銀色の夢【完結篇】 参

―半月後―

 

万事屋

「んじゃ行って来る」
「うん。気ぃ付けて」
玄関先、二人は相変わらず、ラブ×2モード全開でキスをしていた。

新八は朝食の後片付けをしながら、二人の様子を見守る。

「銀さんも、体調が戻って一安心だね」
「そうアルな」
「神楽ちゃん、片付かないから、早く食べて」
「あいよ~」

 

「ふぅ」
銀時は吐息吐いてソファに座り、新八の煎れたお茶を飲む。
「大丈夫ですか?」
「うん。なんか、張る感じ」
銀時はお腹を撫でお茶を飲むと、吐息吐く。


「銀ちゃ~ん、定春の散歩行くアルよ」
「ああ、行ってきな」
「行かないアルか?」
「うん。なんかね…」
ダルそうに言う銀時。
「そうアルか」
神楽は定春連れて出掛ける。


「う~ん」
銀時は小さく唸り、洗い物をしている新八は、下手な鼻歌を歌う。

「なんだろ」

銀時は呟いて和食に向かい、敷いたままの蒲団に横になり、お腹を摩る。

 

「銀さん、どうしました?」
新八が和室に顔を出すと、銀時は小さく唸り
「なんか、腰が痛い…」
と、言う。
「摩りましょうか」
新八は銀時の背中に回り、腰を摩る。
「悪ぃね、なんだろ?
さっき迄何とも無かったのにさ…」
「まだ痛いですか?」
「うん。少し…」
新八に摩って貰いながら銀時は吐息を吐く。
「ああ、少し楽になったよ」
「そうですか。
少し寝た方が良いですよ」
「ん…」
銀時は目を閉じ新八は腰を摩る。
暫くすると、銀時はウトウトし始める。
新八はそっと薄掛けを掛けて部屋を後にする。


新八は掃除を始め、鼻歌。
気付くと、和室から銀時の呻き声が再び聞こえ、新八は慌てて和室に行く。
「銀さん?」
「新八、悪ぃ、腰摩って」
「はい」
新八は銀時の腰を摩る。

そんな事を何度か繰り返す内に、神楽も散歩から戻り、銀時の様子を見に来る。
「どうしたアル?」
「腰が痛いんだって」
「ずっとアルか?」
「神楽ちゃん出掛けてからずっとだよ」
「うぅ~ん」
呻き声を上げる銀時。
「大丈夫アルか?」
「ずぅん、ってぇか、重い痛み?」
銀時はシカメ面して、痛みに堪える。お腹を撫でる銀時、新八は腰を摩る。
何度か時間をおいて、波のある痛み具合を見ていた神楽は首を捻る。
「銀ちゃ~ん。
ソレ、陣痛と違うアルか?」
「うぅ~ん」
唸る銀時。
「ええッ?だって、腰が痛いんだよ?お腹じゃないよ?」
新八はびっくりして聞き返す。
「うぅ~ん、そう、かも…」
銀時の一言に新八は慌てだす。
「か、神楽ちゃん、救急車!救急車呼んで!」
「分かったアル!
救急車ァァァァア!!」
「またソレかいィィィィイ!!
ちょっとは学習しろよッ!!
学習機能付いてねぇのかよッ!!」
新八のツッコミに神楽は
「冗談アル!」
「冗談やってる場合かァァァァアッ!!」
新八に怒鳴られ
「分かってるアル!!」
と、電話を掛けに行った。

 

 


