銀色の夢【大江戸篇】 参

―翌朝―

「おはようございます」
山崎は一声掛け、反応が無いので、障子をほんの少し開けて部屋の中を覗いた。
「二人共、グッスリ寝てるや、副長この二三日ちゃんと寝てないからね」
山崎は静かに障子を閉めて土方の部屋から去って行った。

 

 

「ん、だよ、寝過ぎちまった」
土方は呟いて起き上がり時計を見る。
「10時過ぎてら、」
チラッと隣の蒲団で眠る銀時を見る。
「こんな、寝相良かったか?」
呟いて土方は銀時の頬に触れ、一人頷く。
「朝メシまだあっかな」
土方銀時を残し食堂へ向かう。

 


山崎の配慮で残されていた朝餉を、心置き無くマヨテンコ盛りにして掻き込み、煙草を立て続けに5本吸って

お茶を飲み、一息ついてから、土方は部屋へ戻って行った。

 

銀時は出て行った時と同じ状態のまま、寝入っていた。

 

寝ているなら、無理に起こす必要も無いと判断し、土方は事務所に書類を取りに行き

溜まった書類仕事を部屋に持ち込んで片付け始めた。

片時も銀時から離れない様にしていた。

 

昼になり、見回りから戻って来た沖田が顔を出す。
「お疲れさんでぇ、土方さん、」
「おう、どうだ?市中の様子は」
「何等変わりありやせんや。
それよか、旦那ァ、どうなんでぇ」
「寝たきりだな」
「大丈夫なんですかぃ」
「さぁな、寝てんのを無理に起こすのもなぁ」
「なんでもなきゃ良いですがねぃ。ピクリともしねぇじゃねぇですか」
沖田はジッと銀時を見る。
「呼吸はしてるぜ」
「確かにねぃ。昼餉はどうしやす?」
「まだ良いや」
「んじゃ」
「おう」
出て行く沖田のセリフが気になり、土方は銀時の様子を伺う。
「銀時」
名を呼び、頬に触れ、顔に掛かる髪を撫で上げる。
「銀時、オイ、」
抱き起こし、軽く頬を叩く。
それでも銀時は無反応だった。
「なんで起きねぇ」
全身を揺さ振り名を呼び続けるが、銀時の目が開く事は無かった。
「チッ!」
土方は舌打ちして銀時を寝かせ、急ぎ携帯を掴んだ。


「真撰組の土方だ。
良順先生は居るかい?
至急往診願いたい」
『どうした、土方』
「うちのヤツの様子が変なんだ。揺すっても、叩いても、起きやしねぇ」
『うむ、呼吸や脈拍はどうだ』
「してる、脈拍は…
弱いってぇより、静かだ。
全く寝てる様にしか見えねぇ」
『うむ、私はしばらく手が離せん、様子を看ろ。
今や、薬が馴染み切る所やも知れん』
「分かった」
『土方』
「なんです」
『落ち着け』
「ああ、落ち着いてるよ。
こいつは寝てるだけだ」
『そうだ。心配する事は無い』
「ああ、それでも、手が空いたら、診てやってくれ」
『承知した』
土方は電話を切り、掴んだままの銀時の手を蒲団の中に入れた。
「参ったなぁ」
そう呟き、再び机に向かった。

 

 

 

 

 

―万事屋―

ガラリ

「ただいまヨ~!」
元気良く神楽と定春が入って来て立ち止まる。
「銀さん、ただいま帰りました!」
後から入って来た新八は、辺りを見回し
「ギャ――――――ッ!!
なんだこりゃァァァァァァッ!!」
叫ぶ。
志村家から戻った新八と神楽は、悲惨な状態の万事屋を見て大騒ぎ。
飲み散らかした酒瓶があちこちに散らばり、机や箪笥の引き出しは、引っ掻き回され

中身が一面にブチまけられた状態で、まるで泥棒が入った後の様だった。
「どっ、泥棒!?」
神楽は酢昆布カジカジ。
「銀ちゃんは?銀ちゃんドコ行ったアル?」
「ハッ!銀さん!」
「マヨよ、マヨラー土方は?どしたアルか?」
「そ、そうだ、土方さんに電話!」

 

 


