銀色の夢【完結篇】 壱

 

 

 

―その日―

テロリストからターミナル爆破予告を受けた真撰組は、封鎖適わぬターミナルの全箇所を探索し続けた。

捜索を始めて半日が過ぎた頃、突如爆発した爆弾の爆風に巻き込まれ、吹き飛んだ土方は、意識不明で病院に担ぎ込まれた。

 


多少の掠り傷と頭にでかいコブが出来た以外、命に別状は無いと知らされ、真撰組隊士共々、病院に駆け付けた銀時は安堵の溜め息を吐いた。

 

 

ここ最近の銀時は情緒不安定で万事屋では無く、 真撰組屯所で生活していた。

 

 

日頃、人に弱みを見せずにいる銀時だったが、日増しに大きく膨らむ腹は、元男であった銀時にとり、気付かぬ内に脅威となっていた。

 


誰かが居る時には見せない行動を土方の居ない晩、見せる様になっていた。

 

土方が夜勤の夜―

銀時が無意識状態で、一晩中、部屋の中を歩き回るのを神楽が見付け、土方に知らせた。

それを知った土方は片時も銀時から目を離さぬ様に屯所に住まわせた。

屯所ならば誰かしら人がいる。

土方が夜勤の時は神楽が共に寝て様子見する。

 

そんな日々が続き、いくらか落ち着きを見せ始め 明日には万事屋に戻ろうか、等と話しをしていた矢先の事だった。

 

 

 


銀時は不安感に駆られ、今にも泣き出しそうになるのを堪えていた。

気付かぬ内に土方の意識不明や怪我は、銀時の精神に影響を及ぼしダメージを与えていた。

 

 

 

 

 

 


銀時はただ寝ているだけにしか見えない土方の傍に付き添っていた。

「ん…痛ぇ…何だ…こりゃ…」
土方は目覚めながら、頭に出来たデカいコブを触る。
「ッ、トシ、」
「あ?」
土方は銀時を見詰める。
「目覚めた…良かったァ、心配したよォ」
銀時は涙ぐみながら土方に抱き着いた。
「オイ?何だ?何抱き着いてんだよ!つーか、アンタ誰!?」
土方はびっくりして聞く。
「え?だ、誰って、銀時だよ?」
「は?銀時?」
「アンタの女房の、」
「女房?知らねぇなぁ。
何言ってんだ、アンタ。
からかうのは止してくれ」
土方は銀時を払い除ける。

 

―ガラリッ―

「目ぇ覚めやしまかぁ~ぃ、土方さん」
沖田が入って来る。
「おう、総悟、どうしたんだ俺ァ」
「爆風に巻き込まれたんでさァ」
「そうか、んで、この人誰?
俺の女房だとか言いやがるんだけどよ、」
沖田は土方の真剣な物言いと、ショックを受け茫然自失状態の銀時を見て
「イヤ~この人ァ俺の女房でさァ」
そう言い、銀時を抱き寄せる様にして病室を出て行く。
「え?オイ!総悟、なんだ、あのヤロー」
土方はしかめ面して天井を見上げた。

 

暫くしてやって来た山崎。
「おう、山崎」
「副長ォ!目覚めたんですね~良かったァ~」
「おう、あのよぉ、聞きてぇんだが…
総悟のヤツ、いつ結婚したんだ?」
「はぁ?」
「いやな、今ここに、エライ別嬪がいてなぁ
誰か聞いたら総悟のヤツ女房だって連れてったからよ」
「ちょっ?
別嬪が沖田隊長の?ナニ言ってんのォ?
ソレ違うから!アンタの女房だから!」
叫ぶ山崎。
「はぁ?俺の女房?」
「そーだよ!ナニ言ってんの?冗談?悪巫山戯にも程があるよッ!?」
「テメェこそ、ナニ言ってんだ?俺に女房なんていねぇだろーが!!」
山崎は土方の真剣な物言いを不審に思い医師を呼んだ。