その頃土方は、山崎の運転で、パトロール中。

銜え煙草で窓枠に肘付いて外を見ている。
「山崎」
「はい」
「俺が、あの事件で爆風に巻き込まれた時の事なんだがな」
フーッと、煙りを吐き出し土方は言う。
「はぁ…」
山崎は内心”嫌だなぁ”と、感じていた。
「ありゃあ、八月の頭だったよなぁ、」
「はぁ、」
「目覚めた時ゃあ、九月も中場、半月前の事った」
「はぁ、」
「俺ァよぉ、ホントに一ヶ月の間、寝てたのか?
違うだろ、テメェ、本当の事、話せよ」
「ええッ?」
山崎は思いっ切り動揺していた。
「テメェのその反応で寝てただけじゃねぇって分かんだよッ!」
土方は煙草を灰皿に捩込み、山崎を睨む。
「ああッ!?言えやッ!!」
土方の凄味は健在だった。
「良いんですか?
本当の事、聞きたいんですか?」
「なんだ!その含みのある言い方ァ!!」
土方は山崎の肩を掴んで怒鳴る。
「ヒィィィィィィイッ!!
ぶつかる!ぶつかるぅぅぅぅうッ!!
危ないじゃないですかッ!!
殺す気ィィィィイ!!?」
ハンドルを取られ、フラ付くパトカーを路肩に急停車させ山崎は叫ぶ。
「テメェ…!知らぁ切ったら、ボコる!」
土方は既に山崎を殴りながら言う。
「痛い、痛い!
副長ォォ!殴る前に言って下さい!
殴りながら言わないでぇえ!!」
「なんだとゴルアァ!!」
「ヒィィィィィィイ!!
話しますよ!話します!
副長はあの事件で爆風に巻き込まれて記憶喪失になりましたッ!」
「記憶喪失?」
「はいッ!」
山崎はジッと土方を見詰め、様子を見る。
「記憶喪失…
で、次に目覚めた時ゃあ、二度目の爆破事件の後だった。
って事か…
こりゃあ、最初ン時の怪我か?」
土方は骨折した左腕を摩りながら聞く。
二度目の爆破事件の事は新聞を読んで知っていた。
「イエ、ソレは二度目の事件で…」
「それだけか?」
「え~」
「それだけじゃねぇだろ?
銀時の様子がおかしかったのは、何故だ?ああ?」
「ソレは、その、」
言い淀む山崎。
「はっきり言えや」
「副長は、旦那の事だけ忘れたんです」
「銀時の事だけ?」
「はい。それで、記憶喪失の副長は、旦那に」
「銀時に?」
「アンタ誰?と、旦那を女房じゃないと言って、」
山崎は上目使い、様子を窺う。
「俺が?銀時にそんな事を?」
土方は動揺していた。
「記憶が無いからって、んな事を…」
かなりショックを受けていた。
「あの時の旦那は、精神的にも不安定で、そこに追い打ち掛ける様な事を副長が言ったモンだから、旦那ァ死ぬって、」
「死ぬッ?銀時がか?」
「ええ、倒れて、入院しなきゃいけなかったのに、病院を抜け出して」
山崎は溜め息。
土方は続きを聞くのが怖い気がした。
「旦那ァ、万事屋に戻ってたんですが、副長、記憶喪失のくせに万事屋に旦那追い掛けて行って、旦那を酷く、傷付けた」
「俺が?銀時を傷付けた?」
「ええ、その時は、副長が旦那に何をしたのか、知らなかったんですが、後から仕入れた情報によると、副長はお腹の子の事も疑って、旦那を犯すだけ犯して、捨てたんです」
「ま、待て、俺が銀時を?
身重の銀時に?
そんな事をしたってぇのか?」
土方は耳を疑った。
記憶が無かったとは言え、土方は自分の取った行動が信じられなかった。
「嘘じゃないですよ。
本当の事です。
だから聞きたいのか、って、聞いたじゃないですか」
土方は顔面蒼白になり、唇を震わせていた。
「副長?まだ続き、ありますよ?
この際だから言いますが、
旦那、ソレ切り行方不明になりました」
「………」
土方は何も言えず、頭を抱え、両頬を擦った後、顔を上げ言う。
「続けろ」
「行方不明になった旦那が、何処で何をしていたのか、未だに分かりませんが、副長は沖田隊長と桂を追い回してました。
旦那が戻って来たのは、副長が二度目の爆破事件で、意識不明の重体と、TVか新聞か、何処かで聞き付けたからです」
「……」
「戻って来た旦那は、酷く痩せて、窶れて、見ていられない程で……
それでも、副長の意識が戻るのを、飲まず食わずで、見守ってました、倒れるまで、ずっと、」
土方は深く息を吐き、涙を拭った。
「俺ァ、何て事をしたんだ…
謝っても、謝り切れねぇ…」
涙する土方の隣りで山崎もつられ泣いていた。
「旦那ァ、ずっと、副長の名前、泣きながら、呼んでました。
だから、副長ォォ、目覚めたんですよォ」
「そうか…有り難ぇ…
んな、酷ぇえ事したのによ…」
「旦那ァ、案外、懐深い人ですからね。
副長、愛されてますから」
二人はしんみり、黙り込む。
「この事ァ…」
「誰にも言ってませんよ。
副長に聞かれなきゃ、副長にだって、一生言うつもり、ありませんでしたよ」
「そうか」

