銀色の夢【京都篇】 肆

 

 

坂戻り―

立ち去ろうとする銀時を一瞬見ただけの土方に
「アンタさぁ…まぁ…いいや。じゃ…」
銀時は何かを言い掛けて言葉を飲み込み 踵を返し サッサと歩き出した。
「銀時、待て、」
妓達の手を強引に引き離そうとすれば出来た。
なのに土方は妓達を傷付け無い様に気遣った。
「オイ」
振り返り見れば 銀時の姿は無かった。
「銀時?」
「行ってしまはれましたなぁ」
「何処の妓さんか知らへんけど、土方はんなぁ」
「何処の妓?」
妓達が銀時の事を何処かの見世の女だと思っていたのだと知り 土方は後悔した。
そして 銀時自身は妓達の思いに気付いていたのだと 思い知った。
「ありゃあ、俺の女房だ」
慌て 妓達の手を強引に引き離した。
「なんどすて?」
「ほない嘘言わんといて下さい」
「ほんまやわ」
妓達は信じられないと笑う。

[そんなに不似合いか?
ヤローが変な恰好しやがるから…
イヤ、俺の曖昧な態度が悪ぃのか!クソッ!]

「うるせぇ!」
土方は自分の甘さを呪った。
「イヤやわ!ほんまどすの?」
「ほな、奥方さん、怒ってしもうたん、ちゃいます?」
「どないしまひょ」
妓達は土方の顔色を伺い 土方は銀時が歩いて行った方向へ走り出した。

迂闊にも 銀時を一人にしてしまった。

「銀時!」

「銀時!」

どの小路にも銀時の姿は無かった。

「銀時!」
「クソッ!!居ねぇ!」

高杉が銀時の命を狙っているのを 土方は今更ながら思う。

「まさか!」

銀時は携帯を持っていない。
逸れた今 連絡の取り様は無かった。

「畜生!!馬鹿か俺ァ!
どうして銀時を一人にした!」
「クソッ!!」
土方は携帯を取り出した。

「総悟!」
『なんでぇ、土方さん』
「済まねぇが、手を貸してくれ!」
『高く付きますぜ?』
「ああ!構わねぇ!」
『何すりゃあ良いんでぃ』
「銀時が消えた」
『はぁ?アンタ何やらかしたんでぇ、』
「んな事ァどうだって良い!」
『んで?旦那ァ何処で消えたんでぃ』
「祇園だ」
『んじゃ、さっきのお人ァ、やっぱり旦那に違ぇねぇ』
「見たのか!?」
『チラッとねぇ、アンタが妓達に囲まれ、鼻の下延ばしてる間にねぇ、』
「総悟!テメェ、近くに居るのか!」
『居ますぜ、アンタの直ぐ後ろにねぃ』
総悟は電話を切り、土方の基に駆け寄った。

「総悟!銀時ゃ何処行った!?」
「旦那なら、連れ去られやしたぜ、アンタ、何ボケかましてんでぇ」
「連れ去られただと!?」
「ありゃあ、高杉晋助でさァ」
沖田はいつもの表情を崩さず言い
「テメェ!見てただけかッ!!」
土方の怒りは更に沖田を冷静にさせた。
「アンタにゃあ、言われたかねぇ、俺ァ車に押し込められる所をチラッと目にしただけでさァ」
「クソッ!!」
「あんなヤバイ野郎に拘引されるまで気付かねぇなんて、アンタ、本当に守らなきゃなんねぇモン、間違ってねぇですかぃ」
「ああ!間違ってたよ!!
色街の妓に気ぃ使ってる間に、大事な銀時を拘引されたよ!!
高杉に拘引されるなんざ、思いもしなかったよ!!
これで良いかッ!!こんちくしょう!!」
土方は怒りを爆発させる様に怒鳴り散らした後 大きく息を吐き出した。
「分かりゃあ良いんでぃ。
チッたァ落ち着きやしたかぃ。
高杉の車は新八が追ってまさァ」
沖田の意外な言葉に土方は聞き返す。
「志村が?」
「ええ、時に土方さん。
アンタ旦那が危ねぇ目に会うって、知ってたんじゃねぇんですかぃ」
沖田は真っ正面から土方を見据えた。
「ああ。知ってた。
俺と祝言挙げた事で、銀時を狙って来るのを、
俺ァ知ってた」
「迂闊にも程があらァ。
どう言う経緯があったか、知りやせんが、
アンタどうしちまったんでぇ」
土方は答えず 次の行動を考えていた。
「新八に連絡してみまさァ」
沖田は携帯を取り出し新八に掛け 土方にも聞こえる様 スピーカーに切り替えた。

「新八、今どの辺でぃ」
『亰は初めてで、ですが、運転手さんの話しでは、ここのまま行くと、舞鶴へ行くそうです』
新八は予め 運転手に聞き出していた。
「舞鶴、ヤツは船を持っていたな…」
土方の呟きに 沖田は頷く。
「桂達と揉めた時にだいぶ破損したらしいが、確かに持ってまさぁ」
『船、銀さんを船に?
僕も上手く乗り込みます』
「待て志村、お前には無理だ」
『無理な事なんて無い!
誰が銀さんを助けるんです?
僕しか居ないじゃないですか!』
「オメー丸腰じゃねぇかぃ。
敵の船に乗り込むなんざ、止めとけぃ。
後ァ俺と土方さんで何とかするからよ」
『嫌だ!』
「銀時助ける前に死ぬ気か?
お前はどの船に乗り込むのか、確認してくれ。
いいな?志村」
『……』
「新八ィ、聞いてねぇ、とにかく俺らも舞鶴港に向かう。
港で待ってろぃ、チッ!
切りやがった」
「俺ァ近藤さんに連絡する」
「んじゃ、俺ァ近くの警察署から、足の早ぇえ車、借りて来まさぁ」
沖田は走り出し 土方は近藤に連絡を入れた。


