銀色の夢【大江戸篇】 弐

目覚めた銀時は、何か違うと感じていた。

[躯が、痛ぇ、なんだ?
犯り過ぎか?
そりゃあ、いつもの事か……]

相変わらず毎晩犯り過ぎていた。

何気無く触った自分の躯が、自分の物では無い様に感じた。

[アレ?アレ?アレレレレ?
前にもあったよ?
このパターン?]

ガバッと起き上がる銀時は、自分の躯を撫でながら見回し、悲鳴を上げる。
「ギャァァァァアッ!!
ナニっコレェェェェェェェェェ!!!」
長く垂れ下がる銀髪、豊かな乳房、括れた胴、滑らかな曲線を描く腰。
「うおォォォォォォ!!
またか?
また女んなっちまったのかァァァア!!
何でだ?何でだ?ああ?
分からねぇ…分からねぇぞォォォォォォイ!!」
銀時は頭を掻き毟り叫ぶ。
「なんだコリャ?オイオイオイオイ、犯られてんじゃね?
おもくそ中出しされてんじゃね?
何回だ?何回犯った?」
銀時は自分の股間に粘つく液体を指に、匂いを嗅いで叫んだ。
「あんのヤロォォォォォ!!」
銀時は裸のまま部屋中を歩き回り、無数に散らばる酒瓶の匂いを嗅いで回る。

「コレか!!」

記憶を呼び醒ます匂いに辿り着き、銀時は昨夜、ご機嫌で酒を酌み交わした事を後悔した。
「どう言う事った?今度は……
計画的か?いや…トシが?
そうか?トシが一服盛りやがったのか?
ああ?トシだな!あんのヤロー!!」
銀時はチャイナドレスを引っ張り出し、身に纏い、木刀とスクーターの鍵を捜す為に家中引っ掻き回すが、見付からず、舌打ちして、振り返る。

銀時はニヤリとして、土方の愛刀を手に掴んだ

 

 

 

 

 

 

 


―真撰組―

「すんまっせ~ん!」
一声掛けて銀時は勝手に上がり込む、しかもブーツのまま。

「待て!女、何用か!」
「あ~人居たんだァ、声掛けたケド出て来ねぇから、誰も居ねぇのかと思った。
あのさァ、土方くん呼んでくんない?」
「土方くん?副長の事か?」
「他に土方は居ねぇだろ、早く呼べや」
「誰だ!貴様!」
「いいから土方十四郎呼べっつってんだろーがァァァア!!」
苛々と銀時は床を踏み鳴らす。
「貴様、その刀は副長の兼定!」
「兼定でも定春でもいいからさぁ!
とにかくぅ!俺がキレる前にィ!
俺の旦那呼んでくんない?
まじ苛々すんですケドォォォォォォ!!」

カチリ
カチリ

銀時は鯉口切り、刀の鍔を上げ下げさせ、苛々を紛らわそうとするが、我慢出来ず怒鳴り付ける。
隊士はそれを攻撃の合図と取り、刀を抜いた。
「オイオイ、何で抜刀?
何ですか?ここは自分の旦那呼んで貰うのにダンビラ向けられるんですか?あん?」
「旦那だと?」
「さっきっから言ってんだろーが!
ちゃんと人の話し聞きなさい!!
んで?土方は?
土方呼んでくれんの?くんねぇの?」
「貴様!」
「あ―も―面倒くせぇ―――!!
こちとら苛々MAXなんだよ!
テメェが素直に土方出しゃ済む話しだろーがァァァア!!」
銀時は刀を抜き、切り掛かる隊士を一刀で倒す。
怒鳴り合いを聞き付けた他の隊士が集まりだし、倒れた隊士を見て、問答無用で次々と、銀時に切り掛かる。
「うぉりゃあァァァア!!」

ドカ―――ン!!
ガシャ―――ン!!

