銀色の夢【京都篇】 伍

 

 

 

 

 

昨日 銀時を連れて来た高杉は 船に銀時を置いて 河上万斉と一時下船し 今朝になって戻って来た。

 

「岡田、怪我の具合はどうだ」
高杉の問い掛けに岡田は薄嗤う。
「だいぶ良い様だよ。
白夜叉を捕まえたってぇ聞いたが、そりやあ本当かい?」
「ああ」
高杉は呟く。
「おかしいねぇ。
全く気配を感じ無いなんてねぇ。
アンタが出掛けていた昨夜は一晩中、女の悲鳴が聞こえていたがね」
「女の悲鳴?」
似蔵の言葉に高杉は内心動揺していた。
「女一人に男共が寄ってたかって嬲るなんてのは、俺の趣味じゃないんでね。
ありゃあ、アンタの指示じゃあ、無いだろうねぇ。
だとしたら、アイツ等、好き放題かい?
統率仕切れ無いなんてねぇ、アンタらしく無い、不始末じゃあ、無いのかい?」
似蔵は愉快そうに言う。
「…」
高杉の憎悪が 怒りが膨れ上がった。
「おっかないねぇ」
嗤う似蔵を置いて高杉は走り出した。

 


隠し部屋の天井の梁に架けられた縄に両手を繋がれ 裸に剥かれ 爪先立ちの宙吊り状態で 目隠しされた銀時は 足音を聞き付け呟く。

「まだ、犯り足りないの?
ねぇ?何時になったら…
水、飲ませてくれるの?
おねぇさん…
ノド…カラカラ、なんだけ、ど…
いっぱい犯ったじゃない?」

全身 精液に塗れ 薄汚れていた。

股間からは 男達の放った精液と 銀時の血液が滴り落ちている。

部屋中に精液の匂いが立ち込めていた。

「アンタ等さぁ、娘、拘引し、しちゃあ、手籠めにして…
散々、嬲って、海に捨てる…
って、言ってたケドさぁ……
アタシも、そう…すんの?
飽きたら、海に捨てるの?」
銀時の顔は真っ直ぐ高杉を向いていた。

高杉は憤りを感じていた。

あの様子では 大勢の男達に散々嬲り物にされたのだろう

酷い有様だった。

「返事くらいしなよ、ふぅ…
コチとら若かねぇんだからさぁ、何十人も相手すんの、ホネなんだケド?
穴ってぇ穴にブチ込みやがって、痛くて仕方ねぇよ?
こんな、しやがって…いっそ殺せよ…晋助」

銀時は目の前に立つ人物が高杉と理解した上で優しく笑って言った。

「嬲り殺しが目的?
女を男達の餌にするなんてねぇ…
その為にアタシを連れて来たの?
こんな事をしているなんて、誰に習ったんだかねぇ?
アンタの大好きな、先生のさぁ、コレが教えなのかねぇ…
こんな事ァ、教え無かったろ?
先生の教えを裏切ったのは、晋助、お前か?
それとも、アタシ?フフフ…」
「アハハハハハ、こいつも無視かい?
ああ、ノドが渇いた…
酷いじゃない?
こいつ等が飲ませてくれるのは、精液ばかり、水一杯貰うのに、何十人、相手すりゃあ、いいんだい?
ねぇ?晋助?」
銀時は笑っている。
紅い唇で
その口端からは血を滴らせ
嗤っている
目隠しされた その奥の瞳で高杉を見据えながら……

 

「こいつァ、酷いねぇ、嫌な臭いがするよ」
似蔵がフラリと入って来て呟く。
「岡田、似蔵?」
銀時は声を聞き呟く。
「おや?おかしいねぇ、こいつが白夜叉なのかい?
昨夜悲鳴を上げていたのは、アンタかい?
ふふん?惜しい事をしたねぇ?
アンタなら参加すりゃあ良かったかねぇ」
似蔵はクスクス嗤い
「今からでも遅く無いよ?
犯りゃあ、いいだろ?
この際、何時だって、誰だって同じさ」
銀時は声高らかに笑って言った。
「岡田…
銀時を犯ったなぁ、何人だ…」
高杉は全身から湧き出る殺気を明様に呟く。
「そうさねぇ、十人、かねぇ」
高杉のゾクゾクする殺気に似蔵はニヤリとする。
「テメェなら、誰だか、判るな?」
「ああ、判るよ」
ニタリする口元は”斬る”喜びに満ちていた。
「銀時を下ろせ」
似蔵は梁から下がる縄を抜刀して斬り 銀時は床に崩れ落ちる。
「殺るのかい?」
「うるせぇ」
「殺るなら俺に殺らせてくれないかい?
丁度良いリハビリになるよ」
「良いだろう」
似蔵はニヤリとして 部屋を後にした。
似蔵の”殺る”相手は銀時では無かった。

「銀時」
「う…うげぇっ…」
銀時な吐き出した物は 殆どが白濁した汚液だった。
高杉が帰り来る直前まで 犯されていた事を物語っていた。
縛られたままの銀時は 自ら吐いた物に倒れ込みそうになり 高杉が抱き留めた。