[そんな事があったってのに、銀時は何も言わず、変わらず、何も無かったかの様に接してくれる。
毎ん日、愛してると、言って、抱き締めて、幸せだと、言ってくれる。
銀時、済まねぇなぁ、こんな酷ぇえ男で……
本当、謝っても謝り切れねぇよ……
銀時……]

土方は黙り込み、煙草に火を付けた。
山崎は涙を拭った後、パトカーを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

黙り込む土方の携帯が突然鳴り、土方は携帯取り出し相手を確認する。
万事屋の番号だった。
「どうした?」
『志村です!
銀さん、陣痛が始まったみたいです!
今、救急車が、』
「陣痛?
予定日より半月も早ぇえじゃねぇか」
『ええ、でも、』
話しをする新八の後ろで銀時の呻き声が聞こえ、神楽の励ます声が聞こえた。
救急隊員の声。
「救急車来たのか?」
『はい、僕ら病院に向かいますから、土方さんも早く来て下さい』
「分かった」
『じゃあ』
新八は電話を切る。
「副長ォォォォォ!!
シートベルトして下さいィイ!!」
山崎は叫ぶと同時に急発進し、急ハンドル切って強引に方向転換した。
「テメッ!曲がる前に言えッ!!」
土方は強かドアに骨折した左腕と肩をぶつけ文句を垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―大江戸病院―

「済まねぇ!銀時!
俺ァ随分酷い事をした!
許してくれ!
記憶喪失だったとは言え、酷くお前を傷付けた!
許してくれ!銀時!
山崎から真実を聞いた!
銀時!!」
「うッ、うるっせぇェェェエ!!
アンタ、今、どんな時か、分かってるぅう?
いい、ィィィィイッ!!
痛ってぇェェェエ!!
クソッ!ジ、ジミーのヤローッ!!
余計な事ォォォォォ!!
いい~~ッ!
やがってェェェエッ!!
ブッ殺ォォォォォすッ!!」
銀時は分娩台の上で叫び、土方は銀時の手を握る。
「頑張れ!銀時!!」
「ひっ、ひっ、んん~~~ッ!」
「はい、吸ってぇ~」
「ひっひっ」
「吐いてぇ~~」
「ふぅ~~!いッ、はっはっ、」
「銀時!済まねぇ!ホント済まねぇ!
勘弁してくれ!銀時!」
「あッいいィィィィイ!
ん~~ッ!痛ぇえッ!
もう、うるせぇから!アンタ!うるっせぇからァァ!!
センセっ、このヒト外出してッ!」
「んだコルァ!
立ち合い出産って約束だろーが!」
「いぃいッ!
黙れゴルァァァァァア!!」
銀時は土方を怒鳴り付ける。
「あ、今の良いよ~、頭出て来たよ?」
医師の声に
「ナニっ!?」
土方は銀時の股間を覗き込む。
「うぉッ!!」
土方の叫び。
「ちょっ!トシっ!
ナニ見てんのォォォォォ!!
いぃやァァァァア!!」
「すげぇ!銀髪だ!」
「テメッ!黙れって!
んなトコ見んなッ!!」
銀時の叫びを無視して、土方はガン見、医師も一緒になって
「ホントだね」
と呟く。
「オメーら、ガン見してんじゃねぇッ!!」
「良いよ~、今の怒鳴り、来てるよ~。はい、いきんで~」
「んん~~~ッ!」
懸命な銀時に対し、土方は
「うぉぉッ!
生まれるぞッ!!」
と、叫んで銀時の手を握る。
「トシぃぃぃぃッ!!」
銀時の叫びに合わせ
「ほぎゃあ~~」
と、泣き声がした。

 

 

 

 

 

 

 

「いや~父は感動したぞ~!
良かったなぁ、銀四郎?父だぞ~」
「ちょっ!ナニ?
そのネーミングセンスぅう?
銀四郎てぇえ!」
「見てみろよ、銀時。
どう見たって銀四郎だろーが、銀髪で俺そっくりでよぅ、」
「アンタ、親バカですか?
親バカですかッ!」
土方は締まりの無いニコニコ顔で腕に抱いた赤ん坊を見ていた。
「ありがとうな、銀時」
土方は優しい笑みで銀時に口付けた。
「嬉しい?」
「ああ、嬉しいよ」
銀時を優しく抱き、髪を撫でる。
「んじゃ、さっきの、許してやるよ」
「ああ、ありがとうな。
銀時、愛してるよ」
そう言うと、土方はもう一度銀時に口付けた。