「何だ?騒がしいな」
近藤は叫び声を聞き呟く。
「きょ、局長ォォォォォッ!!
た、大変です!峰不二子が!
峰不二子が殴り込みにィィィイ!!」
駆け込んで来た隊士が叫ぶ。
「ああ、そりゃあ、俺んだ」
土方はくわえ煙草で笑う。
「峰不二子?何言ってんの?
峰不二子が殴り込みに来ないでしょ―が」
近藤は笑う。
「本当です!峰不二子風の商売女か…」
「何だテメェ!!
人の嫁さん商売女ったァ、なんてぇ言い草だァ!
殺すぞコルァァァァア!!」
刀片手に立ち上がり掛ける土方を大広間の全員が見詰める。
あちこちで叫び声と人柱が上がり、徐々に近付いて来る。
「ちょっ、ちょっ、トシ?
嫁さん峰不二子って?ナニ?何人嫁さんいんの?」
「ああ?俺の嫁さんは一人っ切りに決まってんじゃねぇか、近藤さん」
「銀時?銀時が峰不二子なのォォォォォォ?」
土方か答える前に、銀時が大広間に、フラフラしながら入って来て叫ぶ。
「ひィイじィイかァたァァァア!!
何だテメェん所の人間はァ!!
だぁれも人の話し聞きゃあしねぇ!!
しかも、俺の事ァ知らねぇ!で、いきなり切り掛かかってきやがるったァ、どう言う教育してんですかッ!!
コンチクショォォォオ!!!!」
「ククッ。済まねぇなぁ、そう言やぁ、嫁さんの紹介してねぇなぁ。
何なら隊士集めて大披露宴でもやるか?
しっかし、相変わらず強えぇなァ。惚れ直すぜ」
土方は余裕の笑みで答える。
「うるっせぇ!殺すぞコルァァァア!!」
銀時は抜き身の兼定を土方の前に突き刺す。
「銀時!!」
「んだゴリラ!!」
「お前、刀振り回してウチの隊士、殺して無いよね?
しかし、銀時なのか?前にも増して別嬪だぞ?」
「安心しろ!峰打ちだ!骨の二、三本折れてっと思うがな!!」
「で?何しに来たの?」
近藤の問い掛けは無視しされた。
「どうやって来た?スクーターの鍵も木刀も、隠しといたのになぁ」
「歩って来たのに決まってんだろーが!」
チャイナドレス姿で銀時はクネリと躯を捻り ポーズとり、腰を振る。
胸と尻がプルプルと震えた。
「このナイスバディでな!!
いいだろ?このチャイナドレス?ん?」
銀時は胸を突き出し、大股開いて土方に見せ付ける。
「テメェ、俺の話し、覚えてねぇな!ああ?」
土方の腹の底から搾り出す様な声に、回りはビビる。
「巫山戯んなテメェ!
テメェのお陰でなぁ、ここに来るまで、何回、薮ん中、引き擦り込まれたと思ってんだ!!
犯される所だったんだぞ!!
コノヤロォォォオ!!」
「だから!んなエロい格好で出歩くなッ!つったんだろーがァァア!!
テメェ、何遍言えば分かんだ!!
ああッ?俺に気ぃ使いやがれ!!」
二人は隊士達の前で怒鳴り合いの喧嘩をし、近藤は沖田に何とかする様に言う。
「なぁに言ってんですかぃ、近藤さん。
夫婦喧嘩は犬も喰わねぇってぇんじゃねぇですかぃ。ほっときゃ良いんでぃ」
「トシキレるよ?トシがキレる前に」
「大丈夫ですぜ。どう見たって、旦那のが強ぇえ。
どうせ土方さんは、勝てねぇ」
「総悟ォ」
沖田一人、成り行きを静観していた。

「テメェ、人が寝てる間にナニしてくれちゃってんの?えぇえ?」
睨む銀時に土方はニヤリ。
「何だァ?眠ってる間に犯ったのが気に入らねぇのか?あん?
今度は起きてっ時に可愛がってやるよ」

「うわっ、副長、言ってる事、オヤジだよ」
「つーか、嫁さん、峰不二子ったァ、雰囲気あんなぁ、エロい躯してやがる」
「ノーパンだろ?割れ目見えんじゃねぇか?良い尻してんな」
「シーッ!副長に聞こえたら殺されるぞ!!」
二人の喧嘩を見ながらヒソヒソ話しする隊士達。

「んだッコルァ!テメェらァァァア!!
聞こえてんだよッ!!マジ!斬る!!」
土方は立ち上がり怒鳴り付ける。
「んだ、テメェ、人の話し、き、クェッ、うッ?!うえぇぇぇぇ!!!」
土方の前に膝ま付き、吐きそうにえづく銀時。
「オイ銀時、大丈夫か」
「二日酔いだ!んなの、うッうえぇぇぇぇ!!」
銀時は土方に倒れ込む。


「ありゃあ、違うんじゃねぇですかねぃ」
サッと消える沖田に誰も気付かない。

そのまま気を失った銀時を 抱え
「銀時、銀時、」
土方は名を呼ぶ。
「どうしたってんだ!?」


「アンタの部屋に床とりやしたぜ、土方さん」
外廊下を走り込んで来た沖田に言われ、土方は銀時を抱き上げると、自分の部屋へ急いだ。
「大事無いですかねぃ」
沖田のセリフに近藤は
「ナニしに来たの?」
と呟く。


