銀色の夢【京都篇】 参

 

 

 

 

 

雲一つない澄み渡る青空

時折

風に舞う桜の花びらが

その清廉さに

華を添えていた

 

 


白無垢に綿帽子を被り 俯き加減に隣に立つ銀時を見詰め 土方は満足気に微笑む。

「副長が笑った」
「副長が笑ったぞ!」
「近頃にゃあ、見られねぇ事った」
二人を見守る真撰組隊士達は小声で口々に呟いた。

滅多に見られない光景に隊士達は 呟きながら 目に涙を薄ら浮かべる。

「昔ァ良くバカやって、大笑いしたモンだがなぁ」
「幸せなんだな」
「ああ、良かった」
「ああ、良かった、良かった」
「本当だぜ」
「副長ぉ~、幸せになってくれよぉ~」
小さな呟きも 3~40人からの人々が呟けば かなりの大きさになる。
「うるっせぇぞッ!!テメェ等ッ!!
ちったぁ、静かに出来ねぇのかッ!!」
土方は振り返り怒鳴り付け
「イヤ、アンタが一番うるせぇから」
と 銀時に言われた。
「済まねぇ」

 

「みんな祝福してくれるんですね…姉上」
「ええ、幸せそうですものね」
新八もお妙も感慨深げに呟いた。

 

神前で宮司の挙げる祝詞を聞きながら
銀時はウトウトしていた。
それに土方も気付いていたが 声を掛ける訳にもいかず
ひっくり返らない様に と 祈っていた。

 

長く有り難い祝詞を聞き ウトウトしていた銀時の眉がピクリとし
一瞬 全身に緊張を走らせる。

[高杉…]

殺気の篭った視線を感じた。

銀時の緊張は直ぐに解けたが
その事に土方が気付かないはずは無かった。

その一瞬の緊張を土方も感じ取り ハッとする。

[殺気!!誰だ!?]

一瞬にして振り返りそうになる土方の手を銀時は掴んでギュッと握る。
既に 銀時に緊張は無かった。
何事も無かった様に銀時は土方に微笑む。
土方は軽く頷き 銀時はそっと手を離した。

 

玉串を挙げ 三々九度をし 式は滞り無く終わった。

 

 

 

「さっきのありゃあ、何だったんだ?ああ?」
お祝いムードで盛り上がる宴席で 土方の問い掛けに銀時は小首を傾げる。
「知らぁ切るんじゃねぇ。
もの凄ぇえ殺気だったじゃねぇか」
言う土方は真剣な表情。
「え?ナニ?アレ?ああん…アレねぇ…
知らんぷりしてりゃイイのに」
銀時は土方と違い 余裕の笑みを浮かべた。
「出来るか!ありゃあオメーに向けられてた」
「そ?」
「オメーに殺気を向ける様なヤツが亰にいんのか?誰だ」
「アンタの昔の妓なんじゃないのぉ?
モテモテだったんでしょォ?」
銀時はチラッと細目で土方を見て からかうが 土方は真剣なまま
「巫山戯んな」
と 銀時に詰め寄る。
「ンもぅ。冗談通じ無いんだから。
真面目くんだねぇ。ンフフ。高杉晋助」
笑う銀時に土方は驚きで返した。
「何だと!?」
「シ~ィ、みんな何だと思うよ?落ち着いて」
「オイオイ、コレが落ち着いてられる話しか?
ヤツは亰にいやがるのか。またも上様を狙って、」
「そうだよ」
銀時は頷き 土方は
「それもあるだろうが、殺気はオメーに向けられてた。
何故だ?
そもそも、何故オメーは高杉の視線だと分かる」
今にも掴み掛かりそうな勢いで 畳み掛ける様に聞く土方に銀時は微笑む。
銀時には高杉が自分の命を狙う意味が良く分かっていた。
「ヤツも昔馴染みなのか?そうなのか?」
「そうだよ」
銀時は悲しそうに呟いた。
「銀時、何だってオメーの昔馴染みは、物騒なヤツばかりなんだ」
「時代だろ?」
「んな訳あるか。
俺とオメーと、幾つも年は違やねぇ、僅か一年だ。
俺ァ攘夷戦争に加わろうと思った事なんざ、一度もねぇ。
なのに、何故だ。銀時」
「ナニ?祝言挙げたはっかで、イヤんなっちゃった?」
「そんな話しじゃねぇ!!」
土方の怒鳴り声に全員が振り返り 土方を見詰めた。