「テメェ、攘夷志士ってなぁ、品性のカケラもねぇ奴等じゃねぇか」
再び吐く銀時を担ぎ上げ
「風呂に入れてやるよ」
と 笑う。
「なんだ、テメェ、風呂の話しなんざしてねぇ」
「黙ってろ」
「もう、バラけてんじゃねぇか、テメェ配下のモンを纏められねぇヤツが、国を思うの、憂うだの、人の上に立とうなんざ、おこがましいんだよ。
テメェが何をしてぇのか、分からねぇ」
「もう、何だって構わねぇ、解って貰うつもりもねぇ…
全てに滅んで貰うしかあるめーよ…
なぁ、銀時…
クックックッ…アーハッハッ!」
高杉は声高らかに笑い出した。

 

 

高杉は銀時の縄を解き 風呂場に入れて
「女輪姦す様な駄目浪士は鬼兵隊にゃあいらねぇ。
岡田が粛清してくれるだろーよ。
オメーは躯を綺麗にしろ。
オメーにゃあ、まだ用があるんでな、銀時」
「風呂なんざ、必要ねぇ」
「オメーに必要無くても俺にゃあ必要なんだよ。
小汚ねぇヤツを俺の座敷にゃあ通したかねぇ」
「小汚くしたのはテメェらだろーよ。
コレでも俺ァなぁ、旦那しか知らねぇ綺麗な躯だったんだよ。
ソレをまぁ、好き放題しやがって」
「ああ、そうかい。
その旦那に俺ァ用があるんだよ。銀時」
「向こうはねぇよ」
「いいや、オメーが居る限り、
用があると思うぜ。銀時」
そう言い捨て高杉は出て行った。

銀時は目隠しを外し 躯を見下ろす。
「高杉のヤロー、俺が女んなっちまったって、何時から知ってやがる。
祝言挙げた時っから俺を見てやがった。
偶然の訳ゃねぇ……
端から知った上で、奴ァ俺を……」
銀時は疑問に思いながらも 今更考えた所で何の解決策も見当たらない事に気付き 溜め息を吐く。
静かに湯を手桶に掬い 痛む躯に湯を掛けた。
「いっ、」
手首は縄に擦られ酷く擦り剥け 躯中にある 噛み疵が酷く痛んだ。
躯中から男達の臭いがする。
石鹸を泡立て 痛みを堪え ゆっくりと躯を洗い始めた。

 


何時まで経っても風呂から出て来ない銀時の様子を見に 高杉は風呂場へ向かう。


「オイ、銀時」

ガラリ 戸を開け覗き込むと 銀時は風呂桶にひたり 放心状態でいた。
「銀時!」
高杉は銀時の名を呼び中に入って
「テメェ、躯ばかりか、心まで女んなっちまったのか?」
と しゃがみ込み銀時の顔を覗き込んで 嘲る様に言った。
「痛ぇんだよ…心も、躯も…
何人に犯られたと思ってんだよ…
それも、一回や二回じゃねぇ…」
「その件に付いちゃあ、済まねぇと思ってるよ…
俺ァオメーをそんな目に会わせ様として連れて来た訳じゃねぇ」
「そいつは結果論だ。
俺ァえらく傷付いたぜ?
なぁ、晋助、女輪姦すなんざ、外道のする事った。
高い志しを持つ漢のする事っちゃねぇ」
「ああ、その通りだ。
さあ、上がれ、飯の仕度をさせた」
「いらねぇ」
「水が欲しいんだろ?」
「いらねぇ。もう飲んだ。俺なんざ、風呂の水で充分だ」
銀時は高杉を見詰めた。
「まぁ、そう言うな」
薄ら笑う高杉を銀時は横目で睨み言う。
「なんだ、テメェ、馴れ合いみてぇな事言いやがって、拘引されて、何でテメェの言う事、聞かなきゃなんねぇ」
「いいから、出ろ」
高杉は強引に銀時を風呂桶から引き擦り出した。


「着ろ、薬だ。尻とぼぼに塗っとけ」
「…」
銀時は無言で派手な柄合いの女物の着物に袖を通し 渡された薬を女陰と尻に塗り 乳房や乳首にも塗り込んだ。
その様子を高杉は無感情に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


高杉は銀時の手足に出来た擦り傷に薬を塗り込み包帯を巻いた。

「食えよ」
高杉は料理のならんだ膳に顎をしゃくる。
「いらねぇ。どうせ、吐く」
「オメー、まさか、孕んでんのか?
あの、野良狗のガキを…」
高杉の怒りが一瞬、膨れ上がった。
「さぁなぁ、そりゃねぇだろ、
散々嬲られたんだ、孕んでりゃあ、とっくに流れてんだろ」
銀時はどうでも良い様に言った後 思い直した様に言った。
「ああ、知らねぇんだったなァ
どんなだったか、聞きてぇか?
奴等の犯り方をよ」
ニヤリする銀時に 高杉はフンと鼻を鳴らし 興味なさげに答える。
「聞く気はねぇ」
「そうかい…
んじゃ、まぁ、今すぐ殺るんじゃねぇなら、眠らせてくれよ」
「良い度胸だな」
「ああ?眠いんだよ。
昨夜寝かせて貰えなかったんでね」
「好きにしろ」
銀時は無言で高杉の寝床に寝転んだ。
その様子を眺め 高杉は唇の端を笑いの形に上げた。

[こいつァ、何も変わっちゃいねぇ。
クソ度胸の座った所なんざ、昔のまんま、イヤ、それ以上だ]