ざわめく大広間
隊士達の囁き
「面白そうだぜぃ。
オイ、みんなァ、今見た事ァ、忘れてくれぃ。
ありゃあ、犬も食わねぇってヤツだからよォ」
沖田はニヤリ何やら企む様子。
「ぞうだ!忘れてくれ」
近藤も同じ様に言うが、こちらは何も企んではいない。
「副長の嫁さんは何だって殴り込み掛けて来たんですか?」
「そりゃ、アレだ!夫婦喧嘩だ!」
「そりゃ聞きましたよ。副長、浮気でもしたんですか?」
「そいつァ、殺されそうだぜ。気の強そうな嫁さんだもんなァ」
「万事屋の旦那に似てますが、旦那にゃあ妹が居んですか?」
「いねぇよ。
土方さんの嫁さんは万事屋の旦那本人でぇ」
沖田はニヤリ。
広間はどよめく。
「何だ?」
「どう言う事った!!?」
「万事屋が女房?
そりゃ気ぃ強えぇどころじゃねぇだろ!」

 

 


大広間は蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。
「有り得ねぇ!!」
「じゃあ、何ですか?副長の嫁さんは万事屋の旦那、男って事ですか?」
「ざけんじゃねぇや!!
副長がヤローとヤル訳ゃねぇ!!」
「あのケツはどっから見ても女だ!」
「見たか?あの乳を?あの括れを?
堪らねぇシリだったぜ!ありゃあ女だ!間違いねぇ!!」
「男の訳ゃねぇぞッ!」
喧々囂々 騒ぎ立てる隊士達。
「盛り上がってやすぜぃ、一ん日コレで暇潰せまさぁ」
沖田はニヤリと呟く。

「うるっせぇぇぇぇぇぇ!!!
テメェら!ちったぁ静かに出来ねぇのかァァァア!!!」
土方が怒鳴り込んで来て、隊士達は次々と質問責めにした。
「テメェが一番うるせぇんだよ!!」
「んだと?コルァァァァア!!
誰だ今言ったヤツァァ!!ああ!?」
「どう言う事った!?」
「万事屋ってなぁ、ホントか?」
「万事屋とヤッてんのか?ヤツぁアマか?ヤローか?どっちだコラ!」
「うるせぇハゲ!!」
「そうだハゲ!黙れ!ハゲ原田!死ね!ボケ!くそったれッ!!」
「何どさ紛に言ってんだァァァア!!?」
「死ね!!土方!!」
「うるせぇ!総悟!!テメェが死ね!!」

ギャーース!!
ギャーース!!

怒鳴り合い、喧嘩腰、今にも抜刀しそうな、面々に対し、近藤は鶴の一声。

「うるせぇ!野郎共!!
病人がいるんだ!静かにしないか!!」
「流石近藤さんでさぁ。みんな黙っちまった」
沖田はニヤリと呟く。
「お前が焚き付けといて、何言ってる!総悟!!」
近藤はゴチンと一発、総悟に拳骨を落とした。
「痛たたたた」
総悟は頭抱え、土方は小さく溜め息を吐く。
「そうだよ。ありゃあ、万事屋の坂田銀時だ。
確かに俺ァ、ヤツと付き合ってる。
所帯持つと出て行ったのも、女んなっちまったヤツと一緒に住む為だ」
「なんで女なんでぇ」
「色々あってな………
俺の子を孕んでる」
「ああッ?んな事ァあるかァァァア!!」
「有り得ねぇ!!」
「なんだ、んで、さっきの、うえぇぇぇぇ!か?」
「男がガキ生むってのか?そりゃあねぇ」
「いやいや、ありだ。ありゃあ、女だったぜ」
「違げぇねぇ」
「アレが女じゃなきゃ、世の中、大抵、女じゃねぇ!」
「おお、確かになぁ」
隊士達は勝手に話し出し、土方と銀時の関係に勝手にケリを付けた。

ドタドタドタドタ―――!!

「ふッ、副長ォォォォオ!!」
「どうした!山崎!!」
「旦那がァ、くっ苦しんでますゥゥゥウ!!」
走り出す土方の後を追い、近藤、沖田、山崎と続く。

 


「銀時、どうした?苦しいのか?」
「と、トシ…は、吐く…」
土方はごみ箱を引っ掴み、銀時に差し出す。
「ザキ、松本医師を呼んでくれ!」
「はいよ!」
近藤の要請に山崎は走り去る。
「大丈夫ですかぃ?」
「総悟、水持って来てくれ」
土方は銀時の背中を摩る。
「大丈夫か?」
銀時は顔を少し上げ、トロンとした、瞳を一瞬土方に向ける。
「なんだ…目が…ま、わる……きも…わ…」
「しっかりしろ銀時!!」
近藤の叫びに
「ゴリさん、アンタ、ちょっ……うるせぇ…から、あっち…いって…」
銀時は苦笑いしてごみ箱に吐き始めた。
「悪い近藤さん、こいつもこんな姿、アンタに見られたくねぇんだ、」
土方に頼り切り、どこをどう見ても、弱い女でしかない銀時を見て、近藤は頷く。
「手が必要なら呼べよ」
「ああ、済まねぇ、近藤さん」
「構わんよ」
近藤は部屋を出て行く。