―真撰組・屯所―

書類を片付けている土方の携帯が震える。
手に取り土方は、相手を確認した。
万事屋の番号だった。
「おう、志村、帰ってたのか」
『土方さん!大変なんです!家中メチャクチャで!銀さんが、銀さんが居ないんです!!』
慌てた様子の新八に
「家中メチャクチャ?」
と、聞き返す。
『ええ!泥棒が入ったみたいで、凄い事に』
「ああ、そりゃあ、銀時が暴れたんだ。
銀時ならここにいるぜ」
土方は寝た切りの銀時を見詰め答える。
『暴れた?ここって、銀さんどこにいるんですか?』
「ああ、悪ぃ、屯所だ」
『真撰組の屯所にいるんですね?
ああ、良かった。
そこにいるなら良いです。
家中メチャクチャだし、様子の変だった銀さんはいないし、どうしたのかと思いましたよ』
「済まねぇな、銀時のヤツァ、訳有って今は動けねぇ、」
『具合でも、悪いんですか?』
「ああ、今は寝てる。どうする?来るか?」
『はい。片付けを済ましたら伺います』
「んじゃ、ちょっ、頼まれてくれ。
銀時の、女物の寝間着と着物を持って来てくれ」
『女物?まさか、また?』
「ああ、そう言う事った…
済まねぇが頼むよ」

 

「銀ちゃん土方の所アルか?」
「うん。コレ…銀さんが暴れたらしいよ。
もう、何があったんだよ!!
片付けするから、手伝ってよ、神楽ちゃん」
「いやアル」
「オイィィィィィィイッ!!!
僕ん家でも何もせずゴロゴロして大メシ食ってただけだろォォォォ!!
何かしろよォォォ!!」
「ワタシお客様ね!
ゴロゴロ当然ある」
エラソーに言う神楽。
「じゃあな!言うけど!客なら客らしく遠慮しろよ!」
「遠慮とビンボーしない、ソレ、ワタシのポリシーね!」
「ってアンタ!ビンボーしてんじゃん!!既にポリシー破ってんじゃん!!」
「チッ!うるせーヤツだなぁ、新八ィ!しゃねな、手伝やいいんだろ?
チッ!手伝ってやるよォ!」
「チッ!って、アンタ!
フツーに喋ってんじゃねぇかァァァァァァ!!」
「うぜぇよ!」
「何をォォォォ!!」
二人は怒鳴り合って、溜め息吐くと、ぶつくさ言いながら、片付けを始めた。

「そう言えば、銀さん、また女の人になっちゃったらしいよ?」
「マジでか!?」
「うん」

 

 

 

 

 

 


「銀時、志村から電話あったぞ。オメー派手に暴れて出て来たみてぇだなぁ」
土方は言いながら銀時の頬を撫で、銀髪を弄び
「片付けしたら、こっち来るってよ。
なぁ、銀時、ヤツらが来たら、何て言ったモンかなぁ」
指先に絡んだ銀髪を唇に当て口付け、愛おし気に頬をすり寄せる。
「なぁ、銀時」

銀色の夢 十四

 


「土方さん、良順先生がいらっしゃいやしたぜ」
「おう、通してくれ」
「待たせたな」
「いや、忙しい所、済まねぇ」
「良いって事よ」
松本医師は笑い、診察の準備を始めた。
「ちょいと、出てろ」
「ああ、」
土方は部屋を出、廊下に佇む沖田を見る。
「土方さん」
「ああ?」
「旦那、目ぇ覚まさねぇままだったのかぃ」
「ああ、ありゃあ、あんな寝相良かねぇのにな、ほっといた」
舒に煙草を取り出し吸い付ける。
「俺が言わなきゃ、気付か無かったのかぃ」
「だなぁ、なんだろな、安心しちまってた」
フーッと吐き出す白煙を目で追う。
「安心たぁ、なんでぇ」
「さぁなぁ」
いやに冷静な土方に、沖田は肩を竦め。
「ま、いいや、俺にゃあ関係ねぇ事って」
呟き、立ち去ろうとする。
「総悟、後で志村と神楽が来る。直ぐ部屋に通してくれ」
「はいよォ」
沖田は頷き去って行った。

 