[女ってなぁ、不便ってか、憐れってか、こんな状況下じゃあ、犯される為にいる様なモンじゃねぇか…
腹腸煮え繰り返るよ
クソッ!腹立つ、ブチ殺してぇ…
この仇を似蔵に討られるなんざ、侮辱、屈辱以外の何ものでもねぇ…
どうやって、逃げる?
空じゃ…逃げ様も…ねぇか…
ちくしょ、ムカつく…]

ウトウトしだす銀時を見詰め 高杉は酒を煽った。

カラリ

「晋助」
突然入って来た万斉が聞く。
「どうした」
「それは拙者のセリフでごさる。
似蔵が甲板に同胞の屍を山積みにしているでござるよ」
「ああ、俺が許可した」
「何故?」

「ありゃあ、クズだ。
女輪姦す様な奴ァ、同胞なんかじゃあるめーよ。
この船にゃあ乗せておけねぇ」
「女?まさか…」
万斉はピクリとして
「ああ、そうだ」
高杉の寝床を見詰めた。
そこには銀時が眠っていた。
「なる程、では拙者は休むと致す」
「ああ、」
万斉は部屋を出て行き 高杉は銀時を振り返る。


「白夜叉を女子にしてこちらに抱き込むはずが、返って仇になったでござるな。
仲間内に裏切られるとは、笑える話しづござる。
坂本殿に天性薬を送って貰った意味が無いでござるよ。
当てが外れたでござるな晋助」
万斉は溜め息吐いて部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―夕刻―

目前に並べられる料理の膳に目もくれず 銀時はただ寝床にごろつく。

暫くは黙って酒を煽るだけの高杉も 食事をする様に言う。

丸一日以上 食事をしていない銀時を 特別に気遣っている訳でも無いが 食い意地の張った銀時が食事に見向きもしない事が 高杉には解せなかった。

「何故喰わねぇ…
敵から塩は受けねぇってか……」
「敵、敵ねぇ…」
銀時は起き上がり 仕方無しと 食事に箸を付ける。
各皿から一口ずつ チビチビ食べる銀時を高杉は笑う。
「随分と少食じゃねぇか」
「食欲がねぇ…ダリい」
銀時は茶を飲むと またゴロリ横になる。
高杉はそれを横目に酒を煽る。
暫くすると 銀時の寝息が聞こえ 高杉は笑う。
「クックックッ…
漸く薬が効たかよ」
更に酒を飲み高杉は銀時を見詰めた。
無防備な寝姿。
その銀時をゴロリと仰向けにした高杉は 緋色の衣の腰紐を解き 前を開く。
男達に汚され白く透く肌の上に赤や紫の花を咲かせたかの様に見える 無数の歯型が 吸引の痕が散らばる。
銀時の躯中 殆どに その痕はあった。
高杉はゆっくりと 銀時の全身を見て取り 呟く。
「良い女っぷりじゃねぇかよ」
今までに抱いた どの女より 綺麗に見えた。
美しいとさえ言えた。
高杉に男達の凌辱の痕は気にする程の事も無い 取るに足らないものの様だった。
噛じられ赤く晴れた乳首 無数の歯型。
その痕を辿り ふんわり柔らかな銀色の毛を見詰める。
両の乳房同様 噛み強く吸引した痕はここにも集中していた。
その銀時の膝を立て 大きく脚を開かせ 高杉はうっすら桃色の女陰を眺めた。
膣や肛門に裂傷の痕が残っているが 思うより 酷くは無い様に思えた。
高杉は両の花弁を開き 花芯を探り 蜜壷へ指を延ばす。
「本物の女と、何も変わらねぇじゃねぇか…」
呟くと 高杉は自らの着物の前を開け 銀時の上にのし掛かる。
銀色の長い髪を梳き 殴られた痕を 青白い肌を撫でる。
「こんなされちまっちゃ…
別嬪も台なしじゃねぇか……
なぁ、銀時…
クックックッ……」
高杉は薄ら笑い 銀時の脚を担ぎ上げ 躯を重ねた。


「チッ!
銀時相手じゃ勃つモンも勃ちゃしねぇ…」
高杉は面白くも無いと言う様に呟き 銀時から離れ 無造作に着物を掛けると 酒を煽った。

 

 

 


―翌朝―

「前方に商船らしき船影をレーダーに捕らえました!
飛行許可無登録の船です!」
「停泊命令を出せ!!」
「了解!」

 


「幕府の軍艦が近付いています!
直に停泊命令が出されます!」
「無視しろ」
「無茶です!撃墜されます!」
「しねぇだろーよ。
こっちにゃあ人質が居るんだ。
向こうも無闇やたらにゃあ攻撃できめーよ」

 


「停泊命令を無視されました!」
「あれに違いねぇ!」
「よ~し、速度を上げろぉ~い~!
何なら体当たりかぁ~ああん?
コノヤロー!!」
「とっつぁん!
そりゃあまずい!
人質救出が第一だ!!」
「んなのァ~分かってんだよぉ~ゴリラ!
んなのァなァ、一番火の気の無い所を、だったなぁ~、砲弾一発ブチ込んでェ~、停泊させりゃあ~ぁっ、いいんだよぉ~!」
「とっつぁん、頼むから、俺の嫁さんの事ァ忘れねぇでくれよ」
「わぁ~ってるよぉ~、トシ、んな事ァよぉ~!」
「ありゃあ、忘れてるぞ。
とっつぁんは短気だからな、キレたら最後、後には何にも残らないぞ」
「マジ頼むぜ、とっつぁん」