「なんだ?トシ?何を怒鳴っているんだ?」
近藤の問い掛けに土方は
「済まねぇ、何でもねぇよ」
と 謝った。
銀時は土方の手を握り
「ごっめんなっさ~い。
ついヤボな悋気起こして、亰での昔話を聞いたものだから、ねぇ」
と 皆に笑い掛けた。
「オイオイ、そんな話ししてんじゃないよ?
そりゃぉトシは妓にモテたよ?
どの小路歩っててもさぁ、良家の息女から玄人の妓まで?
いっつも良い女に声掛けられ捲くりでな、羨ましい事山の如しだったぞ。なぁ?みんな?」
一同を振り返る近藤に
「アンタがキズ広げてどうすんだァァァァ!!
余計モメんだろーがァァァァ!!」
新八にツッコミ入れられた。
「あ…すまん!ホント、すまん!」
近藤は平謝りし 隊士達は笑う。
「へぇ?やっぱ、ねぇ?
イヤだなぁ、亰の町歩ってたらさぁ、アンタの昔の妓とかにぃ、出くわしちゃうんじゃないのぉ?」
銀時は妖艶な視線を土方に向け笑う。
「銀時、オメーは、相変わらず事を有耶無耶にしちまうのが上手いなぁ。
だが、今日だきゃあ、乗らねぇ、引っ掛からねぇ。
高杉ごときにオメーの命、くれてやる訳にゃあ、いかねぇからな」
土方は真剣な表情で銀時の頬を撫で 視線を合わせた。
「イヤだねぇ、目出度い席で、ンなマジな顔しちゃってさぁ。酒飲んでバカ騒ぎしてりゃあ良いのに。だから、アンタはバカだっての。
バカだし、クソ真面目だし、どんだけ愛されてんだろうって、思うよ。
だから、アンタに惚れたんだって、つくづく感じるよ。
ああん、もう、メロメロです」
銀時は頬染め 土方の手に頬擦りした。
「オメーに惚れて、抱き合った時っから、俺ァバカなんだよ」
二人は 全員が見ているのも構わず 見詰め合い 口付けを交わした。
「トシぃ?二人っ切りじゃないんだよ?
もう、休んだ方がいいんじゃないの?」
口々に囁かれる 文句を無視して 二人はイチャイチャしていた。

 

 

 

 

 

 