「土方、良いぞ」
しばらくして松本医師から声が掛かり、土方は部屋に戻る。
「どんな様子です?」
「まぁ、簡単に言やぁ、冬眠みてぇなモンだな」
「冬眠?こいつはクマか?」
「アハハ、前に飲んだのとは、種類が違う薬だからか、馴染みが悪かった。今や薬は全身に染み入ったろう。
心配せずとも、放っておきゃ目覚める」
「目覚めたら、完全な女になってんのか…」
「ああ、そうしたら今まで通りの生活に戻れるだろう」
「そうか、分かった」
土方は銀時を見詰める。
「なぁ、土方。
お前の嫁さんは、どんな生き方をして来たのかね」
「?」
松本医師の言葉に土方は不思議顔。
「イヤ、何、こいつの全身は傷だらけだ。
全て刀傷、命に関わるモンばっかりだ。
さぞや数々の武勇を立て、命を白刃の元に曝して来たんだろう。
そんなヤツは、そう居ない。
こいつは侍だったのか?」
「ああ、波乱に満ちた人生なんだろうよ。
まぁ、今も波乱含みか…
過去を知っちゃいねぇが、ンな事ァ、どうでもいい。
俺ァ、これからのこいつの人生を支え、出来るだけ、共に生きて行くだけだ」
「そうか、そうだな」
「ああ、、先生、わざわざ済まなかった。
色々、勝手が違うモンで慌てちまった」
「なぁに、構わんよ。
お前の嫁さんは強い精神の持ち主だろう、何事にも負けやしないだろうよ」
「ああ、分かってる。ありがとうな、先生」
「何々、また、何かあったら呼べ、
その為のお抱え医師だろう」
松本医師は笑い、土方と共に玄関へ向かう。


「松本医師のお帰りだ。お送り差し上げろ」

 

 


夜遅くなって新八と神楽は、真撰組の屯所を訪ねた。

 

「土方さん、新八とチャイナが来やしたぜぃ」
「おう、入れ」
「失礼します」
新八はソッと障子を開け、神楽は足早に銀時の元へ。
「銀ちゃん、どしたアル?ピクリともしないヨ」
神楽は土方を振り返る。
「銀さん、寝た切りなんですか?」
新八は土方に詰め寄る。
「ああ、昨夜っからな。医師が言うには、クマの冬眠みてぇなモンらしい」
「冬眠って、なんで?何があったんです?」
「天性薬のせいだ」
土方と新八が話しをしていると、掠れた声を上げ、銀時は囁く。
「ん…と、トシ、みず…」
「銀ちゃん」
「あ、かぐ…ら」
土方は銀時の傍らに行き抱き起こして、吸い口を唇に当てる。
「ングッ…ンッ…」
「慌てるな、ゆっくり」
銀時は音を立て水を飲み。
「た、たりな…」
呟く。
土方が取り上げた2Lペットボトルを引き寄せ、銀時はそのまま直に口を付け、水を飲み続けた。
「オイ、ンな急に飲むヤツが…」
「ぷはッ!!生き返るぅ!」
2Lの水を飲み干した銀時は微笑み土方を見詰めた。
「どうだ、調子は」
「良く寝た」
「そうか」
笑う土方に銀時も笑う。
「銀さん」
「銀ちゃん」
新八と神楽は心配気に銀時に詰め寄る。
「来たの?」
「ええ、今しがた。いったい、何があったんですか?」
「ん?アレだ、アレ?天性薬の?副作用なの?」
「なの?って、聞かれても分かりませんよ」
新八は困った顔をする。
「ソレで女に戻ったアルか?
銀ちゃん、前の時より、死にそうヨ」
「本当ですよ!もう、前の時のお気楽さが、無い再会じゃないですか」
「ほんとアル」
「色々あんの、大人の事情ってのが…」
「だいぶ良いみてぇだな、昨夜っから一日寝た切りだったからな、正直、どうしたモンか、考えてたが

夕方に良順先生が診察してった」
「うん、で?」
「薬が馴染んだらしい」
「そう、分かった」
銀時の表情は穏やかで静かに微笑みを浮かべていた。
「薬が馴染んだって、完璧な女の人になったって事ですか?」
「ああ、そうなるな」
笑う銀時に新八も神楽も笑う。
「そうですか、今更、何が起きたって大した事無いですよね」
「そうアルな。銀ちゃんが男でも女でも、どうでもいいアル」
「マジでか!?」
「そう言う事った」
土方も一緒になって笑い、銀時を横にする。
「どうだ?なんか食えそうか?」
「ああ、食べる。
ちょっ、この二三日と違う感じ。
なんか食えそうだよ」
「そうか」
土方は笑って部屋を出て行った。