 

 

「直に向こうに乗船するぞ!
準備は良いか!!」
「「おおぉ―――――ッ!!」」
「白兵戦に持ち込みゃあ、こっちのモンでぇ。なぁ、斎藤さん」
「ああ、任せておけ!」

 

「軍艦が左舷後方より接近!
逃げ切れません!」
「んじゃァ、戦いと行くしかあるめーよ。
幕府の狗に一泡吹かせてやれ」
「攻撃開始します!!」

 

商船から放たれた砲弾を 軍艦はものともせずに接近し 甲板に待機する隊士達は乗り込む準備を既に終えていた。

「よ~し!乗り込むとするかぃ!」

沖田は意気揚々と 商船に飛び移り 隊士達は後に続いた。

「速ぇえなァ、斎藤さんはァ
ヤロー共遅れを取んなァァ!!
攘夷志士共ァ皆殺しでぇ!!」

踏み込み進む真撰組隊士の前に突如 現れた屍の山。
「なんだこりゃあァァァア!!」
甲板の行く手を塞ぐかの様な屍の山は不気味な様相を醸し出していた。

「そんな物気にするな!!
進め!!」
斎藤は隊士達を怒鳴り付け 共に乗り込んだ沖田は
「そ~ら、お出でなすったぜぃ」
ニヤリ楽しげに笑い言う。
船内から出て来た志士共を蹴散らし 切り捨て 斎藤は船内へ進む。

 

「思いの他、奴等ァ来んの早かったなァ。
狗の鼻は良く利くってぇ事か?
クックックッ…
万斉、下船の準備は」
「何時でも良いでござるよ。
時に晋助、白夜叉は如何致す」
「捨て置け。
日がな一ん日、寝子みてぇに眠るヤツにゃあ用はねぇ」
「良いでござるか」
「ああ、岡田のヤツ呼び戻せ」
「承知したでござる。
晋助は先に下船した方がいいでござるよ」
「ああ、」
万斉は甲板に向かい 高杉は離脱用の小型高速船に乗り込むべく 船底へ向かった。

 

「奥方殿!銀時殿!!」
船内には人影無く 斎藤は船室を一つずつ 開けて回った。

「斎藤です。
船内、攘夷志士の姿無し!
奥方の捜索を遂行中!」
無線で軍艦へ報告し 斎藤は捜索を続けた。


同じ様に 次々と船内に進入した隊士達は各々 奥方銀時の捜索を開始している。


船内最高の船室と思われる最上部の一角だけに明かりが灯いていた。
陽光浴びる昼間だと言うのに 明かりを灯けているのは 業とらしい感がある。

[誘いか…]

何れ探し出さねばならないのなら 誘いであろうが 罠であろうが 行くしかない。

斎藤はその部屋に直行した。

この騒ぎの中 意識無く眠る銀時を見付けた斎藤は 無造作に衣を掛けられただけの半裸に近い銀時の姿を見
「御免!」
と 緋色の衣を併せ 腰紐を締め直し着物を整えると 自らの隊服の上着を銀時に纏って抱き上げた。

「奥方殿を発見!
直ぐさま帰還します!」
『斎藤!銀時は、生きているか!』
「はい!局長!薬で眠らされている様ですが、呼吸はしっかりと!」
『わかった!帰還しろ!』
『各隊に告ぐ!
攘夷志士、掃討作戦に切り換える!
高杉等攘夷志士を確保しろ!
征圧後帰還せよ!』
『トシ!
銀時が見付かった!
斎藤が保護している!
直ぐさま帰還しろ!』
「分かった!」
土方は敵味方入り乱れる斬り合いの中 船の最上部を見上げる。
土方が斎藤に指示した場所はそこであった。

「副長!!」

振り返ると斎藤が銀時を抱き抱え 中から出て来る所だった。

「斎藤!」

土方は駆け寄ると 斎藤の腕の中の銀時を見詰めた。
「ありがとう」
銀時を抱き取り 抱え直した土方は 斎藤に一言礼を言い 軍艦へと走り出した。

土方は気付いていた。

銀時がどの様な目に合ったのか…

紅く燃え上がる紅蓮の炎が 一瞬にして 青い炎に変わった。

まるで冷たい炎の様に…

背筋の凍り付く冷気に当てられ斎藤は ゾッとした。

これは 何も見なかった事にするのが得策だと 斎藤は思った。

そして 斎藤は腕に抱いた銀時の暖かな温もりが 酷く恋しくなっていた。

 


「医者はいないのか!!」
飛び込んで来た土方は 開口一番叫ぶ。
「急な出撃でしたので、乗船しておりません」
「馬鹿な!
高速艇を用意してくれ!」
「トシ!」
「近藤さん…」
「銀時は、」
近藤は隊服に包まれた銀時を覗き見る。
「大事にしたくねぇ」
「ああ、分かった」
土方の意図する所を知り近藤は頷く。
「とっつぁんには俺から巧い事言っておく」
「ああ、頼む。
それと、ウチのガキ共にも、」
「大丈夫だ。誰にも言わんよ」