「俺のせいだな」
土方は呟いて 銀時を抱き寄せた。
「攘夷戦争にヤツも加わっていたんだな。
今のオメーは攘夷活動にゃあ、一切関わっちゃいねぇ。
だが、高杉や桂は、テロリストと呼ばれながらも、未だ攘夷戦争を続けている。
昔、命を懸け共に戦って来たオメーが、何もせず、のらりくらり暮らし、今や、敵である幕府側の俺と祝言を挙げた。
そうなりゃ、オメーも、ヤツにとっちゃ、敵だ。
因縁がありゃあ尚更、命を取りてぇだろーよ」
「そういう事だねぇ」
銀時は土方に寄り掛かり笑う。
「暢気だな」
土方はその銀時の髪に頬を寄せ 躯を引き寄せる。
「高杉はさぁ、もう、何でも良くなっちまったんだよねぇ…
手当たり次第、ぶち壊しちまいたいんだよ。
自分が信じていたものを潰され、頼り、縋り付いていたものを、無にされた。
その怨み辛みを幕府に人間に…
嫌いな、天人の力を利用してでも、誰にでも良い、ぶつけたいんだ。
皆、壊しちまいたい……
ただ、それだけなんだよ。
ヤツの心の中にゃあ…
黒い獣が住み着いてるんだと…
そいつが、咆哮上げて…
鳴き止まねぇんだと……下らねぇ…」
銀時はフン!と鼻を鳴らす。
土方は銀時を抱き直し 膝に乗せて自分の方を向かせる。
「なぁ、銀時、
高杉は間違いなく、オメーの命を狙う。
俺ァ、上様を警護しなきゃならねぇからな、四六時中、一緒にいる事ァ、出来ねぇ。
いざってぇ時、志村や神楽じゃあ、高杉は倒せねぇだろう。
まして、ガキ共を楯になんざ、オメーにゃあ出来ねぇ芸当だ。
そんな事をするくれぇなら、何があっても生き抜くと決めた信念を曲げても、オメーは死を選ぶだろう。
ならば、自分の死は自分で決めろ。
戦って死ね。銀時」
土方は笑って銀時の頬を両手で包み口付けた。
「ああ、トシ…」
銀時は土方を抱き締めた。
「オメーにやる。和泉守兼定。
数々の死闘を潜り抜けて来た、俺の護り神だ。
オメーを護ってくれるだろーよ。
なぁ、銀時」
土方は常に傍らに置いている兼定を掴み 銀時に差し出す。
「いらねぇよ。んな大事なモン」
「今の俺に、オメー以上に大事なモンはねぇ」
土方は銀時の胸に兼定を押し付け 銀時は兼定を懐に抱いて呟く。
「トシ…」

[アンタ、マジなんだ?
真撰組以上に俺を大事に思ってんの?
俺ァ、ンナの、望んでねぇよ?
ケド、大事に思ってくれて…
そう言ってくれて、嬉しいよ、トシ]

「んな事言うなよ。惚れ直しちまうだろォ?
大事だってぇ、俺ァ何があっても死なねぇよ。
必ず生き抜く」
銀時は笑って土方を見る。
「ああ、そう言うと思ってたよ、銀時」
土方は笑い返し 銀時を抱き。
「もう、寝よう」
と 口付けた。
銀時は傍らに兼定を置いて 刀をそっと撫でる。
「銀時」
二人は横になり 銀時はいつもの様に土方の腕の中。
いつもなら ウトウトしだす銀時に 眠る気配は無かった。