 

新八は少し小声で
「ホントの所、どうだったんですか?」
と聞く。
「ホントの所って?」
「身体の方ですよ」
「ああ、死にそうだったよ。なんも、食え無くって、吐いて、寝て、今までに無い位グダグダ?」
「死にそうだったなんて、なんで直ぐ教えてくれなかったんですか?」
「そうアル!なにヨ?死にそうて…」
「ホントに大丈夫なんですか?今も、気持ち悪いですか?」
「イヤ?全然、平気。身体が軽く感じるなんざ、久々。
ここん所、身体は重くて、誰の身体ですか?
って感じで、歩く所か、立てねぇんだモンよ
参ったぜ」
「ホントか?立てないなんて死ぬアル」
「俺ゃあ、生まれたての野生動物ですか?」
「銀ちゃん野生動物みたいなモンね!」
「ハイハイ、んで?うちの地球外生物はどうした?」
「定春アルか?」
「定春ならお登勢さんに預けて来ましたよ。さすがにここには連れて来れないんで…」
「オイ、バァさんにゃあ、定春の面倒は見れねぇだろ?」
「僕らもう少ししたら帰りますから」
そう言う新八に、戻って来た土方が
「遅いから泊まってけ。今、部屋用意させてる」
と言う。
「いえ、悪いですから」
「悪ぃ事ァねぇだろ。
銀時も暫くここで様子看るしな、その間、居りゃあ良いだろ」
「それが、片付けがまだ終わらなくて…」
「ああ、ゴメン!
俺、すげぇ散らかしっ放しで出て来たよ。
悪ぃ、悪ぃ」
「良いですよ」
「良く無いヨ!ワタシまで掃除、片付け手伝ったヨ!」
「そりゃ済まねぇ。ケドよ、そんくれぇ黙って手伝ってやれよ。
散らかした俺が言うのもなんだケドォ」
「手伝ったアル」
「あ?そうなの?ありがと神楽ちゃん」
「イヤ、手伝った?てか、余計散らかした?」
新八は小さい溜め息を吐く。
「副長ォ食事お持ちしましたよ」
山崎の声に土方は返事する。
「入れ」
「失礼します」
新八が障子を開け、入り来る山崎に挨拶する。
「軽いモンですが」
身体を起こそうとする銀時を神楽が手伝い、フラ付く身体を土方が抱き留める。
「どうぞ」
山崎は膳を差し出すと部屋を後にした。

 

少しして沖田がやって来て、部屋の用意が出来た事を告げる。
「ありがとうございます、沖田さん」
「ああ、案内するからよぅ、付いて来な」
立ち上がる新八。
「ワタシまだいるネ」
「そうかい?んじゃ、」
と沖田は新八を促す。
沖田に付いて新八は廊下を進む。
「久しぶりだなぃ」
「はぁ…」
「なんでぇ、元気のねぇ。
旦那の事ァ土方さんに任せときゃ良いんでぇ」
「そうですね」
「旦那ァ、女んなっちまったのが気になんのかぃ」
「いえ、性別はどうでも、ただ、死にそうだったって…
なのに、どうして教えてくれなかったんですか?」
真剣な新八に沖田はあっさり笑って言う。
「そりゃあ、旦那が土方さんを止めたからでぃ」
「銀さんが?」
「ああ、死なねぇってなぁ」
「そうですか…」
「ああ、旦那ァそう言う人だろーよ。
ここだ。隣がチャイナでぃ」
障子を開け新八を通し
「なぁ、新八」
と、呟く。
「はい」
新八は少し沖田を見上げ笑った。
「やっぱ、かわいいや」
「はぁ?何言ってんの?沖田さん、大丈夫?」
「ああ?大丈夫に決まってんだろぃ」
沖田は新八を抱き寄せ。
「後で来ても、良いだろぃ?なぁ新八」
呟く。
「ええ?何しに?Hする気ならダメですよ!
隣、神楽ちゃんなんでしょ?イヤです!」
「ツレねぇ事言うなぃ」
「イヤ!冷たく無いですから!」
「オメーが声上げなきゃ良いんでぃ」
「声って、アンタ!
どんだけ声上げさす気だァァァア!!」
「良いだろぃ」
「イヤ、ンッ!」
新八の口を唇で塞いで、沖田は情熱的な口付けをした。
「あっ、ンッ」
「コレだけで感じてんだ、拒否出来ねぇだろぃ」
「ばっ!馬鹿な事すんなっ!」
新八は沖田を押し退け怒る。
「馬鹿な事ったァ何でぇ、こんだけでキンタマ固くしてるのによぉ」
「沖田さん、ここ、二人切りじゃないんですよ?」
「二人切りなら良いのかぃ」
「え?まぁ、」
新八はポッと頬染める。
「やっぱ、オメーはかわいいや、新八」
沖田は再び新八を抱き寄せ腰を押し付けた。
「沖田さん訳分からないです!
つーか、キンタマぐいぐい押し付けんなァァァア!!」
「テレんなよォ、いつもみてぇに、もっとォって、おねだりしろぃ」
「出来るかァァァア!!」
沖田はニヤリと新八のキンタマを玉袋ごと鷲掴みにする。
「ギャア―――ッ!痛いってェェェエ!!」
騒ぐ新八と沖田。