「アレ?近藤さん、部屋追ん出されちまったんですかぃ?」
「ああ、あんな弱々しい銀時、見た事無いな」
「駄目ですぜぃ、んな事思っちまっちゃ、ありゃあ、いつもの旦那じゃねぇですぜ?
んなだから追ん出されちまうんでさぁ」
沖田は笑って水差しとコップの乗った盆を土方の部屋に持って行った。

「大丈夫ですかぃ」
「ああ、悪ぃね…」
銀時はコップを受け取り、一気に飲み干す。
「なんだか、自分の躯じゃ…ねぇみ、てぇ」
「済まねぇ、銀時」
「ああ、」
銀時はグッタリと、土方に寄り掛かる。
「んじゃ、俺ァ向こうに行ってますんで、良順先生が来たら通しまさぁ」
沖田も部屋を後にした。

 

「この前と、なんか、違く、ね……
マジ、変だよ俺…なぁ、トシ…」
「天性薬のせいだ」
「なんだよ…アレ、副作用?」
「お前、女ん時を思い出しちゃ、鬱なってたろ?
子供の事もあって、なら、もう一度女んなって、
子供生めは良いだろうって、
俺の子を生んでも良いって言ってくれたじゃねぇか…
だからって、安易な考えで、新たに天性薬を飲ませた俺が馬鹿だった……
済まねぇ…こんな事になるなんて…」
「トシ、やっぱ…虚無感は、拭えねぇだろ…
でも、ま、良いや…俺ァ、嘘は吐かねぇよ…
トシの子を、生むよ…」
銀時は横になり、目を閉じる。
「銀時」
「ちょっ…眠る…」
「ああ…」
強く握られた銀時の手が弱く、力抜けて寝入るまで、土方はその手を握り、銀時を見詰めていた。

[まさか、こんな事になるなんて、思わなかった…
青白い顔して……疲れた顔して……済まねぇ、銀時]

銀時の髪を撫でながら、土方は深く考えていた。

 


「土方さん、良順先生がいらっしゃいやしたぜ」
「ああ、通してくれ」

カラリ

「おう、土方、オメーの嫁さんだって?
屯所中その話しで持ち切りだ」
ワハハと豪快に笑い、松本医師は部屋に入った。
「はい、」
「おお、こりゃあ、別嬪じゃねぇかァ。
オメーさん、面食いだなぁ」
松本医師はまたも笑い、銀時の近くに座った。
「早いとこ診てやって下さい」
「おお、どんな状況だ」
「天人の性転換薬を飲んだ後、半日位したら、吐き始めました」
「天人の性転換薬?何だってそんなモン飲んだ」
「色々と…」
「色々ったってなぁ、んじゃ、この別嬪さんは男だってのか?」
「はい」
ボソボソ聞こえる話し声に反応するかの様に、銀時は目覚め、松本医師を見上げ
「なんだ……?タコ?」
と呟く。
「ワハハ!タコじゃないぞ。私は松本良順という名の医師だ」
「医者?ああ、俺を診んのか」
「ああ、そうだ。着物の前を開いて貰おうかな」
銀時は起き上がり、いつの間にか、土方の着物に着替えさせられているのに気付き、腰紐を解いて前を開いた。
「土方、お前は出ていろ」
土方は静かに部屋を出た。
「性転換薬を飲んだとな?」
「ああ、二度な、」
「二度も?そんなに女に成りたかったのか?息を吸って、ゆっくり吐いて…」
松本医師は聴診器を胸に当てて聞く。
「女になりたかった訳じゃねぇよ。
一度目は四ヶ月前、何も知らないで、酒だと思って飲んだら女になった。
一ヶ月前位に、男に戻って……
昨夜、また、飲んだ…つーか、飲まされた?」
「なんと」
松本医師は銀時を横にして、持参した鞄の蓋を開け、棒状の絡繰りを取り出し、銀時の全身を上からゆっくりと、なぞる様にし、鞄に嵌め込まれたモニターで病巣の有無の確認をした。
「も―キモいのも、怠いのも取れたんだケドさぁ、あのヤロー懲らしめんのにさぁ、死にそう位、言ってやってくんない?」
「土方か?」
「そう…まぁ、俺も悪いんだケド。
前ん時、子供生むなんつったから」
「良かろう。病気がある訳では無いしな、大事無い様だ。
しかし、土方の嫁さんは面白いな、大袈裟に言ってやろう。
土方がどんな顔するか、見物だな、ワハハ」
着物を羽織る銀時は困った顔をする。
「…多分、泣くよ」
「まさか」
「マジで」
「ワハハハハハ。そうか、しかしな、お前さんも二三日休む方がいいぞ。急激な変化に身体が付いて来んから、吐いたり、怠くなったりする。
後で薬を取りに来させなさい。お前さん用に調合しておく。子供生むんだろ」
「孕めばな」
銀時はゆっくり瞬きをして呟く。
「なら尚更だ。養生する事だな」
「ああ、休むよ…」
銀時は着物の前を合わせるのも、もどかし気に呟き、目を閉じた。
松本医師が見ている目の前で、あっという間に眠りに落ちた。
「フム、ああは言ったが、馴染むものかのぅ、」
松本医師は、心配気に呟き、片付けを始めた。