 

 

 

 

「銀四郎く~ん、新八お兄さんですよ~、分かりますか~?」
「何アル?ワタシが先ネ!
銀四郎~、神楽アルよ~?
銀ちゃん!ワタシ抱きたいネ」
銀四郎に手を伸ばす神楽。
「あ、ダメだよ。まだ首据わってないから」
銀時は神楽を止める。
「え?ダメアルか?
いつなら良いアル?」
「ん~、退院したら?
抱き方教えるからさ、まぁ、本でも読んで勉強して下さい」
「分かったアル」
「しかし、見事なバランスですよね」
新八は感心した風に言って銀四郎を見、土方、銀時を見る。
「本当アル、銀髪以外、土方アル。
ちっさい土方アルよ」
神楽も新八と同様に銀四郎、土方、銀時を見る。
「可愛いらしいじゃねぇか、なぁ?銀四郎?」
土方は、誰にも見せた事の無い、締まり無い顔をして銀四郎の頬を指先で撫でた。
「なんか、こうなると、銀さん、ホントにお母さんなんですね」
しみじみ言う新八。
「はぁ?どんな表現?
つーかさ、新八ずっと一緒にいたよね?
ナニ見てた?」
「ぜ~んぶ、見てましたよ。
銀さんが男だった時も、女の人になってからも」
「だよねぇ?なんでしみじみ?」
「いや~、なんか、感慨深いなぁ、と」
「ほきゃッ、ほきゃッ」
銀四郎が可愛いらしく、小さな泣き声を上げる。
一斉に銀四郎に視線を送る面々。
銀時は身体を起こし、土方はあっさり銀四郎を抱き上げて銀時に渡した。
「どして土方は銀四郎抱っこするアルか?
ずるいアル!」
怒り気味の神楽。
「イヤ、神楽ちゃん?
土方さん、お父さんだからね?」
銀時は寝間着の前を開け、胸をぽろんと出して新八を慌てさせた。
「アババババ」
くるり後ろを向く新八。
「おい、青少年にゃあ目の毒だろーが」
「あん?ナ~ニ、エロい目で見てんですか?」
銀時は勢い良く乳を吸う銀四郎の頭を撫でながら言う。
「おぉ~~良く飲んでるアルぅ~」
感心して呟く神楽。
流石に新八も、それは見るに見れない銀時の姿だった。

 

 

 

夕方
突然やって来た、お登勢とキャサリン、そして病院の前で一緒になったお妙。
「銀時、邪魔するよ。
無事生まれたってぇ?
男の子って新八から聞いたよ。
どうだい調子は?」
「うん。良いよ、息子の銀四郎くんです」
お登勢はベビーベッドに眠る銀四郎を見詰める。
「おやおや、土方の旦那にそっくりじゃないかい」
お登勢はそう言うと銀四郎の頬を撫でる。
「ホントねぇ」
「銀四郎イイマスカ、カッワイイデスネ、コノヤロー」
「コノヤローは無いわよ?
キャサリンさん?
でも、銀四郎くん、銀髪以外、土方さんそっくりだわねぇ」
感心するお妙。
「良いじゃないかい、銀時みたいに死んだ魚みたいな目した男よか、土方の旦那似なら、多少、瞳孔開き気味でもさぁ、男らしくてねぇ」
お登勢はそう言うと嬉しそうに銀四郎を見て笑った。
「ちょっ!ソレ褒めてんの?
ねぇ?褒めてんの?
褒めて無いよね?
ちょっ!ババァ!聞いてるぅぅぅう!?」
銀時の問い掛けにお登勢は笑う。
「銀四郎クン、将来オマワリデスカ?近寄リ難イデスネ」
「アンタ泥棒稼業から足洗ったんだろ?
びびる事ァないだろ」
「泥棒ハヤメマシタ。
デモ、オマワリ避ケル、昔ノ癖、簡単ニ抜ケ無イデ~ス。
ダイイチ坂田サン、万事屋ナンテ、ヤクザナ稼業シテテ、警官ト結婚ナンテ、アリデスカ」
銀時はキャサリンとお登勢の会話を聞きながら
「なんですかぁ?ヤクザな稼業ってぇ?
アタシが誰と結婚しようが、アンタにゃ関係無いでしょ~が」
と、キャサリンに言う。
「オメーが盗っ人だってぇのは、昔の話しだろーが、俺ァんな事ァ、気にした事ァねぇぞ」
土方は言う。
「土方サン、アナタ良イ人ネ」
「銀時、アンタは旨いモン食って、ゆっくり休みな。
アンタ今日、誕生日だったろ?
息子も同じ日ってぇ、何の因果かねぇ」
お登勢はそう言って土産のケーキの箱を指す。
「ちょっ!ババァ!因果って!ナニッ?
アタシと同じ誕生日だと、銀四郎くんが不幸だってぇの?
聞き捨てならねぇ事言ってんなァァァァア!!」
「んなつもりで言ってねぇよ、悪気はねぇんだよ。
ホラ、誕生日ケーキ買って来たからよ、心して食いな」
「心して、って、ババァ」
「オイオイ、銀時、ナニ苛立ってんだ?
落ち着けって、な?」
土方は銀時を宥める様に抱き寄せる。
「だってぇ~」
「不幸ってんじゃ無いよ。
アンタはこれから幸せになんのさ。
良い旦那に可愛い息子。
手放すんじゃ無いよ」
お登勢の視線を受け、銀時は一瞬、考える顔をした後、笑顔で頷いた。
「うん。今日はありがとね」
「さぁ、キャサリン帰るよ。
今日は顔見に来ただけだからね。
長居は良か無いよ、おいで」
「ソゥデスカ。デハ」
キャサリンはいつもの様に”スチャッ”と、二本指を額に当てる挨拶をして去って行った。