「オメーらイチャイチャするなヨ!場所弁えろヨ!」
ジト目の神楽が言う。
「か、神楽ちゃん!」
「なんでぇ、ヤキモキかぃ?」
沖田は見下ろす。
「バカね!オメーらマジバカね!」
神楽は廊下に座り込み二人を見上げていた。
「い、いつから居たの!?」
「ずっと居たアル。チューしてたの見てたゾ」
「なんでぃ、旦那ァ、良いのかぃ」
「銀ちゃんご飯食べながら土方とイチャイチャ始めたヨ。
寝よ思ったら、今度はオメーらがイチャイチャね!」
「そっかぃ、んじゃ寝ろぃ」
「うん。おやすみヨ」
神楽はサッサと隣の部屋へ入って行った。


「なんでぃ、ありゃ」
「神楽ちゃん?」
「んなの知ってら、オメー俺の事バカだと思ってんだろ?」
「はぁ、」
「はぁって、新八ィ」
「アンタのせいで、神楽ちゃんに見られたじゃないか!」
「良いじゃねぇか、どうせ皆知ってんだぃ」
「ま、マジでか!?」
「うん」
「うん、じゃねぇだろォォォォオ!!」
新八は沖田にストレートを一発かましたが、避けられる。
「避けんじゃねェェェエ!!」
「痛ぇのは勘弁だぜ」
「こっちが勘弁して欲しいよ!!」
「さ、チャイナも寝た事だし、」
沖田はサクサク袴を脱ぎ始める。
「ナニしてんのォォォォオ!」
「え?」
驚き顔の沖田に新八は溜め息吐いた。

 

銀色の夢 十五

 


膝の上に抱いた銀時のフカフカの銀髪に頬を寄せ。
「なぁ銀時」
と、土方は名を呼ぶ。
「ん?ナニ?」
「こうなっちまった事、後悔させねぇからな」
「ナニ言ってんの?後悔なんざしてねぇっての。
なぁ、トシ、俺ァトシの女房になるって決めた。そう言ったろ?
だってさぁ、何があっても、トシと居たいんだよねぇ」
「昨夜、怒ってたじゃねぇか」
「怒る?ああ、アレ?アレね?ありゃあ、自分の身体が言う事きかねぇのにイラついただけだよ」
「そうか?」
「ああ、今まで、あんなに自分の身体に苦労した事ねぇからさぁ」
「済まねぇ」
「だから、トシのせいじゃねぇって、ね?」
銀時は土方の頬に自分の頬を寄せ、その温もりを感じ、匂いを嗅ぐ。
クスクス笑う銀時。
「どうした?」
「煙草、」
土方の唇に唇を寄せペロリと舐める。
「あんま、吸って無いんだ?匂いが薄い」
「ああ、オメーの身体に障るといけねぇと思ってよ」
「アンタ、この口に煙草くわえてないと落ち着かないくせにさ、苛々は身体に毒だよ。
吸やぁいいのに」
「ああ」
土方は笑って銀時の唇に唇を重ねた。
「ん」
「銀時」
ゆっくりと味わい尽くす様に舌を絡め、口腔を舐め回した。
「ンッ、ふあッ」
「いいか?」
「いいよ」
銀時は浴衣の前を広げ自分の胸を見下ろす。
土方が撫で、優しく包むのを見ていた。
解かれる帯、銀時は土方に寄り掛かりゆっくりと脚を広げた。
「もう、どんだけヤってんだろね」
「ああ?いつ迄も、だろ?」
「ああ、そうだね、」
銀時は笑って土方と向かい合い。
「なぁ、愛してるって言ってみ?」
悪戯っぽく言う。
「愛してる」
返す土方は真剣だった。
「うん。俺も、愛してる。
こんな事、誰かに言う時が来るなんて、思って無かったケドさぁ、愛してるよ十四郎」
「ああ、俺もだ」
二人は口付け、笑い合う。
互いの存在を確かめる様に、抱き合った。