 

 

 

「記憶喪失ぅぅぅう!?
アンタ、それで、別嬪さんに、ナニ言ったの?」
「アンタ、誰?」
「嘘だろォ?
何て事言うんだよ!
何でソコだけ抜け落ちてんのォォォォォ?
あんだけ大事にしてたヒトなのに!
旦那の体調考えたらそんなショック与えられねぇよォォォォ!!」
叫び捲くる山崎を欝陶し気に見上げ、土方はポツっと聞く。
「何だよ、旦那って?」
「アンタの嫁さんのニックネームだよ!
ああ、大丈夫かなァ?
大変な時なのに…ああ、どうしよう…」
病室内をうろうろする山崎。
「何だよ、大変って?」
「何だよ、何だよって、こっちのセリフだよ!
こっちか聞きたいってのに、説明すんのかよ!
旦那はね!妊娠八ヶ月で、体調崩してて、精神的に不安定なの!
全部アンタのせーだろ!」
「え?分からねぇ」
「分からねぇじゃねぇ―よ―!
旦那はアンタの嫁さんで!
アンタの子供を身篭ってんの!」
土方はびっくり顔をして山崎を見た。

 

 

銀時を連れ出した沖田は放心状態の銀時に聞く。
「大丈夫ですかぃ」
「だ、ダメ…トシが…知らねぇって…アンタ…
誰って…何で?女房じゃねぇ…って…」
「旦那ァ」
「どう…して…死ぬ…死んでやる…
アイツ殺して…俺も死ぬぅぅう…」
「ちょっ!ナニ言ってるんでぇ土方さんは、ホラ、アレ、アレでぇ」
「ナニ?」
「記憶喪失?」
沖田は適当に言ってみた。
「んな訳無ぇ!
沖田くんの事ァ分かったじゃねぇか!
なのに…俺だ…な……うぅ~~ッ!
ぎぼぢわるう~~………」
半泣きの銀時は口元を押さえ
「旦那、アレ?」
沖田に倒れ込んだ。
「旦那ァ?あ~あ~、
すんまっせ~ん、誰かァ?」
沖田は銀時を抱き上げて医師の居る方へ走って行った。

 

 

土方の病室から出て来た山崎とバッタリ出会う沖田。

「記憶喪失?マジでか!?」
「本当に、夫婦揃ってなんなんだろうね…って、旦那はどうしました?」
「ヒス起こして倒れちまって、入院する事になったからよぉ、土方さんに知らせ様と思ったんだが、こりゃあ、言っても無駄だなァ」
「ええ、意味無いです。
他の事は全部覚えてるのに、旦那の事だけ、スッポリ抜け落ちちゃってますから」
「旦那の事だけ?」
「ええ、どういう事でしょうね」
「さぁ、土方さんの考える事ァ、分からねぇや」
「イヤ、ナニも考えて無いです。忘れちゃってますから」

 

 

土方の様子を見に来た近藤は事の経緯を聞き仰天する。
「銀時の事だけ記憶喪失?
あんなに可愛がってたのに?
何で忘れたりするんだ!
人も羨む程に愛し合っていたじゃないか!
何でだ!トシ!」
「しょーがねぇだろ、覚えてねぇんだ」
「しょーがねぇって、お前!
お、そうだ、銀時はどうした?」
「それが、ショックで倒れまして、入院する事に…
今、沖田さんが様子を見に行ってます」
近藤と山崎の会話等、土方は聞いてはいなかった。

〔皆の言う様に
俺はさっきの女を
結婚する程に
愛していたのだろうか
家庭を持ち
子供を作り
先の人生を共に
生き抜く程に
惚れた相手を
見付けたのだろうか…〕

土方は考えていた。

「大変でさぁ!
旦那ァ、消えやした!」
飛び込んで来る沖田。
「何ッ!?」
「近藤さん、来てたんですかぃ?
それよか、旦那ァ居なくなっちまってまさぁ」
「厠じゃないのか?」
「厠にゃあいやせんでしたぜ?
旦那ァ、死んでやるって言ってからブッ倒れたんでぇ、まずい事になるんじゃねぇんですかねぃ」
「ザキ!屋上を探せ!
総悟は表を!俺は院内を探す」
三人は病室を飛び出して行った。