廊下に控えていた土方は、片付けをして、部屋から出た松本医師を驚かせた。
「うぉっ!!こんな所で!驚かすな!馬鹿者!」
「済まねぇ。で、銀時は?」
「フム、今は寝ている。向こうで話そう」
松本医師は土方を促し、隣の部屋に入った。
「お前の嫁さんな、薬が馴染まないみてぇだな…
元来あんなじゃねぇんだろ?
この分じゃ、飯もろくに食えんだろう、あまり良い状況じゃない。
このまま眠り続ける様だと、危ないな」
「危ないってなぁ…
何だ?死んじまうって、事か?ただ、俺ァ、銀時に子供を与えてやりたかった…
それが…死んじまうなんて…
なぁ……」
「その可能性も無きにしも非ずだ。お前さん、無茶したな。
だいたいな、昨日の今日で簡単に子供が出来るかよ。
嫁さんは腹括ったみてぇだがな
孕めば産むってたぞ」
松本医者が今までに見た事の無い表情で、土方は呟いた。
「まさかなぁ…
こんな事になるなんてなぁ、思いも、しなかったぜ…」
土方は力無く俯く。
「薬を調合しておく。
自力で食える様になれば問題無いがな、それまで、栄養補給せねばらなんからな、何かあったら呼べよ。じゃあな」
松本医師は土方の肩を叩いて言い、廊下に出、土方は微かに頷くだけだった。

「医師、お帰りですかぃ?送らせやしょう」
何処からともなく沖田が現れ、松本医師を促し、土方も立ち上がる。
「済まねぇ、先生、ありがとよ」


玄関先まで松本医師を見送り、土方は溜め息を吐く。
「大事ですかぃ?土方さん」
「ああ、悪ぃが、後で誰かに薬を取りに行かせてくれ」
「そんなに悪ぃんですかぃ?」
「ああ…」
「まさか死んじまうなんて事ァ、ねぇでしょうね」
沖田のからかいに
「ある」
土方は断言した。
「…まさか」
小さな驚きが沖田にはあった。
「ホント、まさかだよなぁ…」
頭ボリボリ掻きながら、部屋へ戻って行く土方の後ろ姿を見詰め、沖田は呟く。
「あの旦那が?こりゃあ、マジでヤバそうじゃねぇですかぃ」

 

 

 

 


土方は眠り続ける銀時を見詰め、まんじりともせず夜明けを迎えた。

 

 

そして、銀時の面倒を看る為に土方は、余りに余っている有給休暇を使い、今朝から三日間の休暇を取った。

 

ほとんど寝たままで、時々、薄目を開けるだけの銀時を、土方は酷く気に掛けた。

 

このまま枕が上がらなくなれば、それは自分の責任だと土方は感じていた。

 

 

「おはようさんでさぁ。どうですかぃ?様子は?」
「なんとも言えねぇなぁ」
「アレからずっと寝たままですかぃ?」
「ああ、目覚めねぇで逝っちまう事もあるそうだ」
沖田と話している時でさえ、土方は銀時から目を逸らさずにいた。
「新八やチャイナに知らせ無くて良いんですかぃ」
「考えてた所だ。
なんて言ったモンか、考えちまうな…」
「こんな事で逝っちまう様な旦那じゃねぇよ」
「だよな、俺もそう思う。
だが、良順先生が間違った診たてするか?」
「さぁ、たまにゃあ、んな事も、有るかも知れやせんぜ。
朝餉の仕度が出来てまさぁ、運ばせやすかぃ」
「ああ、頼むわ…」

 

 

「旦那が逝っちまったら、アンタ大事の人亡くすなぁ、二人目だぜ?さすがのアンタも、堪えるだろうねぃ」
沖田は一人ごちて食堂へ向かった。

 

 