「銀さん土方さん、銀四郎くん誕生おめでとうございます。
お疲れでしょうから、日を改めてまた伺いますね。
銀さん、私に出来る事があれば言って下さいね。
お手伝いしますから」
「ありがとね、お妙」
「銀さんたら、すっかりお母さんですね。羨ましいわ」
お妙の視線の先には、銀時の豊かな胸があった。
「お妙も、子供出来りゃ、大きくなるよ?」
「まぁ、銀さんたら、セクハラですよ」
お妙は笑顔で言うが、目はマジだった。
「じゃあ、また」
「ああ、ありがとね」
銀時は笑顔で送り出す。

銀四郎誕生その日の内に見舞いに訪れたお登勢、キャサリン、お登勢だった。

実を言えば、廊下に真撰組の隊士達が列を成していたが、それで病院側からクレームを受けた土方は、近藤と沖田だけを通した。

「男の子か、トシそっくりだなァ
男前になるぞ」
「ホントですぜぃ。
土方Jr.じゃねぇですかぃ。
ミルク替わりにマヨチュチュしそうですぜぃ」
沖田は銀四郎を見詰め言う。
「赤ん坊だからな、まだマヨは早ぇえだろ」
「イヤイヤ、マジで。
そんくれぇ、似てまさぁ」
土方と沖田のバカな会話を聞き、銀時は否定する。
「銀四郎くんはマヨなんてモン食べません!
アンタらさぁ、ったく、大挙して産科来るモンじゃねぇよ?
つーか、仕事しろよ
江戸の平和を守ってろよ、ふぅ…」
ちょっと疲れた表情の銀時。
「大丈夫か?
あんな大仕事の後だからな。
疲れたろ?ゆっくりしろよ」
土方は銀時を労り、横になる横に促す。
「ああ、まぁ、」
銀時は言われるまま横になり
「そうですねぃ、
旦那ァ、お疲れさんでした。
一時は色々、どうなる事かと思いやしたがねぃ」
沖田も同調する。
「ああん、良いんだよ、んなの。
結果良けりゃさ。
何やかや色々あったケド、こうして銀四郎くんも無事生まれた事だしね」
銀時は優しい微笑みで銀四郎を見詰める。
「んじゃ、長居は良かねぇんで、俺ァ帰りまさぁ。近藤さん、行きますぜ」
沖田に促された近藤は、名残惜しそうに銀四郎を見ている。
「何?ゴリさん?
アンタ子供好きなんだ?
まぁ、ゴリラは愛情深いってからねぇ」
「ゴリラじゃねぇ、近藤さんだ」
「はいはい、今度抱かせてあげるから」
「おお、そうか。
楽しみにしてるぞ」
近藤は嬉しそうに笑った。
「行きますぜぃ、近藤さん。
んじゃ旦那ァ、ゆっくり休んでくだせぇ」
沖田と近藤は連れ立って帰り、残った土方は銀時の頬を撫でる。
「バタバタしちまったな。
大丈夫か?」
「うん。ずけぇ、疲れた。少し眠るから」
「ああ」
土方は銀時の頬に口付け、髪を撫でて手を握る。
「ありがとうな、銀時」
銀時はニッコリとして、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