「マジかよ…」
土方は呟き、山崎の持って来た着物を着る。
「俺の女房…だって?
子供が生まれんのか…?
俺が……
父親に?」
土方はブツブツ言いながら病室を後にした。

 

 

銀時は彷徨っていた。
病院を抜け出たまでは良いが、もう、どうして良いか分からない。

疲れたし
フラ付くし
眩暈がする

銀時は一瞬でも死にたいと思った事を後悔した。

子供がいるのに…
生きなければ…
そうは 思う…
思うが……

生きる気力は湧かなかった。

「ああ…虚しい…」

 

 

―万事屋―

ここ暫く留守にしたせいで、室内の空気は澱んでいた。

銀時は一人、ぽつんと暗闇の中。

 


―ガラリッ―

開く扉から、土方は迷う事無く銀時の元へやって来た。

「泣いてたのかよ」
土方は銀時の顎を支え上げ顔を覗き込む。
「何しに来た…」
「何と無く、足が向いた…
俺はお前を泣かせ様なんざ、思ってねぇ。
ただ、俺が、嫁さん貰ったとか、子供が出来たとか、言われてもなぁ、
信じられねぇってか、
覚えてねぇ」
土方の言葉に銀時は打ちのめされた。
「そ…いいよ…
俺の事ァ、放っておいて、」
「死ぬなんつって、総悟を脅かしやがって」
「死なねぇから…
もう、帰れ……
もう、来んな」
「そんなに事言って、子供はどうすんだ。ああ?」
「アンタにゃあ、関係ねぇだろ」
「本当に俺の子か?」
銀時は更にショックを受けた。
「なんて言い草だよ、
俺は…
何もかも、初めてだったのに…
アンタに…
身体も、命も、やるって…
一生添い遂げるって、
言ったのに…」
「オメー」
「帰れ…二度と、来んな…」
銀時は土方の手を払い除け言う。
「何で、俺ァオメーの事見てると、欲情するんだ、なんで、オメーが泣くと、心が痛むんだ」
「……」
銀時は顔を背け、土方は強引に引き寄せる。
「やめろ、触んな、」
「なぁ、俺達ァ、どんな夫婦だったんだよ
上手くやってたのか、」
「放せ」
「なぁ、銀時、教えてくれよ」
「知るかよ、もう、帰れって言ってんだろ、頼むから、帰れよ」
「なぁ、」
土方は銀時の頬を両手で挟み、睨み付けた。
「イヤ、だ」
土方は強引に口付け、銀時は抵抗する。
「やめ…」
「どうしてだ?夫婦なんだろ?」
「イヤ…だ…」
土方は銀時を強く抱き締めた。
「んっん、苦し、い…
やめ…て、お願い…」
抵抗する銀時を無視して 土方は銀時の着物を脱がし始める。
「俺ァ、どうしてこんなに…
オメーが欲しいんだよ…」
「やめて、くれよ…
何で、アンタ…
俺の事、覚えてても、覚えて無くても…
同じ事、言うんだ…ろ…」
流れ伝う涙を銀時は止められなかった。
押し倒され、裸にされても、銀時は抵抗を止めず。
土方は抵抗されれば、される程、銀時が欲しくなっていた。
「もう、大人にしろよ」
「アンタ、そんなヤツじゃ、無かったろ?
こんな、無理矢理、」
「黙れ、」
土方は銀時の身体をじっくり見て取った。

