない
煙草を吸うより、違う事に時間を掛けているからだ・・・
だから、昨夜、銀さんは土方さんと・・・
抱き合った・・・
土方さんと会った翌日の銀さんは物憂い
いつもに、増して・・・
ダルダルだ・・・
これは僕の想像だけの話なのだろうか
想像、しただけで赤面ものだ
ナニをナニするのか、知っているだけに、赤面する
多分、
銀さんが受けで、
土方さんが攻め・・・
あァァァ――!!
ナニ考えててんだァァァ僕はァァァ!!
ダメだ、ダメだ、
考えてはイケナイ事を考えている!!
やめよう、考えるのは、・・・
銀さんと土方さんが並んでいたら
イケナイ事を考えてしまいそうだ・・・
やってる・・・
絶対、やってる!!!
止めろォォォォ!!!!
考えるなァァァ!!

 

 

 

 

 

「新八?何赤くなってんの?プリンは?」

「そうアル、早くプリンくれヨ」

「あ、ハイハイ、、」

いか―――ん!!
ナニ考えてんだァァァ!!
悟られる!悟られる!
悟られるぞ!!
僕!!
銀さんに知っている事を知られたら・・・
大事だ!

「パステルのプリンじゃねぇ?
うめぇ~、蕩けるよ~」

「キャッホ~~イ!!」

ノリノリでプリンをがっつく二人を見て、思わずちっさな溜め息を吐く新八。

「おめー、何溜め息吐いてんの?
いらねぇの?プリン、いらねぇの?」

「え?ああ、いいですよ。
銀さん食べて下さい。
疲れた時は甘いものが一番ですから」

「銀ちゃん、疲れてるアルか?
毎日、寝てるだけでか?」

新八はドキッ!!
と、し、
銀時はモッサモッサとプリンを口に運ぶ。

「おめー、一日寝ててみろ、ものっそい、疲れんだよォ、な~んもする事ァねぇしよ~」

「良い年した大人が一日グウタラか、私もしたいアル」

「おめーは良いんだよ。
俺ァ怪我人だから寝てんだよ。
若者は外で遊べ。
定春でも散歩させて来い」

「そうアルな。
でも銀ちゃん元気な時もグウタラアル。定春ぅ~行くヨ~」

「アンっ!」


定春を連れて出て行くのを見て、銀時は大きく伸びをし、片付けをする新八をチラッと見る。


[なんだ、新八知ってんだ、
やっぱ聡いな]

[気付かれた!
銀さん見てるよ!
めっちゃ、見てるよ!
どうすりゃいいんだ?
知らん振りか?
知らん振りかァァァァァ!!]

[おお、動揺してるな?
おめーが聞かなきゃ俺ァ、何にも言いやしねぇよ。
そりゃおめー、
土方くんと合う度Hしてます的な事ァ、言ええ無いケドね]

銀時は視線を逸しソファに寄り掛かる。

「新八、お茶くれる?」

「は、はい」

新八は引きつった笑いでお茶を淹れる。

[まだまだ甘いよ~、新八く~ん。
そこで動揺しなきゃ~、
一人前なんだケドさぁ。
ま、仕方無いか]

銀時は笑いお茶を受け取る。

「もう一眠りすっか」

銀時は再び伸びをして和室へ入って行った。


[ケド、なんで気付いたかな。
家でやっ時は居ない時にしてんのにな?何だ?何でわかった?
あ、なる程!煙草か!]

銀時はニヤリとし、天井を見上げた。

 

 

 

 