「ん……ッ…み、みず…っ」
呻き声に、ついウトウトしていた土方はハッとする。
「なんだ、銀時」
「と…み……みず」
「ああ、」
土方は吸い差しを銀時の唇に宛て、ゆっくり傾ける。
「慌てるな」
ゴクゴクと勢い良く水を飲む銀時は、噎せて吐き出す。
「ゴホッ!うぇッ」
「大丈夫か?薬飲めるか?」
頷く銀時に土方は松本医者が調合した数種類の薬を飲ませた。
「ああ…ダリィ…力、はいんね…」
「無理すんな」
土方は銀時の口元を拭い、背中を摩る。
「あ、の…ヤブ…大事無い…なんつ、って、死に…そ、だっ……ての……」
荒く、辛そうに言う銀時。
目を開けているのも、辛そうに、グッタリとしながら土方を見る。
「死にそうなヤツに、死ぬったぁ、言えねぇだろうが」
「な、んだ…よ……、死…ぬの、マジ…で…」
「ああ、このままなら死ぬ」
「そ、」
「そ、だけか?」
「死な…ねぇ、俺は、死なねぇ……よ」
「志村と神楽を呼ぶ」
「やめ、てよね、俺、死なな…い…から」
「銀時」
土方は銀時の肩に顔を埋める。
「やっぱ…泣く、んだ……
涙脆いのも…大概に、しなさい、ね?」
「ああ…」
「ああ…じゃ、ないよ…
アンタ…隊士達の、前じゃ、いっも…気ぃ張って隙、見せ…無いんだ、シャンとし、ろよ、なァ…」
「ああ、そうだな」
土方は顔を上げ、銀時を見詰める。
「まぁ、トシが、そんな…無防備な、姿…見せ、んの…俺だけ、なんだろ……ケド……」
「済まねぇ…俺のせいで……」
「まだ、死んで…ねぇ、のに、謝…んな、バカ…」
「ああ…俺ァバカだよ」
「そんな、バカでも…良い…、俺も、バカだ…し、
トシの事…好き……だから…」
「大丈夫か?震えてるぞ?寒いか?」
「イヤ…震え…てねぇ…」
銀時は掴んだ土方の手を強く握り締めた。
「ホラ……な、」
「ああ、」
余りにも弱々しい力に、思わず土方は俯く。
それでも銀時は土方の手を握り、土方は銀時の髪を撫で、頬を撫で、口付ける。
「あんま…泣くな、目玉…溶ける、から」
笑う銀時に笑い返し、頷いた。
「ああ」
土方は銀時に縋り付く様に抱き付き、思う感情を正直に告げた。
「銀時…
俺ァ、お前を失いたく無い……
頼む、死なないでくれ……
俺を置いて逝かないでくれ…」
「死なねぇって…
んな、事言って、
後で…恥ずいよ……
後悔すんよ……
フフ……十四郎……
俺も……離れる…つもり
無いから…」
銀時は微かに笑った。

 

 


土方は寝入る銀時を見詰める。

 

 


何時間も。

 

 

 

 

 

 

 

―その日の午後―

何やら慌ただしい雰囲気が屯所を包んでいた。

土方は廊下に山崎の気配を感じ声を掛ける。
「どうした、山崎」
「予てより調査中の天万家の件、今夜決行との確認を得ました」
「そうか」
土方は頷く。
「一番隊から五番隊が出動。
副長は一番隊から三番隊の指揮をお願いいたします。
今から会議を行います」
「分かった。直ぐ仕度する」
土方が立ち上がると、銀時が薄ら目を開け聞く。
「捕物?気ぃ付けて、」
土方は隊服に着替え、銀時の傍に座り、寝たままの布団の上から抱き締め口付けた。
微かに微笑む銀時の頬を撫で、見詰める。
「待ってるよ」
「ああ、待ってろ」
土方はスクッと、立ち上がり、兼定を手に出て行った。

 

 


―天万家―

表は全国チェーンの菓子製造卸問屋でありながら、裏では全国の過激派攘夷志士達に、銃火器の類いを売る、武器商人との黒い噂があり、事実確認の潜入捜査を真撰組では行っていた。

廃刀令の敷かれるご時世に、銃火器の類いを扱うと言うのは、天人からの武器密輸、幕府からの横流し品を売り捌いている可能性もあった。

真撰組監察方の調べによると、噂通りの黒い結果が出、今夜、過激派攘夷志士達に銃火器の類いの受け渡しを行うという情報を得た。

 

 


―天万家―


「御用改めである!!」
「神妙に縛に付け!!」
雪崩込む真撰組隊士達に天万家の屋敷内に屯う攘夷志士達が、応戦すべく刃向かい、抜刀する。

「真撰組だ!!」
「一人残らず引っ捕らえろ!!」
「逃がすんじゃねぇぞッ!!
テメェらァァァァア!!
刃向かう奴等ァ皆殺しだ!!」
斬り合いの中、土方は一番隊・隊長 沖田に隊士を動かす指示を出し、続き、二番隊・隊長 永倉に、三番隊・隊長 斉藤に指示を出す。

 

怒号と刀を交える鋼の音。
怒号、悲鳴、呻き、喧騒の中、土方は生き生きと仕事を熟していた。

 