「土方副長!
高速艇の準備出来ました!」
「じゃあ、近藤さん、済まねぇが、」
「ああ、後の事は任せておけ」
土方は高速艇のハッチへ走りだし
「何て事った…」
近藤は指令室に戻り 隊士達に
「高杉はどうした!!
まだ見付からんのか!」
と怒鳴り付けた。
「局長!船底後部ハッチから小型船が!」
「逃がすか!
とっつぁん!奴等を追ってくれ!!」
「戦闘機を発進させろぉい!
追って撃墜いして来ぉ~い!
つーか、まっちやん砲用~意!」
「そりゃダメだって!とっつぁん!
ウチの隊士達も死んじまうって!」
「んだよぉ~!
イライラするよぉ~、おじさんはァ、面倒クセェのァ、大っ嫌いなんだよぉ~おじさんはァ」
『船内、征圧完了!!
生き残り攘夷志士を数名捕縛致しました!』
「よぉ~し!完全征圧完了かぁ~い、んじゃァ、全員帰還しろぉ~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


―京都府国立警察病院―

 

土方は銀時を診察した医師に詰め寄る。
「ウチのヤツの容態はどうなんだ」
「一度目を覚ましましたが、今はまた眠っています。
ご存知の様に奥方は、心身共に疲労困憊状態にあります。
その件に就いては触れない様にして下さい」
「ああ、」
余りに素っ気無い返事と イラ付いた態度に 医師は土方の真撰組副長としての立場と 被害者の夫としての立場を考え 更に念を押した。
「副長、副長が問い詰めれば、奥方は、」
「くどい!」
医師の言葉を遮り土方は一喝する。
「んな事ァ分かってる、良いから会わせてくれ」
土方の言い方は冷ややかであった。
「どうぞ」
医師は仕方無いと 投げやりに返した。

 

 

 

病室に入った土方は点滴を受け眠る銀時を見詰めた。
「銀時…」
ベッドサイドの椅子に腰掛け土方は銀時の顔を見詰め 頬をそっと撫でる。

青白い顔 殴打の痕 擦り傷の痕 両手首に巻かれた包帯。

土方はそっと銀時の手を握る。

静かに銀時の目が開き 土方を見詰めた。

「トシ…」
「銀時」
「ごめん…
迷惑、掛けた」
「何言ってる、俺が、悪かった。
俺が曖昧な態度でいたばかりに、」
「うん、アンタが…
妓達に気ィ使ってるの、気に入らなかった…
女房なのにって
俺よか、妓達のが優先なの、不満だった、悋気起こして、馬鹿見た…」
「済まねぇ」
「謝る事無いよ、俺が馬鹿だった。
トシを独り占め出来るとか、俺のモンだとか…
まぁ、色々、嫉妬めいた感情持って、欲かいたらさぁ…
この様…
聞いたと思うけど…」
「ああ、言わなくて良い」
土方は少しばかり力を込めて銀時の手を握る。

「トシ達が突入した時、甲板に死体があったろ?」
「ああ、山積みだった」
銀時の手を撫でる。
「ありゃあ、高杉が岡田似蔵に殺らせた。
俺を嬲った奴等を、高杉は酷く腹立てて、怒って、憎悪した」
「高杉が指示した訳じゃねぇと?」
「あいつは、嬲るなんて、まどろっこしい事はしない。
んな事する位なら、直ぐさま殺すよ」
「そうか…
ヤツの預かり知らぬ所で起きたからこそ、憎悪した、と」
「そうだよ…
なぁ、トシ」
銀時は土方を見詰め
「気にする?」
と 聞く。
土方は左右に首を振り
「イヤ、お前は傷付いたろうが、生きていてくれた。
それだけで、俺ァ良かったと、思ってるよ。
んなの、気にすんな」
「うん…
傷付いた、心も、躯も…
痛い、けど…
助かって良かった」
「ああ、命があっただけめっけモンだ」
「うん。
命はさぁ、俺だけじゃないんだよ」
土方は頷くが 意味を分かっての事では無かった。
「トシ、アンタの子はさぁ、
アンタに似て、根性あるよ。
あんな、されてもさぁ、元気に、ここにいる」
銀時の言葉に土方は目を見張り 銀時は土方の手を取って腹を撫でる。
「こ、子供が?」
土方は撫でる腹を見詰めた。
「そうだよ?
アンタみんなに孕んでるって言ってたろ?」
「ありゃあ、可能性ってか、希望で…銀時、」
「やっぱ分かって無かったんだ」
土方は銀時の肩に顔を埋める。
「んな、酷ぇ目に合ったのによ、銀時…
頑張ったなぁ…
ありがとうなぁ…」
「ちょっ、何で泣くの?トシ?」
「色々だよ。
泣かせろ。
どうせ、オメーは泣かねぇんだろ、変わりに俺が泣く」
「ちょっ、ナニ言ってんの?」
銀時は笑って土方の頭を撫でる。
「俺ァ、お前が高杉に拘引されたと知った時、もう命はねぇモンだと思った。
生きていてくるるんなら、目ん玉無くなろうが、手足失くそうが、構わねぇと思ってた。
なのにお前は、生きて帰って来た、子供の命も守って…
何十人に犯され様が、生きていてくれりゃあ、良い。
んな事ァ、気にしねぇ、俺は、うぅっ…」
「泣くなよ、何だか悩んだり、気にしたり、俺の痛みとか、なんか、馬鹿らしくなって来た」
「ああ、んな事ァ、忘れろ、端から無かった」
「トシ」
銀時はクスクス笑い 土方は涙を拭って銀時を蒲団の上から抱き締めた。