「銀さん、銀さん」

「んあ?」

「土方さんが来ました」

「ん?なんで?」

「それが、お見舞いって・・・」

「なんだよ、土方くん」

銀時は新八の肩越しに、開けたままの襖から見下ろしている土方を見詰めた。

「見舞いだ」

「そりゃ、どうも。
ケドさぁあ、昨日の今日で見舞いとか、来る事無いから。
これで完璧、新八にバレたから」

銀時の脇に座っていた新八がビクッとする。

「だいたいさぁ、
服脱がなきゃ怪我してんの、
分らねぇのにさ、
見舞いとか来たら
裸になったのバレバレだから」

「ああ?そうかよ。そりゃ悪かったな」

土方は襖から中へ入って来て新八を見る。

「何の事だか、分かりませんよ。
じゃ僕向こうに行ってますから。
それから、お見舞いに食べ物たくさん貰いましたから」

「ん~」

銀時は立ち去る新八に頷き、土方を見る。

「おめー、新八はずっと気付かないフリしてくれてたんだぜ」

「バレちゃまずいってのか?」

真剣な土方に銀時は笑う。

「まずい事ァねぇよ。
だからって大っぴらに出来ますか?」

「俺ァ気にしねぇ」

「嘘吐け。真選組の皆さんに知られても良いっての?」

「総悟は気付いてる」

「ああ、沖田くん?
ありゃ聡い子だから、
ま、良いや。
見舞いありがとうよ」

「銀時、その怪我の訳、話せ」

「あ?仕事だっつったろ?
どんな話求めてんだ?」

「おめーが桂ら攘夷志士と一緒にいた事ァ割れてんだ」

「ナニ?攘夷志士って?
俺にゃあ関係ねぇ」

「銀時」

「何を疑ってんだか知らねぇが、俺は盗まれた刀を探してただけだ。
攘夷だのなんの、俺にゃあ関係ねぇよ。
もっと聞きたいってなら、しょっぴいてからにするんだな」

銀時の瞳は何も語らず、土方の瞳は瞳孔が開き切った。

「チッ、まぁ良い。早く怪我治せ」

土方は銀時に無理矢理口付けて部屋を出て行った。


「土方さん、お茶どうぞ」

「いや、悪ィ、邪魔したな」

土方は玄関へ向かい、それを新八が追う。

「ちゃんと医者にゃあ行ってんのか?」

「はい」

「なら良い」

「お見舞い、ありがとうございました」

「ヤツの機嫌損ねちまった。
これ以上は聞かねぇが、
あんま無茶すんなって、伝えてくれや」

土方は新八に封筒を手渡し去って行った。

封筒の中を見て、新八は銀時の部屋へ走る。

「銀さん、これ」

「何?」

「土方さんが、
あまり無茶しないで下さいって」

「なんだよ、こりゃ」

銀時は封筒を布団に叩き付けた。

新八は黙って部屋を出て行く。

封筒には見舞い金が入っていた。

銀時は新しい浴衣に着替えると、封筒を引っ掴んで出て行く。

「銀さんどこに行くんですか?」

「ちょっとな」

それだけ告げて銀時は、土方の後を追った。

「銀ちゃんどうしたアルか?
ニコ中と喧嘩でもしたアルか?」

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 


「オイ!土方!土方、十四郎!!」

土方は呼び声に気付いて振り返る。

「出歩っていいのか?」

「なんだ、こりゃ!
おめー、金までいらねぇ」

「息上がってんぞ」

「うるせぇ、リハビリだ!」

「どんなリハビリだよ。
おめー働けねぇんだ。
何かと、入り用だろうよ」

「いらねぇ」

「おめー、
普段何かとたかるくせぇしやがって、見舞い金がいらねぇえったァ
どういう事った」

「うっ・・・そりゃそうだが、
惨めったらしいじゃねぇか」

「おめー、
普段のが惨めったらしい生活だろうが」

「え?そうなの?」

「だろうが、いっつも、
金ねぇ、金ねぇの貧乏生活じゃねぇか」

「まぁ、そうだけどよォ~」

「んじゃ、貸すか?利息高けぇぞ」

「余計いらねぇ」

「なぁ、銀時、
おめーにゃあ喰わせなきゃならねぇ子供が二人もいんだぜ?
しかも怪力娘は大食らいと来てる」

「そうだな」

「人の好意は素直に受けとくモンだぜ」

「ああ、そうだな」

「それとな、おめーも良い年なんだからよ、身体厭えよ」

土方はそう呟いて銀時の襟元を直す。

「ああ、」

「正直、俺ァ・・・
おめーが傷付くのは・・・
見たかねぇ・・・
前に傷付けた事ァ謝る」

「んな昔の事ァいいよ」

「ただな・・・
おめーが・・・
いっつも桂とつるんでやがるのが・・・
気に入らねぇ」

「嫉いてんの?」

からかい気味に言う銀時。

「野暮な事ァいいたかねぇが・・・
悋気だな。
何や可やと・・・
おめーは桂とつるんで、大事を起こす。
初めて会った時っから
そうだったじゃねぇか」

銀時はジッと土方を見詰めた。

「なぁトシ、こんな往来のど真ん中で話す事じゃねぇよ」

「そうだな。んじゃあ、俺ァ行くわ」

くるりと背を向ける土方に

「行くのかよ」

と銀時は呼び止める。

振り返る土方は少し困った顔をして銀時を見る。

「なんて顔してやがる」

土方は歩み寄り銀時を抱き締めたい衝動に駆られ、躊躇する。

「なぁトシ、」

「ああ」

頷き返して土方は微かに触れ合った指先で銀時の熱を感じた。

 

 

 

 