しばらくして 銀時は土方の上に伸し掛かり 口付けながら 寝間着を脱ぎ 土方の寝間着も脱がした。

裸の胸を押し付け 土方の頬を撫で 唇を這わし 舐め上げる。
「興奮してんなぁ」
「ンッんっ」
土方の股間に顔を埋め 口腔内で男根をねぶり 舌を這わせ 吸う。
「いい、来いよ」
土方は銀時を引き上げて
「銀時ん中でイキてぇ」
囁く。
銀時は何もしなくても 充分に受け入れられる位に濡れていた。
「う・うん…」
銀時はゆっくりと土方の男根に女陰を宛がい収めていった。
「フ…ンッハァン…」
「ああ、いいぜ、」
銀時は腰をくねらせ 少し浮かせては落とす動きで躯を揺らし 喘いで
「…ンアッ…悦いッ!
…ンッんんッ…イクぅ…ハァン…ぁん…」
と 膣を痙攣させながら 土方の上に倒れ込む。
「オイ、大丈夫か?最近、すげぇ早ぇえなぁ」
男根を刺激するヒク付きを感じながら土方は 銀時を抱き上げ そっと下に敷く。
「動いても、いいか?
あんま、激しくねぇ様にするからよ」
土方は銀時の涙を拭い 口付けながら ゆっくりと蠢き始める。
「ンアッ…アン…トシぃ……
悦い…激しく…シテぇ…ハァン…
めちゃくちゃ…してぇ…トシぃ…」
「銀時」
腰をくねらせ蠢めかせ 銀時は土方を強く抱き締めた。
「お、お願いッ…」
土方のほんの少しの強めの蠢きだけで 銀時は躯を震わせ いき果てる。
「…ハン…アンッ…んんッ…
トシぃ…トシぃ…もっとぉ…」
「オイ、もう無理だろ」
「イヤ…もっとぉ…シテぇ…」
緩く腰を揺する銀時に笑って
「オメー、知らねぇねぞ?」
土方は両足を腕に掛け 大きく開かせ 腰を打ち付けた。
「ひぅッ…あっあっ…
悦いッ……悦いぃ…トシぃ……」
「ああ、悦いぜ、銀時、ヒク付かせて、またイッたのか?」
銀時は肩で息をし 全身を痙攣させ 涙ながら 喘いでいた。
「ホラ、イケよ、まだ足りねぇんだろ?」
器用に俯せ銀時の背中を撫で 尻を持ち上げ土方は突き上げ続ける。
「ンァッ…んんッ…ぅあん…」
後ろから鷲掴みにした乳房を揉みしだき 乳首を強く捩り 肉芽を爪先で弾く。
「…ひぅッ…ンアッ!
ンッ…トシぃ…も…もっとォ…」
「オメー、キューキュー締め付けんなよ」
「イッ…うぁ…」
尻に差し入れられた指と 男根が薄い肉の壁を擦り付け 銀時に悲鳴を上げさせる。
苦痛では無く 快楽の絶叫を。
「出すぜ」
土方は激しく動き 男根を突き上げ 精液を銀時の胎内に迸しらせた。
「ふぅ…銀時」
銀時は全身を痙攣させて グッタリとしていた。
「…ト…トシぃ…」
銀時を抱き寄せて土方は囁く。
「眠れ」
「…ん」
擦り寄る銀時。
優しく髪を撫でながら 土方は愛おしげに囁く。
「ゆっくりとな…」
「…ん…」
深く眠りに就く銀時の涙を唇で拭い 土方は瞼にそっと口付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めた時 土方の隣に銀時の姿は無かった。
土方は慌てて寝間着を羽織り 部屋を飛び出す。
その廊下の先に新八が座っていた。
「おはようございます。土方さん」
「ああ、済まねぇ、ちょっ」
土方は新八を避けて先に行こうとする。
「土方さん!銀さんなら道場に居ます」
新八は片手を挙げ 手の平を向け 停止を促した。
「何?」
土方は大きく息をし 乱れた息を整えた。
「一人か?」
「いいえ、沖田さんが一緒です」
「総悟が?」
「はい」
新八は立ち上がり 急ぐ土方と道場へ向かった。

 

銀時と沖田は 互いの目を見詰め合っていた。
ピンと張り詰めた緊張感が 二人を包んでいる。
ジリジリ間合いを詰め合い、一刀を繰り出すタイミングを計っていた。
「何時からあの状態だ」
「10分は…」
「そうか」
土方は隅に胡座かき 様子を見守った。

銀時は下段に 沖田は正眼に構えていた。
銀時が僅か右に動けば 沖田も右へ。
沖田が動けば 銀時も同様に動く。
間合いはジリジリと詰まり
痺れを切らした沖田が斬り込んで来た一刀を 銀時は下段から受けて流し 返す刀で上段へ 逆袈裟掛けに斬り返した。

「それまで!!」
新八の声が響き渡る。
銀時は刀を収め 床に正座し礼をした。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
沖田も同様に礼を返した。

