―12月―
―真選組屯所―
万事屋から土方一家が引っ越して来た。
銀時は家族全員で近藤に挨拶をした。
「お世話になります。
よろしくお願いします」
銀時は銀四郎を膝に乗せ頭を下げる。
「おお、自分の家と思って寛いでくれ」
「イヤイヤ、そうは行かねぇ」
土方は渋い答え。
「なんでだ?トシ」
「寛いでなんつってみろ、調子に乗って何やらかすか分かったモンじゃねぇ」
「隊に影響無ければ構わんだろ」
近藤は銀四郎に笑い掛け言う。
「分かってるアル。
邪魔はしないアルよ」
「銀四郎くんも、静かな子だから、大丈夫だよねぇ?」
「あい」
可愛らしい声で銀四郎は返事をした。
それだけで近藤はメロメロ表情。
「定春だって良い子アル。ねぇ?定春?」
「アン!」
「いいじゃないか。
誰も反対しなかったし。
それに銀時は何度となく宿泊してるしな。
その時も、問題無かったろ」
「ああ、そうだな。
じゃ、離れの方に行くよ」
土方は皆を促し近藤の部屋を出る。
「ちち~」
銀四郎は隊服のまま寛ぐ土方に纏りつき、土方は銜え煙草で銀四郎の頭を撫でる。
「んもう、眉間にシワ。大丈夫だって、大人しくしてるから、ね?」
銀時は土方の後ろから抱き付いて言う。
「ああ、只な、男所帯だからよ」
「ああ、んなの平気だってぇ、前ん時だって、だ~れも、何もして来なかったじゃん」
「そうだな、」
「考え過ぎだよ」
「ちちぃ、おしごとぉ?」
銀四郎は土方の膝の上でころげながら笑う。
「ああ、そうだ。
銀四郎、良い子にしていろよ」
「あい」
「土方さん、そろそろ見回りの時間でさぁ」
廊下に佇む沖田。
「あ~、そうちゃ~ん。こんにちは~」
銀四郎は土方の膝に逆様に寝転がったまま挨拶する。
「おう、Jr.父上借りるぜぃ」
「あ~い」
ニコニコの銀四郎を抱き上げて沖田は言う。
「しんちゃん、いないのぉ~」
「ああ、新八なら後で来るぜぃ」
沖田は銀四郎を銀時に返し、身仕度済ませた土方が挨拶済ますのを待つ。
「んじゃあな」
「行ってらっしゃい」
「しゃい」
土方は銀時と銀四郎にキスして部屋を後にした。
「ねぇ?神楽は?」
銀時は銀四郎に聞いてみるが、銀四郎に分かる筈も無かった。
「いないの~」
銀四郎は部屋の中を歩き回りアチコチ覗き見する。
「はは~?ここどこぉ~?」
「ここはね、真選組の屯所。
父上のお仕事の場所ですよ。
今日から三ヶ月の間、新しいお家が出来る迄ここが銀四郎くんのお家です」
「ちちぃ~♪おしごとぉ~♪
ぎんちろのぉ~♪おうちぃ~♪」
銀四郎は楽しそうに歌いながら身体を揺すり、部屋を歩き回り、外廊下に立ち庭を見て言う。
「はは~おんもでぇ~あそぶぅ~」
「はいはい」
銀時は銀四郎を抱いて庭に下り、銀四郎を遊ばせた。
楽しそうな笑い声が離れの庭から聞こえ、近藤は気になって仕方無い様子。
「局長、仕事して下さ~い」
山崎に言われ、近藤はイヤイヤする。
「銀四郎くんと遊びたいよォ」
「アンタ、幾つになんだよ!
31だよ?31!良い年して仕事ほっぽらかして赤ん坊と遊びたいってぇの?」
「だってさぁ、銀四郎くんさぁ、可愛いいんだモン。
絶対さぁ、トシもさぁ、赤ん坊の頃は銀四郎くんみたいにさぁ、可愛いかったよねぇ」
「そりゃ、銀四郎くんは可愛いよ?
そりゃ、副長も可愛かったと思うよ?
ケドね!副長は外回りに出てんのに!
局長が遊んでる訳に行かないでしょ!」
「チェッ!ザキのケチ!」
「ケチでもナンでもいいよ!