 

 

 

 

 

―翌朝―

 

銀時は外廊下の縁に腰掛け、足をブラブラさせながら、新鮮で爽やかな空気を吸い

和やかな朝の陽射しを浴びていた。

 

何日振りかに自分の足で立ち、僅かながら歩いてのんびりしていた。

 

表門がヤケに騒がしく、銀時はドカドカと、外廊下を重低音響かせて走り来る白い獣を見詰める。

「お、定春」
呟く銀時。
「アン」
定春は銀時の前でピタリと止まり、銀時が差し出した手をパクリ。
「オメー、相変わらずだな、オイ!」

―スパンッ!!

「何事だ!!」
慌てて出て来る土方。
「遅ぇよ」
「おう、定春じゃねぇか、ってテメッ!ナニやってんのォォォォオ!?
また銀時噛んでんのかッ!!」
「アン」
定春は銀時の手を口から離す。
「アンタ、なんか着なって、丸出しだから」
土方は銀時に言われ自分が裸なのを思い出し
「あ?ああ、」
と、中に戻り着物を羽織って出て来る。


「定春ぅ!」
神楽が、走り来る。
「定春ぅ迎えに来てくれたアルか?」
「アン」
定春に抱き付き撫で々する神楽。
「オメー、バァさんどうした?
フリ切って来たのか?
ったく、そんなんじゃ二度と面倒見て貰えないよ?」
銀時は呟いて廊下に上がる。
「おはようございます」
「う~」
新八に引き摺られ沖田も出て来る。
「いい加減目ぇ覚ませよ!」
新八にポカリ殴られ沖田は顔を上げる。
「ぉお?なんでぃ、みなさんお揃いで、なんかあったんですかぃ?」
「なんもねぇよ」
銀時は笑って廊下に座る。
「腹減ったなぁ」
沖田は目も開けずに言い。
「ここのご飯おいしいアルか?」
と、神楽は聞いた。
「ん?フツーだぜぃ」
「フツーってナニ?玉子掛けご飯アルか?」
「?どんな食生活でぃ。
土方さん、もチッとマシなモン食わせてやって下せぇ」
「トシが来てからはマトモだけど、なぁ?新八?」
銀時は新八に振る。
「はい。そりゃあもう、今までに無い豪華さです」
力む新八。
「イヤ、んな豪華じゃねぇだろ?フツーだろ?」
困り顔で言う土方。
「オイオイ、ホント、貧しかったんだねぃ。
旦那ァ、土方さんと一緒んなって、ホント、良かったじゃねぇか」
沖田はしみじみと言った。
「ちょっ!人ん家ビンボー呼ばわり、止めてくんない?」
そう言って銀時は神楽を叩く。
「テメェが余計な事言うから!ビンボー扱いされんだよ!」
「だって銀ちゃん、うちビンボーアル。土方いない時、お茶漬けサラサラよ」
神楽は頭摩りながら言い。
「オイ、育ち盛りなんだぜ?
お茶漬けサラサラはねぇだろ」
土方は銀時を見る。
「ハイハイ、朝っぱらからビンボー自慢は良いですぜ。
んじゃ朝餉頂きに行くとするかぃ」
沖田は新八と神楽を連れ廊下を進んで行った。
「俺いねぇ時、オメー、ガキ共に、ナニ食わせてんだ?」
「お茶漬けサラサラ?」
銀時は笑って立ち上がり部屋に入って行った。

 

 

 