〔何で、覚えてねぇ?
本当にコイツと、俺は関係があったのか?
この腹ん中に、俺の子が?〕

銀時は真夏だと言うのに震えていた。

「寒ぃか?」
銀時の膨らんだ腹を撫で 豊かな胸を撫でた。
「泣くなよ」
土方は銀時の頬を伝う涙を拭い呟く。
「なぁ、泣くなよ、辛ぇんだよオメーが泣くと…」
銀時は土方を見詰め、涙だけが、流れ落ちた。

ただ、ただ、涙する銀時を土方は抱く。

何度繰り返し抱いても、土方は何も思い出せなかった。

 

 

「済まねぇ…
こんな事しても、何も、思い出せねぇ、済まねぇ…
済まねぇ」
土方は泣きながら銀時に頭を下げた。
「アンタ、不安なんだね…
大丈夫、その内、思い出すよ」
銀時は土方を抱き締め
「大丈夫」
と、繰り返した。

 

 

 

 


「銀時ぃ?帰ってんのかい?」
物音を聞き付けたお登勢が、土方の去った後やって来た。

「バァさん…」
「ちょっ、ちょいと、何があったんだい?」
銀時は長襦袢を肩に羽織っただけの裸のままで、さめざめと泣いていた。
「トシに…捨てられた」
「な、何言ってんだい?
しっかりおしよ!
旦那がアンタを捨てる訳ゃ無いだろう?」
お登勢は銀時に長襦袢を着せながら言う。
「もう、ここに、いられねぇ、よ」
「ちょっ、ホントかい?
ったく、良い年して男に捨てられた位で泣いてんじゃないよ、
ホラ、おいで」
お登勢は銀時を連れ、階下の自宅に回った。

 

 

「ホラ飲みな、
何時まで泣いてんじゃないよ?身体に障るだろ」
それでも銀時の涙は留めど無く溢れ、流れ落ちた。

お登勢は銀時を置いて店の方に顔を出す。

「ちょいとアンタ、」
「俺か?」
「ああ、アンタ、銀時の昔馴染みだろ?」
「ああ、そうだ」
「ちょいとこっち来とくれよ」
「なんだ」

 

「アレさぁあ、
悪いけど、面倒みてやっとくれよ」
「銀時!?何があった?」
「旦那に捨てられたんだとさ」
「!」
「頼むよ」
「ああ、分かった。
俺に任せておけ」

 


―真撰組・屯所―

三日で退院した土方は屯所の自分の部屋を見回し 部屋中に山程ある子供用品を見詰めた。

「あの女、俺が、何もかも初めての相手なんざ、吐かしてやがったが…」
「副長、あの女って、旦那の事、言ってんですか?」
「あ?ああ、」
「アンタ、自分の女房を、あの女呼ばわりかよ!」
珍しくも山崎は怒鳴り始めた。
「んだよ?」
「副長ォ!
何でアンタの嫁さんが旦那って呼ばれてるのか、分かりますか?
分かんねぇか?
忘れたんだもんな!
あの人はね!
男だったんですよ!
いっつも、死んだ魚みたいに、だらけて、グダグダで、トラブルに巻き込まれて、色々問題あったケドっ!
でも、局長も、副長、アンタも敵わない位、強い男だったんですよ!
アンタ、そんな旦那を愛してた!
男ん時から、アンタと旦那は愛し合ってた!」
「俺が?何で、ヤツは…」
「アンタは!
旦那に天人の性転換の薬を飲ませて、女にしたんだよ!」
「え!?」
「アンタが、女になった旦那と所帯を持つって言った時、旦那は、馬鹿な事するなって、アンタを止めた。
なのにアンタは屯所を出て、万事屋で暮らした。
回りが呆れる位、アンタは旦那にぞっこんだったんだよ!
ホントに、こっちが恥ずかしい位、夢中で愛し合ってた。
旦那は男の時も、女になってからも、愛してたのはアンタだけだよ!
副長ォ、アンタはホントに!
旦那の初めての男なんだよ!
全てを捨てて
アンタと愛し合った旦那を、何で、アンタは忘れた!
一生添い遂げると言った旦那の事を!
何で、旦那の事だけ
忘れたりするんだよ!
情け無くて、涙がでるよ!」
涙する山崎に土方は愕然としていた。