仕事しろよ!」
「はい」
近藤はシュンとして机に向かった。
「さぁて、銀四郎くん。お昼ご飯は何を食べたいですか?」
「ごはん!」
「はいはい。おかずは?ナニ?」
「お~か~ず~」
銀四郎は只、銀時の問い掛けを復唱してご機嫌に身体を揺する。
「お魚と、お野菜と、」
「おみちょちるぅ~」
「はいはい」
銀時は屯所の食堂の台所の片隅を借りて、銀四郎のお昼ご飯作りをしようとしていた。
「副長のお内儀とも有ろう方が、食事の仕度でしたら私共がしますから」
食堂のおばちゃん達に言われ、銀時はニッコリ言う。
「いいんですよ。朝から晩までお世話になっては申し訳ありませんもの」
「何言ってるんですか。
こりゃ私共の仕事ですから。
内儀は座って坊ちゃんとお待ち下さいな」
銀時は食堂へ追いやられ、銀四郎と、昼餉が上がるのを待った。
「あらま、上膳据膳ですか?」
銀時は隊士達の視線を浴びながら銀四郎に話掛ける。
最近入った新しい隊士達は遠巻きに銀時を見てヒソヒソ話。
元からいる隊士は気にした風も無く、挨拶程度。
「前に副長の迎えに行った時、チラッと後ろ姿見てな、そん時ゃ、髪を銀髪に染めたハデな嫁さんだと思ったが、ありゃ、地毛なんだな」
「みてぇだな。見ろよ、坊ちゃん、副長そっくりな顔してるぜ?髪は銀髪だがな」
「しかし、何だな、副長の奥方は、エラい別嬪だなァ」
「ああ、色っぽい、とても子持ちにゃあ見えないな」
「見ろよ、あの艶っぽい唇、濡れ光ってるぜ」
「ああ、エロいな。物憂げな表情、伏し目がちな瞳、色っぺぇなぁ」
「色気ムンムンだぜ?
副長、いい女、女房にしてんなぁ」
ヒソヒソ話す隊士達の後ろに立って、沖田は囁く。
「身体付きも最高の床上手でさぁ」
「ああ?マジでか!?
チクショー羨しいぜ。
背が高くて、こう、乳も尻もバーンで、」
「肉感的ってぇか、エロ過ぎる!堪らねぇ、」
「なぁにが、堪らねぇんだ?」
「イヤ、副長の奥方が、」
と、言いながら振り仰ぐ隊士の視線の先に土方がいた。
「ふッ、副長ォォォォッ!!!」
刀に手を掛ける土方を全員が見詰める。
「テメェ等、人の女房をエロい目で見て、キンタマおっ勃ててんじゃねぇッ!!
ブッ殺すぞッ!!
コ"ル"アァァァ!!」
―カチリ―
と、鍔を切る音。
「ヒィィィィッ!!!」
「すッ、すんまっせ~んッ!!」
ヒソヒソ話をしていた隊士達は蜘蛛の子を散すかの様に一斉に逃げ出した。
「ちちぃ~」
奥のテーブルで手を振る銀四郎。
銀時はニッコリする。
「早速、エロ話?
アンタ青筋凄いから。
おっかない父上ですねぇ」
銀時は笑って銀四郎に言う。
「おっかぁ~い~、きゃっ、きゃっ」
はしゃぐの銀四郎に土方は溜息吐く。
「やっぱ余所に住む所探そうぜ」
「ふふん。ヤ」
「ヤ。じゃねぇよ?
テメェ、なんかされてみろ?
殺すぞ?仲間だろーがなんだろーが、マジ殺すぞ?」
「アハハ、殺りゃいいじゃん」
「オメー、満面の笑みで殺せ発言かよ」
「ふふん。悪い?
アンタの気が短過ぎなんだって。
若いあんちゃんだもん、エロい話くらいするでしょ」
「俺ァオメーでエロい話されたかねぇ」
「ああん、かわいい人」
銀時はワザと、エロい顔をして土方を見詰めた。
「銀時、テメェ」
「ハイハイお二人さん。
エロモードはその辺にしときなせぇ。
昼餉が出来やしたぜぃ」
「そうちゃ~ん、ぎんちろのごは~ん」
「Jr.の昼餉もおばちゃんが用意してやしたぜぃ」
「アラ」
銀時は呟いて銀四郎を土方の膝に乗せ膳を取りに行く。
「土方さん、旦那ァ面白がってやすぜぃ。
向こうのテーブル、半数のヤローが、キンタマおっ勃ててやすぜぃ。
その内マジ血ぃ見そうだ。なぁ?Jr.」
沖田はニヤリ言う。
「うるせぇ、」
「第一、旦那ァエロ過ぎでさぁ。
全身性器ですぜぃ」
「銀時を性器呼ばわりかよ!