一週間後

退院した銀時と銀四郎が万事屋に帰って来た。

万事屋の中は出産祝いの贈り物で溢れ返っていた。
「ナニ、コレ?」
銀時は驚き、土方は謝る。
「済まねぇ。ウチの連中が祝いに寄越した」
「ちょっ!アンタんトコ100人以上居るだろ?
まさか、全員?」
「ああ、屯所にもまだある」
「ぇえッ!お返し大変だよォ?
どうしてくれんの?」
「どうしてくれるって、オメー、祝いを断るか?フツー」
「まぁ、そうだケドさぁ、」
「上司の祝い事に何の祝いもしねぇ部下は居ねぇぞ?」
「それもそうか、うん。この件はトシに任せた」
銀時はそう言ってニッコリ笑った。
「お?ベビーベッド?
随分気の利いたモンあんじゃん」
銀時は銀四郎をそのベビーベッドに寝かす。
「そりゃあ、総悟のヤツが寄越した。
銀四郎を檻に入れるなんざ、俺ァ好かねぇがな」
「檻って、アンタ、まぁ?似てなくもないケドぉ?
動きが活発になる頃には丁度良い、役立つよ」
銀時は終始ニッコリしたままでいた。
「なぁ、」
「ん?」
土方は銀時を抱き寄せ
「立派な男に育て様な」
と、言う。
「そうだね。
ナニが立派か、定義は不明だケド、良い子に育つよ」
「剣道は外せねぇな」
「ああ、んじゃ新八ん家立て直さないと」
「志村ん家か、そう言ゃあ、道場の再建が目的だったなぁ」
「そ。ま、銀四郎くんにはアタシが教えてあげるケドぉ」
「我流だろーが」
「あん?トシだってそうだろ?
勘と閃きだけで動いてるくせに。
トシお得意の先読みもさぁ、アタシにゃ敵わなかったんじゃねぇの?
アタシのが反応良いからさぁ」
「ああん?喧嘩売ってんのか?」
「買う~ん?」
銀時はニヤリ、土方を抱き返す。
そして口付けると
「ヤニ臭ぁ~い」
顔を歪める。
「ああ、悪ぃ」
「もう、居ない間、吸い捲くりだったろ?」
「ああ、此処じゃあ吸ってねぇぞ」
「身体に毒だよ?パパさん」
銀時はニッコリする。
「イヤ、パパは駄目だ。
俺ァ父と呼ばせる」
「アレ?そう言う意味じゃないケド?」
「なんだ?オメー、ママなんて呼ばれてぇのか?
俺ァ横文字の呼び方は好かねぇ」
「あん?何だって良いよ。
ママでもパパでも」
「イヤ、一応オメー母親だからよ、母って呼ばせろ」
「はいはい、元男の母ね」
「そりゃ言わねぇでくれ、ホント済まねぇって思ってるからよ」
土方は申し訳なさそうな顔をする。
「謝る事ァねぇよ?
俺ァどんな人生でも楽しめる質だからよ。
んなシケタ面すんなって、な?
もう、こんな喋り方しないから、銀四郎くんの為にも、良い母親になるよ」
銀時は真剣に言って土方を抱き締める。
「銀時…
オメーを選んだ俺の勘に狂いはねぇよ。
オメーと共に生きて行ける。
俺ァそいつを誇りに思うよ。銀時…」
「嬉しい」
銀時はニッコリして土方に口付けた。

 

 


その日、貸し切りの”スナックお登勢”で、銀時と銀四郎の為の祝宴が催うされ
不思議な縁で、夫婦となり子を成した土方と銀時を皆が盛大に祝ってくれた。

終始ご機嫌な土方と幸せに微笑む銀時、胸に抱かれた銀四郎はぐっすりと眠り続けていた。

注がれる酒を次々と飲み干す土方を見ながら銀時は、微かに頷く。

”掴めるとは思わなかった幸せを掴めたのは、土方のお陰なんだろうな……
ま……
女になるとか、子供産むとか、考えもしなかったがなぁ……
これも幸せってやつの代償なら仕方ねぇな。
俺ァ今、すげぇ幸せだし”

銀時はクスッと笑い土方を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


銀色の夢【完結篇】

 

おわり