「四番隊、五番隊、銃火器を押収!只今到着いたしました!」
「おう!好きなだけ斬り合いやがれ!!」
「総悟!!ヤツだ!天万家主!天川俵衞門!捕まえろ!!」
「はいよ!」
沖田はいつも通りバズーカ構え
「おい、殺りやすぜぃ!!命が惜し気りゃ投降しな!!」
「誰がするか!幕府の狗が!!」
「そうかぃ?んじゃ、死ねぃ!」
ぶっ放す。
「総悟ォォォォオ!!
テメッ!捕まえろっつったろーが!!
殺すんじゃねぇぞッ!」
「大丈夫でさぁ、なぁ、天万家の、」
総悟は天万家主の襟首掴み上げ笑う。
「攘夷志士共を制圧しろッ!!殺られてんじゃねぇぞぉ!!」
土方は斬り掛かって来る攘夷志士達を、片端から斬り捨てて行った。

 

 


「五番隊、西方地区制圧完了!負傷者2名、死亡者0。捕縛者3名以上です!」
「三番隊、東方地区制圧完了。死亡者、負傷者共に0。捕縛者0以上」
「四番隊、南方地区制圧完了。負傷者1名、死亡者0、捕縛者2名以上です」
「二番隊、北方地区制圧完了、負傷者、死亡者0以上です」
次々、報告に来る隊長達。
「総悟ォォォォオ!!
ナニ楽しんでんだ!コルァッ!!」
土方は捕縛した攘夷志士の一人を、弄繰り回しわしていた沖田に言う。
「こいつが攘夷志士、萌エロ闘魂の魁首、ネコミミメガネ萌え雄でさぁ!」
力一杯答える沖田。
「んな名前あるかァ!巫山戯んな!
コルァァァァァア!!」
「チッ!冗談の通じないヤツだねぃ、一番隊制圧完了でさぁ」
「処理班!死体を運び出せ!医療班、負傷者を保護!」
辺りを見回し土方は指示する。
「よし!引き揚げるぞ!」
捕縛者を護送車に乗せ、一行は警察庁に連行した。

 

 

 

 

 

 


―真撰組・屯所―


一連の手続きを終え、真撰組屯所に戻った隊士達は、我先に風呂場へ向かう。


土方は真っ直ぐ自室に向かう所を沖田に呼び止められた。
「待ちなせぇ、土方さん。
アンタ返り血浴びすぎでさぁ、んな格好で何処行こうってんでぇ、
心配なのぁ分かりやすがね、風呂くれぇ、入って行きなせぇ」
「そうだな」
土方は黒くて分かり辛いが、血の臭う隊服を見下ろすと、大急ぎ、一っ風呂浴び、部屋へ向かった。

 

静かに眠る銀時を見詰め、そっと頬に触れる。
「お帰り」
ゆっくりと目を開け、銀時は土方の手を取り、頬擦りする。
「迷わなかったな…
俺の事、考えてたら…アンタ、いま、こうしちゃ…いなかった。無事で……良かった」
「トシの事だ、沢山、斬ったんだろ?」
銀時は微笑み、土方の指をゆっくりとねぶる。
「銀時」
「なぁ、トシ、抱いてくれよ…
日がな一日、寝てばっかじゃさ、生きてんだか、死んでんだか、分かりゃしねぇ
生きてるって、実感、湧かねぇなぁトシ、頼むよ…トシ…」
銀時は土方の掌に口付け、再び指に舌を絡め、舐め吸う。
「オメーは生きてるよ、銀時」
土方は笑って銀時の口に指を出し入れさせ、腰紐を解く。
行灯の薄明かりの中、銀時の青白い肌が微かに光っていた。
紅い瞳は紅玉石の様に、欲情に濡れ、光っていた。
土方はゆっくりと優しく愛撫を繰り返し、官能を高め快楽を引き出していく。
小さく喘ぐ銀時の声。
震える躯。
大きく開かれた脚の間で土方は、濡れそぼつ秘所に指と舌での愛撫を繰り返す。
固く小さく尖る肉芽を舐め吸い、囓る。
その、それぞれの行為に、のけ反り、喘ぐ声が高く、細く、大きくなる。
「い、いれて…フゥン」
暑く濡れ、滴る秘所に、固く張り詰めものを宛がい、深々と挿し入れた。
「はっ…アァン…トシ…」
細く長い吐息。
土方が動く度、銀時は身悶え、喘ぐ。
躯を震わし、長く、か細い悲鳴に似た喘ぎを上げる。
「ハアァ、悦い、」
と、何度も繰り返し
「もっと…」
「激しく…」
と、繰り返す。
土方の与えるものが、快感なのか、苦痛なのか、判断し辛い、絶叫の様な喘ぎが響いていた。

 

求めるままに応じ、銀時が気を失うまで、土方は何度も抱いた。

 

気を失う銀時を抱き締めて涙ながらに土方は何度も繰り返し。
「愛してる」
と、呟いた。

 

 