殺すぞっ!テメェ!」
「イヤイヤ、ホントの事ですぜぃ?
俺ァ、キンタマおっ勃てちゃ、いやせんぜ?
俺を睨むなんてなぁ、お門違いでさぁ。
キンタマおっ勃ててんなァ、ヤツらですぜ」
「テメェ、メシ時にキンタマ、キンタマ連呼してんじゃねぇ!」
「ぎんだま~ぎんだま~」
連呼する銀四郎。
膳を両手に戻って来た銀時は、土方の前に一膳置き、自分の所に一膳置いて、ニッコリ銀四郎を見詰める。
「アラアラ、銀四郎くん何ですか?
銀魂、銀魂、タイトルコールですか?」
「ぎんだま~!」
「なんて可愛らしいのかしら?
食べちゃいたいくらいですよ?」
「たべりゅ~!」
銀四郎は万歳をして土方の顎を殴った。
「ッてぇ、」
「ナイスだぜぃ、Jr.。
土方さんへのアッパーカット、ゲ~ッツ!」
―バシャリ―
携帯カメラで激写した。
「ぉおぅ~、そうちゃ~ん、ぎんちろの~、おちゃち~ん」
銀四郎は自分も撮ってくれと、アピールする。
「アラアラ銀四郎くん?
その前に父上にごめんなさいは?」
銀時に言われ、銀四郎は首を捻る。
「父上に痛い痛いしたでしょう」
「あい!めんちゃい!」
銀四郎は大きく頷いて謝るポーズ。
―バシャリ―
「総悟ォ、何枚目だそりゃ、ああ?」
「かなり溜まりやしたぜぃ。
その内個展でも開きまさぁ」
「馬鹿言ってら」
土方と沖田が話をしている間に、銀時は銀四郎にセッセとご飯を食べさせていた。
土方は器用に銀四郎の体勢を変え、銀時の方に向け、自分の分の昼餉を掻き込み始めた。
「ちちぃ~ぎんちろの~まよぉ~」
銀四郎は土方の方に顔を向け、口を開ける。
そこへ、土方はマヨネーズの乗ったご飯を放り込む。
「めッ!銀四郎くんはマヨ食べちゃいけません!」
銀時のセリフに土方は眉を顰め
「食いてぇってんだ。構わねぇだろ」
と、銀時を睨む。
「冗談じゃありません!
銀四郎くんはマヨ禁止です!
まだ3才にもなんないんだよ?
んなモン食べたら早死にします!」
銀時に言い返され、土方はムッとする。
「んなモンで死なねぇ」
「分かんないじゃん!」
「ああんだとコルアッ!!」
土方の怒鳴り声が響く。
「副長、何奥さん怒鳴り付けてんだ?」
「怖ぇえ、」
「あんなオットリした奥方じゃ、泣くんじゃねぇのか?」
隊士達はヒソヒソ話し、土方と銀時を見守る。
「だいたいなぁ、マヨ食ったくれぇで死ぬかってんだよ!」
「アンタねぇ、3才にもなんない内から、マヨなんか食っててみ?
アタシらの年にゃあ、アンタ、アレだよ?
おっかねぇ事になんだよ?
コレステロールたっぷりで、血管バーンだよ?」
「んな訳あるかッ!
な~にが、血管バーンだ!
んっな、馬鹿な事言ってっから腹黒悪徳医師に騙されて、肝臓だか腎臓だか分からねぇ臓器摘出手術されそうになんだよ!!」
「うるせぇよ?
今更んな昔話、持ち出すんじゃねぇよ!
子育てはアタシの担当じゃねぇ?
アンタ余計な口出しすんじゃねぇよ?
アンタに似てんのは、
顔だけで充分だってぇの!
嗜好まで似て堪るかってんだよ!」
「ああん?なんだと?テメェ?