銀時が攘夷志士 高杉晋助に拘引された事。
高杉の車が舞鶴港へ向かっている事から 空へ逃亡を計るであろう事をかい摘まんで話した。

『分かった、とっつっあん二は俺から軍艦の出撃を要請する、トシは総悟と港へ向かえ』

 

土方から 銀時が過激攘夷志士 高杉晋助率いる鬼兵隊に拉致監禁されたとの連絡を受けた
真撰組 局長 近藤勲は 警察庁 長官 松平片栗虎に 軍艦の出撃を依頼。

先に向かった土方副長と 沖田隊長と合流すべく
沖田を隊長とする一番隊と 斎藤終を隊長とする三番隊を召集し 近藤局長は軍艦に乗船した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


新八に遅れる事 一時間近く後
舞鶴港に着いた土方と沖田は 既に暗くなった港で 軍艦からの迎えを待っていた。


高杉は商船の様な 大型船に銀時を連れ乗船すると
港 官制センターの忠告を無視して 出港した事を 新八から知らされた土方は その旨 軍艦に連絡し 件の商船の追跡を開始する事とした。

 

苛々と不安げな新八を 土方は冷静に対処した。
新八は二人の言い付けを守るつもりなど 毛頭無かったが 高杉の船に乗り込む余裕も 無かった。

「お前が無事で良かった、志村」
と 言う土方の言葉など慰めにもならなかった。
「土方さん、これ」
新八は刀を一振り差し出す。
土方は黙って受け取り しばし見詰めた後 腰に差す。

[コイツを振るう間も無かったのか…]

土方の思いを察した様に新八は呟く。
「銀さん…」
沖田は気にしている新八の肩を抱く。
「大丈夫だ、直ぐに追い付く」
「でも、土方さん、どんな船か分からないじゃないですか、僕は、」
「志村、気にするな」
「無理です!僕が乗り込めば」
「何とも仕様がねぇ。
いいか、お前は戻れ、みんなして居なくなったら、お妙や神楽が心配する。
拘引された事も悟られちゃならねぇ。
言ってる意味、分かるな?」
土方は真剣に言い 新八はただ頷いた。
「こうなった責任は俺にある。
お前が気にする事は無い、分かったか?」
「はい…」
新八は渋々返事をした。

「土方さん」
沖田は近付き来る軍艦からの連絡を受け 土方を呼ぶ。
「志村、後の事は頼んだ。
銀時の事は、誰にも話すな、イヤ、聞かれても、知らないで通せ」
「分かりました」

上空の軍艦から小型船が降り立ち 土方と沖田は急いで乗り込んだ。
「土方さん、銀さんを生きて帰らせて」
新八は小さく呟き
「さぁ、戻ろう」
と 土方と沖田が乗って来た 京都府警察の警察官に促され 新八は車に乗り込んだ。

 

 


軍艦に合流し乗り込んだ土方の怒りは烈火の如くであり 先に乗り込んだ真撰組隊士の緊張と志気は高まった。

 

本日の”死番”である三番隊は高杉等鬼兵隊の船に追い付けば いの一番で白兵戦に持ち込み 切り込む事になっている。

 

皆”死番” としての心得 覚悟は出来ている。

 

隊士達は土方の立てた作戦通り 実行し 熟すだけだ。

 

「奥の座敷に女が居るぜ
ちょいと毛色は変わっているが いい女だ」
「へぇ、誰の客だ?」
「さぁて、薬で眠らされてるみたいだぜ」
「じゃあ、いつもの…か?」
「ああ、そうだろうな」
男達は下卑た笑いで頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 


重く…苦しい
息苦しい……
躯が痺れている……
人…人…人…人…
人の視線………
下卑た笑い…

躯が激しく 揺れている…

痛い様な…
気が…する……

重い……苦しい……


「気が付いたかい?ねぇさん」
下卑た笑いが上がる。

銀時は 見知らぬ男達に囲まれ 見知らぬ男に犯されている事に 気付いた。

現状が飲み込め無い。
銀時は自分が素っ裸にされ 両手は縛られ 繋がれている事
そして 既に何人かに犯されていた事を 少しずつ 理解した。

[なんで…こんな事に……]

銀時に考える間を与えず 男達は 銀時を犯しにかかった。

集団で犯す事は 銀時が目覚めるまで 待っていた とでも言う様に 男達は群がる。

抵抗し様にも 全身が麻痺したかの様で 動かす事は疎か 思考さえ正面に出来ず 銀時は苦痛を与えられ続けた。

取り囲む男達に遠慮は無かった。

好き勝手に犯し続ける。

口を 胸を 尻を 性器を汚され 銀時は苦痛の中 何度も悲鳴を上げ 気を失った。

終わり等 来無い気がした。

永遠に続く 苦痛なのだと思った。

人としてでは無く 男の欲望を注ぐだけの物として扱われ 快楽など 銀時には一つも与えられ無かった。

 

そして 意識は遠退く………