「なぁ、何時知った」
「子供の事?」
「ああ、」
「ん~と、二月頃?
出来て直ぐだな?
怠いし、眠いし」
「そんな前から?
何で教えてくれなかった」
「ん~、確信持て無かったし、旅から帰ったら医者に行こうかな~って、ね」
「さっきお前を診察した医師は何も言わなかったぞ」
「ああ、自分で言うからって、黙っていて貰った。
だってさ、他人から知らされんの、やじゃね?
んな事の後じゃ、尚更、ね?」
「そうだな、知ってたら、こんな所なんざ連れて来なかったぜ」
「え~?なんで?旅行は楽しいじゃん」
「楽しかねぇだろ。
来なきゃ、こんな目にゃあ、合わなかった」
「アレ?
今、んな事ァ、忘れろって、端から無かったって言わなかった?
アレ?
言ったよね?
アレ?
空耳ですか?」
「ソラ別問題だろ。
これからァ絶対、俺の目の届く範囲にいろ!
勝手にゃあさせねぇ」
「はぁ?何処の暴君ですか?
アンタねぇ、言う事素直に聞くと思ったら、甘いよ?」
「頼む!銀時!俺ァもう、こんな怖い思いしたかねぇ。
じゃねぇと、オメーを縛り付けておく事になる。
分かってくれ!な?頼む!」
「はぁ?ナニ言ってんの?
んなの、分からねぇっての
俺ァ、自分の好きに生きようと思いますぅぅぅぅう」
「オイオイ、銀時?」
土方は銀時を睨む。
「んな怖い顔しても無駄だよ?怖かねぇモン」
銀時は笑って土方を手招き
「何だ?」
土方は顔を寄せる。
「変わらず、愛してくれんの?」
「ああ、勿論、愛してる。不満か?」
土方は銀時の手を取って 両手に包み口付ける。
「うん。俺ァ、前よか愛してるよ?」
「そうか、そうか、ありがとうな」
どこと無くアッサリの口調の土方。
「アレ?ナニ?トシは違うの?」
「ああ、違わねぇ。
ただな、覚悟しとく、なんて言ったがなァ、オメー、アレ、絶対ぇ無理だ。
覚悟なんざ出来ねぇ。
オメーの無事な姿見るまで、生きた気がしなかった。
俺ァ、オメーが死んだら、後追いすっからよ。
堪えられねぇって思い知った。
前に言った事ァ、取り消す。
オメーを失いたかねぇ。
ソンくれぇ、オメーを愛してるよ」
「アハハ、どんな愛の告白?
腰の低い脅迫じゃねぇの?
後追いなんざ、嬉しかねぇよ?
そんなに俺にハマっちゃった?
簡単にゃあ死なねぇから、約束するよ。
アンタ残して逝かねぇから、ね?」
土方は銀時に口付ける。
「ああ、ハマりにゃあハマったよ。
もう、危ねぇ事ァしねぇでくれ、生き方変えろなんざ言わねぇ。
だがな、これからは、子供が生まれる。
今とは違う生活になる。
子供と俺の為に生きてくれよ。
その為なら脅迫だろーが、なんだろーが、俺ァするぜ。分かるな?」
「うん。俺ァまだやる事ァ沢山あるし」
「ああ、そうだ」
土方は銀時の頬を撫で、手を握る。
「ねぇ、みんなどうしてる?」
「みんな予定通り奈良へ出立した。
今回の事ァ殆どのヤツは知らねぇ。
特にお前が受けた事は、俺と一部のヤツだけだ。
お前が寝てる間に圧力掛けて揉み消した」
「そんな事したの?
でもま、ウチの子達にゃあ余計な心配掛けたくねぇから…」
「ああ、大丈夫だ」
土方は銀時の頬を撫で髪を撫でる。
「誰が助け出してくれたの?」
「斎藤だ。大丈夫だ、あいつァ、口が固い、それに、オメーは眠らされてた」
「ああ、でも、想像付くよなぁ、殴られた痕とか、まぁ、見えたろうし」
「かもな。だが、ヤツは何も言わねぇだろーよ」
「まぁ、実際、あそこじゃあ本当に寝てただけだし、まぁ、良いか」
「大丈夫だ。
お前が拘引された事も、お妙や神楽は知らねぇ。
誰にも内情は知られる事ァねぇ。
安心しろ」
「うん」
「少し眠れ。傍にいるから」
土方は微笑んで銀時にもう一度口付けた。

 

銀時が受けた屈辱を 土方は許し難たい行為と受け止めていた。

誰に対してであろうと 許し難たい行為だ。

それを銀時にされた。

怒りを向けるべき犯行を行った浪士共は 敵である攘夷志士 高杉鬼兵隊である人斬り 岡田似蔵に粛清された。

土方の腹の中は怒りと 憎悪で煮え繰り返っていた。

しかし それを銀時に悟られ無い様にしなければならない。

土方の感情に気付けば 銀時は更に傷付く。

気付いても 銀時は知らん振りをするだろうが それでも 悟られてはならない と 土方は思っていた。

眠り就く銀時を見詰め 土方は 何があろうと銀時を手放す事は出来ないと 再認識した。

 