朝餉を済ませ、少しして銀時は、書類仕事を熟す土方を置いて庭をブラついていた。
「あんま遠く行くなよ」
「あいよ」
銀時は庭をブラブラしながら考えてみた。

[ああ、気分が良いぜ。うん。
やっとらしくなったっての?
うん、うん。
でも、アレだな、うん、アレだ。早ぇえとこ子供作んねぇと、30んなっちまうよ?
アレじゃね?
高齢出産とかになんじゃね?
ヤバイよ!
ありゃヤバイってぇ話しだよ?
色々大変だってぇじゃねぇの
イヤ?
んでもさ、無理に作ん無くったって、ねぇ?
ケドぉ毎ん日、毎晩、暇さえありゃ、ヤってんだ、直ぐ出来んじゃね?
ん?
ナニ?
って、俺が産むの?
イヤイヤイヤイヤ、ナイナイナイナイ、そりゃあ無い!
あ………
俺、女んなったんだっけ……
んじゃ、直ぐ子供出来んじゃね?]

銀時はブツブツ呟き歩き回り、後ろから土方が着いて来ているのに、全く気付かない。
「オメー、何ブツブツ言いながら歩ってんだ?」
「ん?いたの?」
「いたのってオメー、遠く行くなっつったろ?
どこ行く気だ?あん?」
「アレ?」
銀時は自分がいつの間にか、表門の前まで来ている事に気付き、辺りを見回す。
「アレレ?」
「アレレじゃねぇだろが、表にゃあ、まだ出せねぇぞ」
「ああ、考え事してた」
「部屋で考えろよ、
そのまま通りなんぞ出てみろ、轢かれるぞ」
「ああん、そりゃヤダ」
「ああん、じゃねぇよ」
土方は銀時の肩を抱き寄せ、部屋へと戻って行きながら説教したが、銀時はどこ吹く風。

 

 

 


結局、何をどう考えたところで、何も変わらず、なるようにしかならないと、結果付け、銀時は考えるのを止めた。

 

 

 


「トシの女房になるって決めたよ」
「何言ってるんだ銀時。
お前とっくにトシの女房だろ。夫婦喧嘩は家でやれよ。
喧嘩の度、屯所に殴り込みされても困る。
なんならココ住むか?」
「んなヤロー共の中じゃ暮らせません!
ムサいし、クサいし、ゴリラだし」
「ゴリラ関係無いでしょーが、」
「うん。ありがとうな、近藤さん」
「銀時が礼言ったよ。雨降るよ?槍降るよ?
一々礼なんてするな!」
近藤は豪快に笑った。
「しかし、銀時。羨ましい事、山の如しだぞ!」
「アンタも良い人、直ぐ見付かるよ。お妙以外で」
「ナニを言う!
俺はお妙さん以外の女子に興味ないぞ!!」
「イヤイヤ、ありゃ無理だから、止めとけって、もっと良い女いるって、な?」
「ヤダヤダァ!お妙さんが良いッ!!
貴女以上の女子なぞ、おりはせんよ!
俺は他の女子なぞ見向きせんよ!
家でのお妙さん!
散歩するお妙さん!
買い物するお妙さん!
働くお妙さん!
何時でもお妙さんの事しか見とらんよ!!」
「だから、アンタ、それストーカーだから…」
「結婚してくれェェェエ!!」
銀時は笑って叫び続ける近藤の肩を叩く。
「ま、頑張れ!ゴリさん、お妙以外でな!」
銀時は言うだけ言って近藤を置き去りにした。

 

 


「ありゃ一生、結婚出来ねぇよ?」
「んな事ァねぇ。近藤さんは良い男だ」
「まぁ?そうだケドォ?
お妙に固執してちゃね、アイツにその気がねぇのに?
無理だってぇ。他の女世話してやんな」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。
俺ァ一人の男に固執して今があんだぜ?
近藤さんだって、何とかなんだろ。違うか?」
「一人の男って…俺か?」
「ああ、そうだ。銀時」
「そうか。
為せば成る為さねば成らぬ何事も。って事か」
「そう言う事った」
銀時は笑い、次いで土方も笑った。

 

 

 

 

真撰組の屯所に10日程居続け、すっかり馴染んだ銀時、万事屋一行。

天性薬が浸透し、外見はすっかり女性らしくなった銀時を、誰もが土方の奥方と認識し、文句も出なくなった。

当たり前の様に屯所で過ごしていた銀時だったが、体調も回復し、今までの生活を送れる様になり、万事屋に帰宅した。

 

 


今までと違うのは、性別が変わってしまった事。

土方が万事屋で生活をする事。

銀時と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

『銀色の夢』
           終