そりゃどう言う意味だ!ああッ!?」
「なんだじゃねぇよ?
やんのか?コラッ!」
「上等だッ!コ"ル"ア"ッ!」
土方はテーブルに銀四郎を置き、銀時の胸倉掴む。
まさに角突き合わす状態の土方と銀時。
他の隊士達は固唾をのんで成り行きを見守る。
「土方さんや~い、みんな見てやすぜぃ、夫婦喧嘩は犬も食わねぇってんだ。
余所でやれよ!土方コノヤロー!」
「こにゃろ~!」
銀四郎は大きく叫ぶ。
「ちょっ!アンタ!
銀四郎くんに何て事教えてくれてんのぉ~?」
「こにゃろ~」
銀時は土方の手を払い除け銀四郎を抱き上げる。
「銀四郎くん?
こにゃろはダメですよ?」
「こにゃろ~」
「沖田!テメェ!
どうしてくれんだよォォォォッ!」
銀時は沖田の襟首掴んで揺さぶる。
「アハハ、んなの知ったこっちゃねぇや、アハハハハ」
笑い続ける沖田につられ、銀四郎も笑い出す。
その光景を見て隊士達は驚き、引く。
鬼の副長と角突き合わせ、怒鳴り合い、沖田の襟首掴んで揺さぶる様な事を出来る人間が居ようとは、思いもしなかったからである。
それが、一見おっとりとした、優しそうな美人であれば尚更だった。
「なんだ、ありゃ・・・
怖ぇえ光景だぞ?」
「なんか、見た目と、違くねぇか?
副長の奥方・・・」
「ぽや~っと、オットリした顔して・・・」
「怖ぇえ・・・」
「俺達でもビビる副長の怒鳴にも無反応、胸倉掴まれても動じず、逆に睨み返し、喧嘩売る」
「沖田隊長の襟首掴んで揺さぶり、怒鳴り付けるなんて、おっかねぇヒトだ」
「流石、副長の奥方だけは、ある」
「じゃなきゃ、副長の奥方は勤まらねぇのか?」
隊士達は、またもヒソヒソ話。
どんなにエロい別嬪でも、銀時にちょっかい出すのは止めようと、心に決めた新人隊士達だった。
「座れよ」
土方は銀時の着物の袖を引っ張り座らせる。
「銀四郎にマヨは食わせねぇ。
それでいいだろ?」
「ああ~ん。分かりゃいいのよ」
銀時はニッコリして土方の肩に寄り掛かる。
「ああ、分かったよ」
土方は銀時の肩を抱き寄せた。
「また、ラブエロモードかぃ」
沖田は面白く無さそうに呟いた。
―夕刻―
一向に姿を表さない神楽。
銀時は心配気に先程やって来た新八に聞く。
「神楽ちゃんですか?
今日は見掛けませんでしたよ。
定春も一緒だし、心配無いんじゃないですか」
「そう?あの子、お昼ご飯も食べに来なかったんだよ?」
「ん~、あ。山崎さんは?」
「ジミー?ずっと、屯所でゴリラの世話してたよ?」
「アレ?じゃあ、わからないですね」
新八は銀四郎におもちゃの刀で叩かれながら笑う。
「しんちゃ~ん、あそぼ~」
「いいよ」
新八はおもちゃの刀をもう一本取って銀四郎と刀を合せる。
「ったく、神楽のヤツ」
銀時は呟いて火鉢を棒で突いた。
「大丈夫ですよ。神楽ちゃん、最近富に強くなりましたからね」
「ああ、そうだね。まぁいいか」
「銀四郎くんも力が強くなりましたね」
「そうなんだよねぇ。
そろそろ本格的に剣道仕込むかなぁって思ってんの。
新八ん家の道場借りようかな」
「銀さんが見るんですか?」
「そうだよ。
まだ捨てたモンじゃないよ?」
「そりゃそうですよ。
是非、僕にもご享受下さい」
「ん?アタシが新八に教えんの?」
「はい、是非」
「いいケドぉ~、新八さぁ、仮にも恒道館道場の主なんだからさぁ、我流のヤツに教え請わなくてもいいんじゃない」
「恒道館の主って言ったって、僕の小さい内に父上は亡くなったし、」
「分かったよ。
暖かくなったらやろうか」
「はいッ!」
新八は嬉しそうに頷いた。