「うぉ~~い!うぉ~ぃ!」
廊下で近藤が声を上げ泣いていた。
「局長ォ~~~!」
抱き合って泣く近藤と山崎。
土方は
「銀時」
と、呟いた。

「トシ、お前達の間にそんな経緯があったなんて初めて知ったぞ!
銀時はいっつもお前の事を考えてくれてたぞ?
記憶が無くとも、銀時がトシの女房だって事実は変わらんよ
大切にすべきだろう?
一緒にいりゃ、何もかも思い出すよ
早く迎えに行ってやれ
銀時は今、普通じゃない、トシが不安な様に、銀時も不安なんだ!
トシ!」
「そうですよ、副長!」
「ああ、そうだな、」
土方は何も思い出せ無い自分に苛付いた。

〔俺が、銀時の人生を変えた
俺より強い男が、俺の女となって、俺を受け入れて…
事実なら、俺は何て事をしたんだろうか
しかも、自分の感情を抑えられず、犯す様に抱き、捨てた
何て、最低な野郎だ、〕

「銀時、済まねぇ…」

土方は泣く二人を置いて走り出した。

 

 

息切らせ万事屋に辿り着いた土方を出迎える者は居なかった。

「銀時!」
部屋はガランと静かで、夏の熱気で蒸され、奥の和室は土方が銀時を無理矢理抱いた時のまま、乱れたままだった。
「ああ、俺ァ、何て事を…
済まねぇ、銀時、済まねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

銀時が姿を消した事は瞬く間に知り合いの内に広がった。

 

新八と神楽は土方を責めるが記憶喪失と知り諦めた。

 

二人は銀時を探し歩き、見付ける事が出来ずに日々を過ごした。

 

そして二人の足も真撰組から遠退き、万事屋と真撰組の関係は絶えた。

 

 

 

 

 

 

「貴様、良くもまぁ
朝から晩まで、泣き通せるものだな」
「泣きたくて泣いてる訳あるか、勝手に涙が零れんだよ…」
「大概にしろ、目玉溶けるぞ」
「んな事言うな…また…泣けるじゃねぇか…」

〔昔、良く言ったっけ…
まさか…自分が言われるなんてね…〕

更に零れる涙を止め様も無かった。

 

 

 

 


「銀さんが居なくなってもう、一月経ちますよ?
土方さんの記憶、まだ戻らないんですか?」
「ああ、それによぅ、土方さんの記憶が戻った所で、旦那が戻らねぇんじゃ、話にならねぇよ」
「もう、粗方、知り合いの所は探しました
でも…」
「こんだけ探して見付からねぇんじゃ、今頃、儚くなってんじゃねぇだろなぃ」
「ちょっ!
沖田さん!縁起でも無い事、言わないで下さい!」
「ああ、済まねぇ、でもよぅ
ホント、何処行っちまったんだろなぁ」

 

 

 

 

 

「どうした?食わんのか?美味い蕎麦だぞ」
「うん、いただきます。
デザート何?」
「丸菓の水饅頭だ」
「楽しみ~」

〔最近、漸く食事が喉を通る様になり、多少、憔悴の陰りは薄くなったが、まだ元に戻ったとは言い難い…
ここに来たばかりの頃は、正直、死を待っているのかと思える程だったが…
食事はせず、眠りもせず、在らぬ方を向いては一日中、泣き通し…
愛する者を失う虚しいさ、辛さ、悲しさは、充分知っていたが…
頃れ程に深い悲しみがあるものなのかと、感じたものだ…
しかも、憔悴仕切っているのは、コイツばかりでは無いしな…
ヤツもその一人だ
自ら捨てたコイツを
探し求めている…
馬鹿な連中だ
互いに探し求めているのならば
共に暮らすが良いだろうに…
元の鞘に収まるのが一番なのだ…
このままで居た所で、何も良い事等、何も無いだろうに…
しかし
まぁ、今直ぐ元に戻れとは、言えんな…
今は、のんびり蕎麦を手繰る姿を見れるだけで善しとするか…
その内コイツも落ち着くだろうしな…
ヤツは、まぁ、焦るだけ焦らせるが良かろう…
しかし、連日追い回されては、俺の身が保たんな…〕