 

 

沖田は病室の前で どのタイミングで入れば良いのか 珍しく悩んでいた。

二人の会話を盗み聞きしていたからだった。

子供を身篭る身体で 銀時が複数の男共に乱暴された事を知ってしまった。

銀時と子供の命が助かったのは 奇跡的な事だったのではなかったのか。

そして 土方の泣く所も 本心も聞いた。

「イヤなモン聞いちまったぜぃ」
沖田は一度病室を離れ 出直す事にした。
「こいつァ、誰にも知られちゃならねぇなぁ」
お喋りな沖田に秘密が増えた瞬間だった。

 

 

 
―コンコン―

「誰だ」
「沖田でさぁ」
「ちょっと待て」
沖田は土方が出て来るのを待った。

―カラッ―

「何だ」
「着替えと書類でさぁ。
俺ァ、これから奈良に行きやすんで」
「ああ、済まねぇな」
土方は鞄を受け取り
「志村達にゃあ、悪阻が酷いが心配いらねぇって伝えてくれ」
「分かりやしたぁ、んじゃ、お大事にぃ~」
沖田は素直に聞いて立ち去った。

「新八は拘引されたの知ってんだぜぃ?
悪阻でカタァつくかねぃ。
まぁ、何とかしますがねぃ」
沖田は一人愚痴て車に乗り込んだ。

 

 

 

土方は眠る銀時の傍で今回の件の報告書に目を通し 鞄に仕舞った。

そして銀時の寝顔をジッと見詰めていた。

こうなってしまうと 後悔の連続だった。

天性薬を飲ませた事。

女になった事。

結婚した事。

全て。

銀時が受けた諸々の事に自分が関わっている。

自分が原因なのだ。

そう思うと やり切れ無かった。

銀時の人生を狂わせた。

そんな事をする権利は自分には無かった。

土方は眠る銀時の寝顔をジッと見詰め 知らずの内に涙を零していた。

 

「トシ…」
銀時は涙を零す土方を見詰める。
「どうした」
土方は立ち上がり 銀時を覗き込む。
「何泣いてんの」
銀時は笑って土方の頬を伝う涙を拭う。
「泣いてねぇよ」
「大丈夫、心配無い。
トシと一生添い遂げる。
後悔なんか、してない。
泣くな…充分…幸せだから」
その手で土方の頬を撫で言う。
「チッ、何だよ。
オメー、エスパーか?
勘良すぎだろーが」
「アンタの考える事なんて、お見通しだっての」
銀時は笑って土方を抱き寄せる。
「本当だよ」
「ああ、」
土方は銀時の腕に抱かれながら安堵の溜め息を吐いた。

 

 

 

 


銀時の診察にくっ付いて来た土方。
診察の全てに立ち会うと譲らない土方に 医師は渋々承知した。

医師は銀時の驚異的な治癒回復能力を知り驚く。

暴行を受けた時の疵はほぼ癒えていた。


土方は次に行った胎児の健康状態チェックで エコー検査での胎児の映像を見て驚愕の声を上げていた。

「コレが赤ん坊なのか?
空豆じゃねぇか!」
「アハ、ごめ~ん。
アンタの子じゃなくて空豆の子だった?」
銀時は胎児の写真片手に呟く土方を笑う。
「んだと、コルァ!
こんなんで育つのか?」
写真を見ながらしみじみ言う土方。
「その内芽が出て来るらしいよ?空豆だしね」
「そうか、そうか」
懐から警察手帳を取り出す土方。
「アレ?仕舞うんだ?気に入ったの?その空豆?
警察手帳に入れんの?空豆の写真」
「空豆、空豆言ってんじゃねぇ」
「アンタが言い出したんじゃないの」
「言ってねぇ」
「アララ」
「大丈夫ですよ。
赤ちゃんは順調に育っています」
医師は二人のやり取りを聞いて笑う。

 

 