「すまねぇ・・・
こんな所に引っ張り込んじまって」

裏路地の宿屋の一室で、銀時は俯く。

「俺が入りたかった」

土方は上着を脱いで、銀時の前に座る。

「何か、言いてぇ事があんだろ」

「ああ、おめー、ヅラの事、気にしてんだろ?」

顔を上げ銀時は天井を見上げた。

「ヅラってのは、桂の事か?」

「ああ、ヤツぁ、俺の昔馴染だ。
ガキの頃から、一緒に学び、一緒に遊んだ。
未だ一緒につるんでる様に見えるのは、たまたまだ」

銀時は微かに笑う。

「20年前・・・
天人が開国を迫り、襲来した時、
日本中の侍が立上がり、
天人と闘い始めた頃、
俺ァハナたれのガキだった、
数年経ち、未だ闘い続ける侍を見続け、
俺達ガキも、立上がり、戦に加わった」

「桂も一緒だったのか」

「ああ、ヤツとは、最後の最後迄、
共に闘い続けた」

「互いに背中を預け・・・
命を賭け闘い・・・
死線を潜り抜けた・・・
幕府は天人の言いなりに
侍を仇成す者と
粛正処分し始め
戦は終わりを告げた」

「俺は戦場を去り・・・
何とかこうして生きている」

「なぁトシ・・・
おめーにも、昔馴染がいんだろ?
こいつは、切って切れるモンじゃねぇ。
天人との闘いが終結してから、
ヅラが何処で何をしてたかなんて、
犬威星大使館爆破の件迄、
知りはしなかった。
まぁ、風の便りで天人排除の思想家、テロリストになったってのは
聞いてたがな」

「桂と知り合いだってぇ、
事実は変えよう無いって事か」

「ま、そう言う事った」

「わかった」

「納得したか?」

「ああ、おめーは攘夷志士にゃあ関係ねぇってな」

「今更、何を変えようってんだ。
今や天人は江戸の町を踏ん反り返って歩いてる
それが当たり前の世界だ。
それを追い払い
昔の江戸の町を取り返す
言いたい事ァ分かるよ
だが、時代じゃねぇよ」

銀時は微かに笑い俯く。

「俺はおめーや桂、
侍達が闘い挑んだ天人の言いなりに仕事をしている連中だ。
憎くねぇのか?」

「何とも思っちゃいねぇ。
俺の中じゃあ総て終わった事った。
師や友の屍を越え生きている。
最後の最後迄、生き抜くと決めた。
だから時代に合わせ生きてんだよ」

[それに、俺が守りてぇモンは今も昔も変わらねぇし・・・]

土方は銀時を抱き締めた。

「銀時、俺ァ、何時だって側にいて、力になりたいって思ってる。
おめーにはおめーのルールがある様に、俺にも譲れないモンがある。
それを曲げる事ァ出来ねぇが、俺はおめーと、一緒にいたい」

「いつの間に・・・
そんな事思う様になったか、分らねぇ・・・
だが、俺はおめーが欲しい」

「マジな顔して、
そりゃプロポーズですか?」

「まぁ、近いな」

「お互い、
魂以外は一緒に居れそうだな」

「魂か、、そうだな」

「そうだよ。
俺ァ、身体も命もおめーにくれてやった
返せなんざ言いやしねぇよ」

「俺ァもらったモンは返さねぇ。
そうだな、俺ばっか貰ってちゃ悪ぃな。
俺もおめーにくれてやるよ。
魂以外総てな」

「十四郎」

「銀時」

抱き締め合い口付けを交した。

「このまま続けてぇ所だが・・・
生憎、仕事中だ」

「そうだな、んじゃ帰るよ」

「ああ、一度帰って、出られるのか?」

「ん~、ムリだな。
新八が怒りそうだしよぉ」

「そうか。
仕事引けたら俺がおめーん所に行く」

「今夜は子供達、居るぜ?
どうすんの?」

「俺が連れ出してやるよ」

「流石に俺ン家でやるって訳にゃあいかねぇか」

「俺は良いがな、おめーは嫌だろう? それに教育上良くねぇ」

「ん~?どうかな?
俺ァ別に嫌でもねぇ」

「オイオイ、何を真剣に考えてやがる。
今迄通り子供がいる時ゃ、おめーン家じゃやらねぇよ。
なんか旨いもんでも食いに行こうぜ」

「良いねぇ。
それに酒がありゃあ、尚良いねぇ」

「そいつは無しだ。傷に障る」

「はは、そうだな」

「早く怪我治せ、
遠慮なく抱き合える様によ」

「遠慮する事ァねぇって
言ってんだろ?」

「いや、おめーは、チッと遠慮するのを覚えたが良いぜ」

「いやいやいや!
貧乏してんだ、遠慮はしねぇ!!」

「なんの理屈だ、そりゃあ?」

「遠慮と貧乏はするモンじゃねぇって、どっかの誰かが言ってました」

「そうかよ、
んじゃ俺ァ先に出るからよ」

「ああ」

「後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

紅桜篇の後話し