「ナニ?考え事?」
「ああ、そう言えばな、昨日、久しぶりに、リーダーに会ったぞ
未だ貴様を探している」
「そう、」
「今は、新八殿の所に居るそうだ」
「そう…お妙にゃあ、悪い事したな…」
「そうだな
しかし、貴様も充分面倒見て来たではないか」
「うん、ケド、逃げてるよな、俺…」
「そうだな、貴様らしくないな」
「だよなぁ、新八も、神楽も、俺が…」
「オイ、」
またも頬を伝う涙を拭い
「泣いてばっかりじゃ、ダメだよなぁ」
「ああ、そうだな」
涙を拭い、蕎麦を手繰る。
「水饅頭、食わんか?」
「うん」

〔しかし、もう少し太らせ
せめて元に戻る位元気にならんと、帰す事は出来んな〕

 

 

 

 

 


「待てぇぇぇえ!
かぁ~つぅ~らぁ~!!
御用でぇ!!」
沖田は夜の街中、桂を追い回す。
「今日こそ捕まえろ!!」
土方の叫び。
「任せて下せぇ!」
「ハハハハ!
貴様等に捕まる俺では無いわ!
ワーハッハッハッハッハー!」
桂の笑い声が木魂した。

 

 

 

 

―かまっ娘倶楽部―

♪ベンベン♪ベケベン♪ベンベケベン♪

「なぁ、ヅラ子
そろそろ銀時の居場所、教えてくれよ」
水割りを作りながらヅラ子は笑う。
「銀時?何の事か、分からんな」
「オイ、ネタは上がってんだぜ?」
「ならば、自分で探せば良かろう」
「チッ!」
土方は連日、かまっ娘倶楽部に通っていた。
「チッ!とはなんだ!チッとは!」
「毎ん日来てんのによ
オメーが教えてくれねぇからよ、」
「さては貴様、俺に気があるな!」
「ねぇよ!
良いから銀時の居場所教えろや!」
睨みを効かす土方。
「すんまっせ~ん!
このお客、怖いんですケッド~!~ママぁ~チェンジぃ~」
ヅラ子は感情の無い口調で言った。
「オメーがチェンジとか言ってんじゃねぇ!
逮捕されねぇだけでも、有り難いと思いやがれ!!」
「フン!
逮捕したければ、すれば良かろう。
但し、何も吐かんぞ」
「チッ!勘定!!」
「貴様!まだ一口も飲んでいないではないか!」
「酒なんざ、飲んでる暇はねぇ」
「毎日、何しに来るのか。アホめ、」
土方は勘定を払い、店を出た。

 

「まぁ~た、何にも聞けなかったんですかぃ」
「口の固ぇヤローだ」
「アンタが甘ぇんじゃねぇんですかぃ。
パクりゃあ良いじゃねぇかぃ」
「ヤツしか居場所を知らねぇ。
ヤツをパクりゃあ、銀時は一人ぼっちじゃねぇか」
「ホラ、甘ぇ。ま、仕方ねぇか」
沖田は土方をジッと見て聞く。
「まだ、何も思い出せねぇんですかぃ」
「ああ、」
少し口惜しい物言い
「もっかい、爆風に巻き込まれりゃあ、良いんじゃねぇんですかぃ」
「はっ!んな都合良く爆破事件ばかり、起きて堪るか!」
「ハハ、違ぇねぇ」