銀時は目を閉じ呼吸を整え 精神統一を行う。

乱れた呼吸を整えて 心のザワめきを鎮めた。

静かに立ち上がる銀時の傍らに立ち 土方は
「黙って居なくなるんじゃねぇよ」
と 袖で銀時の額の汗を拭った。
「ああ、ゴメン。
ちょっ、自分を試したかったんです。
新八に袴借りに行ったらさぁ、沖田くんが居たから、そいつも借りちゃった」
笑う銀時。
「チッ!
朝っぱらからイチャこいてんじゃねぇよ」
沖田はそう言ってから
「アンタ、やっぱ強えぇ。男女関係ねぇ強さでぇ」
と 鼻息荒く言う。
「ありがとねぇ。
沖田くんはさぁ、間合い詰めて戦うよか、切り込んでった方が合うよね」
「斬込み隊長だからな」
土方は笑う。
「だいてぇ、何だって祝言挙げたばっかの人が、真剣で試合たがるか…俺ァ分からねぇ。
土方さんに不満があんなら、当人にぶつけて下せぇ」
「不満なんて無いよ?
惚れ直しちゃうくらい男前だもんね」
ご機嫌な銀時に土方は頷き
「気ぃ済んだか?」
と 聞いた。
「ちょっとは?
ホントはトシとやりたいんだケド?」
銀時はニッコリ。
「俺かぁ」
土方は どうするかな?と 思案顔。
「止めときなせぇ。
新婚早々、夫婦喧嘩ってぇ、思われやすぜ」
「そうですよ。銀さん、正直、沖田さんと試合した意味も不明です。何かあったんですか?」
「ん?別に意味なんてねぇよ?
なんつうの?最近大人し過ぎて?
鈍った感じすっからさぁ。ま、そんだけ?」
「だからって真剣でやる事、無いじゃないですか」
「そっね、沖田くんありがとねぇ」
銀時はニッコリして 手を振った。
「銀時、俺の休みは今日だけだからな」
「んじゃ一緒に風呂入ろっか?んでぇ、どっか行く?」
「ああ、良いな」
道場から出て行きながら イチャイチャする二人を見て
「なんでぇ、ありゃ。
イチャイチャ見せ付けに来たのかぃ。チッ!」
沖田は文句を付ける。
「まあまあ、沖田さん。
一度銀さんと手合わせしてみたかったんでしょ」
新八は宥めながら 手拭いで沖田の汗を拭く。
「まぁなぁ、しかし、あの人ぁ、強えぇよ。
負ける気はしねぇが、勝てる気もしねぇなぁ」
「どっちですか?相打ちって事ですか」
「だねぃ。って事で、俺達もイチャここうぜぃ」
「イヤ、もう充分ですから」
「えん?」
「なんで疑問形?昨夜、散々ヤったじゃないですか」
「チェッ!」
「残念がらない!」

 

 

 

 


「志村のヤツぁ勘が良いなぁ」
「だねぇ」
二人は宣言通り 風呂に入りながら話しをしていた。
「ケドさぁ、帯刀して歩くって訳にゃあ行かないよねぇ」
「ああ、そうだな」
「そっ、女だからさぁ」
「だなぁ…
女の格好じゃなきゃ、イヤ、それも絡まれる元か?」
「高杉に絡まれるよか、その辺のヤロー共に絡まれるのが、ナンボかマシ?」
「ヤツぁ、強えぇのか?」
「そうねぇ、俺のが強いケドぉ」
銀時はニッコリする。
「そうか。って事ァ相当強い。女の身で、勝てるのか」
「さぁねぇ」
「勝算はねぇって事か」
「無いねぇ。ま、ただ殺られるつもりもねぇよ?」
「ああ、オメーはそんなタマじゃねぇ。覚悟しとくよ」
「何の?何の覚悟?
死なねぇって言ってんじゃん?
死んじゃう想定しないてくんない?」
「ああ、済まねぇ」
「済まねぇじゃねぇよ?」
「悪かったよ」
膨れる銀時の頬に口付け土方は笑う。
「さぁ、長風呂は良かねぇ。
終いにしてどっか行こうぜ」
「あ、辻利の抹茶パフェ食べたい」
「あそこぁ甘味屋だろーが」
「そ~だよ?甘味屋だよ?それがナニか?」
不思議とばかりに言う銀時に 土方はちっさい溜め息。
「んじゃ、行くか」

 

 