病室に戻った銀時の腹に顔を寄せ 土方は目を閉じる。
「居るんだな、俺達の子が」
「うん。明日には退院して良いって」
「ああ、オメーの驚異的な回復力にゃあ相変わらず驚かされるぜ」
「あ~あ、コレ、アレだよ?
元々の俺の力だけじゃないよ?
ソラまぁ?回復力にゃあ自信あるよ?頑丈だしね?
それにプラスされてさぁ、ホラ、ええと、ナニ?」
「ああ?要領得ねぇな」
「ん~と、アレだよ、アレ。天性薬?んで体質か変わったんだよ」
「まぁ、変わったなぁ、体質だけじゃねぇケドな、有り得んな
弱くじゃなく更に強くなるってのが、オメーらしいな、銀時」
「アハ、そうだな」
銀時は笑って土方の頭を撫でる。
「どうする?」
「ナニが?」
「奈良、行くか?」
「ん~あのさぁ、入院の言い訳、何つったの」
「悪阻が酷い」
「その言い訳が酷い」
「何でだ?ありだろ」
「無いよ~、だって悪阻無いよ?」
「そうなのか?」
「だってオメー、俺がうぇうぇ~やってっトコ見た?見た事ないだろ?」
「そういやねぇな。失敗したなぁ。
誰でもあんのかと思ったぜ」
「酷けりゃ入院する人もいるらしいケドね。
俺みたいな無いって人もいんだって、まぁ、妥当な言い訳だな」
「そうか」
「そ、って事で、奈良に行きます」
「大丈夫か?」
「うん。奈良行った事ねぇモン」
「じゃあ、そうしよう」
土方は銀時の頬を撫でると そっと口付けた。
「のんびり花見と行こうじゃねぇの」
笑う銀時に土方も笑う。
「堪んねぇな…」
「何が?」
「オメーだよ。銀時」
「俺?」
「ああ、堪らなくオメーが愛しい」
銀時は微笑み 土方はベッドに腰掛け 銀時を抱き寄せる。
「俺ァ、オメーが男だろーが女だろーが、関係ねぇし、何があろうと、起ころうと、オメーを手放なさねぇよ」
「うん」
「オメーは死んでも俺のモンだ」
「イヤイヤイヤイヤ、オメーが俺のモンだから。ね?トシ?」
「あん?んなの、どっちだって良いんだよ。茶々入れんじゃねぇ」
「だってよォ~
このまま聞いてたら、オメー、アレだろ?
こっ恥ずかしい事、言い出すんだろ?」
「ああ、オメーが照れて顔も上げられねぇ様な、熱いのをな」
「イヤだよ、いらねぇって、んな、恥いの」
既に照れている銀時を抱き締めて土方は耳元で囁いた。
銀時はただ俯き 時折 微笑んで 土方を抱き返した。

 

 

 

 

 

 

 

―奈良―

一日遅れてやって来た沖田は近藤に報告をした後 割り当てられた部屋に向かう。


「沖田さん」
新八は沖田が合流した知らせを聞いてから 部屋の前でずっと待っていた。
「おう、新八」
ニヤリする沖田を部屋に引っ張り込み 新八は
「銀さんは?
銀さんの様子はどうなんですか?」
詰め寄る。
「ああん?
旦那ァ悪阻が酷いらしいぜぃ」
「悪阻?子供が?」
掴み掛かる新八を抱き寄せて沖田は笑う。
「あの、土方さんがオヤジになんだぜぃ。
笑えるじゃねぇかぃ」
沖田は新八の頬に唇を寄せ 新八は押し返し言う。
「あ、お、沖田さん僕が聞きたいのは、そんな事じゃなくて、」
「なんでぃ?」
「銀さん、酷い事されなかった?
その、乱暴されたり、」
「ナニ言ってんでぃ、んな事ァねぇだろぃ」
「でも、その、」
「ナニ考えてんのか知らねぇが、んな報告ァ受けてねぇよ?
第一、旦那がんな事されたってなら、報告書に記載されてらァ」
「そんな事まで、報告されるの?」
「ああ」
「本当に?本当?じゃあ銀さん、乱暴されたりして無いんですね?」
「ああ、そうだねぃ」
「本当に、そうですか、何かあったらって、心配で」
「眠れ無かったのかぃ」
「え、ええ、」
「んじゃ、一眠りするかぃ?」
「え?」
沖田は新八を蒲団に押し倒し笑う。
「俺も、昨晩は眠れなくてよぁ」
「沖田さん」
新八は沖田も銀時の事が心配で眠れ無かったのかと思った。
「昼寝のし過ぎでよぉ」
「んだとコルァァァァア!!」
「イヤ~マジで」
「巫山戯んな!
俺ァ、心配で心配で眠れねぇってのによォォォォ!!」
「アララ?新八くん、俺ァなんてぇ、キャラ変わってんじゃねぇかぃ」
「うるっせェェェェ!!」
新八は蒲団から跳び起きて
「一人で寝ろ!ボケ!!」
と 沖田を置き去りに出て行った。
「アララ、怒っちまったぃ。ま、いいかァ」
沖田はそのまま目を閉じ 直ぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

―翌日―

 

将軍家一行と真撰組 万事屋一行は 始めに予定していた花見の見学場所やコースを変更した。

 

将軍家が花見に来ると 期待して集まっていた人々は肩透かしを喰い 将軍家御一行は閑静な場所を選んで花見を行った。

 

「ほほう、吉野の山は、豊かで懐深いものだな」
将軍は派手さは無いが 静かで美しい吉野の山々に咲く 紅や薄紅 黄や緑の桜を眺めていた。

 

 

 

山中を散策する一行。

 

銀時は土方の腕に掴まり 見事な桜を見上げる。

「綺麗だね」

去年見た桜とは 全く違う。

まさか 自分が女になり しかも土方の子を身篭り
その土方と腕組みし 吉野の桜を見上げる。
なんて事になるとは 夢にも思っていなかった銀時だった。

 

桜を見上げ立ち止まり 銀時は 頬伝う涙に気付かなかった。

「どうした?気分でも悪ぃのか?」
土方の問い掛けに銀時は首を傾げる。
「涙」
土方は銀時を抱き寄せ 涙を指先で拭う。
「泣いてんの?」
頷く土方。
「分からないよ、美し過ぎて、涙が…」
銀時は土方の肩に顔を埋め泣き出した。
土方の肩を涙が濡らす。
銀時の背中を撫で 土方は桜を見上げ佇んでいた。

 

 

 

 

 

 


銀色の夢【亰篇】終り