「コレでどうよ?」
銀時はトレードマークの黒シャツにパンツ いつもの渦巻き模様の着流し姿で聞いた。
「オメー、んなモン持って来たのかよ」
呆れ顔の土方。
「やっぱコレねぇと、らしくねぇっての?」
「そうか?オメー、正直言うけどよ、ソラ歌舞伎者だろーよ。
つーか、その乳仕舞えや」
相変わらず胸は ほぼ丸見えだった。
「男装の麗人ぽくね?」
銀時は胸を両手で挟んで プヨンプヨン中央に寄せ遊ぶ。
「ああ?ナニ歌舞いた事言ってんだ?
格好も歌舞伎者なら頭ん中もか?」
「かぶき町に住んでんだから、かぶき者です!
つーか、テメェ失礼だろ?アホ扱いか?俺ァアホ扱いなのか?」
「アホ以外の何者でもねぇよ!アホ!
だから、乳仕舞えっつってんだろーがッ!」
「チッ!」
銀時は舌打ちしながらファスナーを上げ胸を隠す。
「なんで、乳仕舞って、よりエロく、なんだ?」
土方は銀時の身体のラインを見詰め呟く。
「よりナイスバディを強調してます!」
「アホが……
直してまで着てぇのか?ああん?」
「うるっせぇよ!んなの俺の自由じゃね?
オメーに関係なくね?
つーかオメー本当はコレ着たいんじゃねぇのぉ?」
「ケッ!
んなモン着るくれぇなら、パンツ一丁のがどんだけマシか知れねぇ!」
「ナニを?テメェ俺をバカにしてんのかッ!
コルァァァァァア!!」
いつの間にか怒鳴り合いの喧嘩に発展する二人。

ドタドタドタドタドタドターーーーーー!!!!

と 走り来る足音。

スパーーーーーーーーーン!!

と 障子が開き
「うるせーよ!!
新婚早々喧嘩してんじゃねぇよ!!」
と 新八が怒鳴り込んで来た。
「ナニぃ?
夫婦喧嘩は犬も食わねぇって、かの有名な戦国武将、織田信長も言ってんだ!
新八ごときが口出しすんじゃねぇ!」
「織田信長がンナ事言うかァァァァア!!
アンタ間違ってるよ!!
ンナのどっかの誰かが言った諺だろーがァァァァア!!
つーか何だ!新八ごときって!!」
食って掛かる新八に 銀時はいきなりトーンを変えて聞く。
「新八くん。ナニ怒ってんの?
ね、ね、この人がさぁ、俺の事ぉ、歌舞伎者ってぇ言うんだケドぉ~どうよ?」
「はぁ?」
新八は銀時の全身を見て
「フツーです」
と 答え 土方は驚き顔で聞き返す。
「オメー、コレがフツーに見えんのか?目ぇ悪ぃだろ?」
「悪いですよ。見りゃ分かるでしょ?メガネ掛けてるんですから。
目が良ければメガネなんて掛けてませんよ」
真剣な新八。
「イヤ、意味違うから」
「アンタらがモメてどうすんの?
ハイ!新八くんありがと~!喧嘩しないよにします!」
「もう、ホント、お願いしますよ?
みんな心配してますからね?」
「は~い!」
銀時は聞き分け良く返事して笑って手を振る。
「お出かけですか?」
「ん?ぱふぇ食べにね?」
「そうですか。じゃあ、お気を付けて」
新八は来る時とは別人みたいに静かに出て行った。

 

「どうだったぃ」
戻って来た新八に沖田は 腰に刀を差しながら聞く。
「銀さんの服の事で揉めてました」
「服?」
「ええ。銀さん、久しぶりに、何時もの服を着てましたよ」
「ふ~ん」
沖田は新八を見る。
「間違い無く」
新八は深く頷いた。
「んじゃ、行くかぃ」
「はい」

 


「んっまぁ~い」
銀時は目の前に並べたパフェや善哉等を
一つずつ平らげながら 幸せいっぱいの顔をする。
それを見て土方は笑う。
幸せそうな銀時を見て 自分も幸せな気分になっていた。
「ホント、オメーは甘いモン食って時ゃ、幸せそうだ」
「うん。でもアレだよ?トシと居る時もホラ?
ナニ?アレだよ?幸せだよ?」
「んな、ついでみてぇに言わなくても良いぜ」
「ついでじゃないよ?ホントだからね?」
「ああ、分かってるよ」
土方は笑う。

 

「LOVE×2じゃねぇかぃ」
「ですね」
「益々怪しいぜぃ。
ありゃあ、土方さんの愛刀、和泉守兼定」
「それを銀さんが差している」
「ああ、今朝振るったのもアレでぃ。土方さんが兼定を旦那に預けるなんてなぁ、何もなきゃ考えにくいぜぃ」
「沖田さん、やっぱり銀さんに、何かありそうですね」
「ああ、面白ぇモンが見れりゃあ良いけとなぃ」
新八と沖田はそう言って 銀時と土方が仲睦まじく甘味処でデートしている様子を見守った。

 

 

 

 

 


―祇園―

「土方はんやわ~」
「ほんま、土方はんや」
「土方はん」
「土方はん」
「どないしてはりますのん?」
「久しぶりやわ~」
白塗りの美しく着飾った祇園の妓達が 土方に群がって嬌声を上げていた。
銀時はその様子を眺めながら 改めて土方のモテっぷりを思った。
何年も亰を離れていたのに 忘れないなんて。
「なぁ、うちの事揚げてぇ」
「うちかて土方はんのお座敷いきたいわぁ」
土方は困った顔をし 銀時ん見る。
「済まねぇが、アンタらと遊んでる暇ぁねぇんだ」
「いけずやわぁ」
「ほんま、そない事言わんと、なぁ」
「土方はんのお連れさんどすか?」
「あ、ああ、そうだ」
「へぇ、えらい別嬪さんどすなぁ」
「ほんまやわぁ、せやし、大女やし」
「ほんまやわ~」
妓達は揃って笑った。
「怖い妓さん達だねぇ」
銀時は笑う。
「トシ」
妓達は土方を取り囲み 銀時に睨みを効かせた。
「悪ぃ、手ぇ離してくれ」
「いけず~」
「トシ?」
銀時はチラリと土方を見る。
妓達に囲まれ困っている土方が気に入らない。
「銀時、」
「先帰ってるよ」
銀時は片手をヒラヒラ振って立ち去ろうとする。
「待て、」
「アンタさぁ…まぁ…いいや。じゃ…」
銀時は踵を返し サッサと歩き出した。


祇園を歩いていて 本当に土方と知り合う妓達と出会うとは 思いもしなかった。
しかも土方は銀時を自分の女房だと告げなかった。
何故?
複雑な心境だった。
男の時はどうでも良いと思ったかも知れないが 女の今 土方の曖昧な態度が嫌だった。
不満だった。
昨日 祝言を挙げたばかりだというのに…
土方は後悔しているのだろうか…
「はぁ、」
銀時は溜め息一つ吐いて黄昏れ時を一人 歩いて行った。

 

 


フト、立ち止まる銀時の後ろに 共に立ち止まる気配。

笑い声…

「よう、銀時…。ちっと見ねぇ間に、随分と別嬪になったじゃねぇか。クックックッ」
煙管片手に笑う高杉。
「ありがとよ。テメェは相変わらずみてぇだな」
「フン、テメェはのんべんだらり、生活してたせいで、腐っちまったみてぇじゃねぇか…
なぁ、銀時」
高杉の吐き出す紫煙が漂う。
「オメーに言われたかねぇや…
腐ってんのはテメェだ、高杉」
「そうかよ。
テメェは立派な銀狼だと思ってたがなぁ
何処のノラとも知れねぇ幕府の狗なんぞと番いやがって
松陽先生が知ったら、さぞかし哀しむだろーよ」
「死んだ人の事言われてもねぇ…
んな細けぇ事ぁ気にもしねぇだろーよ。
でなきゃ、とっくに化けて出て来んだろーよ」
「化けてなぁ…クックックッ…
良いのか?大事な旦那ァ、妓共に盗られちまった。なぁ、銀時」
高杉は刀に手を掛ける。
「高杉、そうそう同じ手にゃあ引っ掛からねぇよ」
銀時は高杉の腕を取り笑う。
「ああ、そうかい。そりゃあ、俺もだ」
高杉は笑い返し もう片方の手を銀時の顔に向けた。
握られていた麻酔を噴霧され 一瞬で銀時は高杉の腕に崩折れた。
「クックックッ、ざまぁねぇなぁ、銀時」
高杉の笑い声だけが残った。