―翌朝―

障子を開け
「起きてやすかぃ?ひじかたァァァァア!」
沖田は銀時と抱き合い眠る土方の肩に足を掛け、激しく揺さぶる。
「う、うん、何だァ?」
土方は沖田の足を払い除け、目を覚ます。
「アンタ、死にそうな嫁さん相手にナニ追い打ち掛ける様なマネしてんでぇ!」
「ああ?」
「ああ?じゃねぇですぜ、屯所中に響き渡る悲鳴に啜り泣き、ありゃあ、もう、エロくも何ともねぇ。
ホラーでさぁ!サスペンスでさぁ!
アンタが何時、嫁さんを犯り殺すか、流石に猛者揃いの連中も、震え上がってやしたぜ!」
「済まねぇな」
「野郎共も、最初はエロい喘ぎ声に覗きに行くか?なんて言ってたがぁ、次第に悲鳴上げてんじゃあ、キンタマも萎えるってモンでぇ!
皆、酷でぇ事しやがるって言ってやすぜ?
何人もの野郎が止めに行くってぇ、息巻いてやしたからねぃ、連中と顔合わせた時ゃ、覚悟しといたが良いですぜ」
土方は沖田からの文句なのか、助言なのか分からない話しを黙って聞いた後頷いた。
「分かったよ、」
起き上がり、銀時を布団に包んで、土方は裸のまま胡座をかく。
「んんっ、ゴチャゴチャ、うるせぇよ……」
銀時は布団から顔を上げ、二人の男を見て笑う。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。
沖田くんさぁ、抱いてくれって、俺が頼んだんだよ。
コイツが、死にそうなヤツに追い打ち掛ける様な男かどうか、皆、俺よか付き合い長いんだ、知ってんだろ?
俺が頼まなきゃ、ヤりゃしないって、ね?」
「そうかも知れやせんがねぃ」
沖田は空惚ける。
「なのに、分かってて、騒いで、楽しい?」
銀時は躯を起こし着物を羽織り、土方に寄り添う。
「楽しいですぜ」
笑う沖田に銀時もニッコリとした。
「だってさぁ、死んじまうってなら、最後は好きなヤツといたいだろ?
なんか、知んないけど、死にそうになってたろ?
ま…実際、今も死にそうだけど…ね」
銀時は荒い息使いのまま話し続ける。
「忌わの際に、思い浮かぶの、トシだけなんだよね…
沖田くんが最後に思い浮かぶの、新八か神楽か、知んないけど、俺は、トシだけ、だから」
銀時はニッコリ笑い土方に躯を預ける。
「何でチャイナが出て来るんでぃ」
不満気に言う沖田を銀時は笑う。
「ふふん。素直じゃないねぇ」
「意味わかんねぇ、アンタ本当に死にそうなんですかぃ?」
「死なねぇよ」
銀時を後ろから抱き締めて土方は髪に口付け、豊かで柔らかな乳房を撫で、掌に包み込む。
「朝っぱらからサカッてんじゃねぇよ、土方さん」
「まだ居たのかよ」
「へいへい、出て行きまさぁ」
沖田は舌打ちしながら出て行った。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん。昨日の事が嘘みたいに、楽なんだよねぇ。
ただね、歩けそうに無いんだケド、厠連れてってくんない?」
「ああ」
土方は急いで着物を羽織り、銀時を抱き上げ廊下に出て厠に向かった。

 


「思ったより元気そうじゃねぇか」
「昨夜は死にそうだったのによォ」
「副長もヤり過ぎだろーが」
「おい、テメェらァ、覗きなんかしてると土方さんに斬り殺されるぜぃ」
沖田は心配する隊士達を追い払い、何から何まで頼り、任せている銀時と土方の関係を思った。

「信頼しあってるって事かぃ。死に際に誰と居たいかってぇ?俺ぁ、」
近藤の顔が浮かぶ、気に入らないがの顔も浮かぶ、隊士達が次々と浮かび、最終的に新八と神楽の顔が浮かぶ。
「チッ!なんでぇ!旦那が余計な事いうから」
沖田はムカ付きながら食堂へ向かった。

 

 


「助かったよォ~危うく漏らすとこだったよ」
「オメーはいつも危うい」
「そうかも」
銀時を床に就け、土方は顔色を見て、今は微かに色付く頬を撫でる。
「メシはどうだ?食えそうか?」
「ん少し、甘いモンも」
「その調子で行きゃあ、良くなる。待ってろ、すぐ持って来る」
「よろしく」
土方が出て行くと、銀時は深い溜め息を吐く。
「な、ナニ?ンッ……
アッ…アン、なんだ、ふぅん…ヤ…凄い…ヤりたい…」
銀時は一人、蒲団の上で身悶え、喘ぎ始める。

 

そんな銀時の事など知らない土方は、食堂で隊士達の冷たい視線を浴びていた。
「副長ぉー、アンタ、ヤり過ぎだろーが!」
「万事屋ァ、生きてんのかァ」
「息も絶え絶えだってぇじゃねぇか」
「そうだ、嫁さん大丈夫かぁ」
「人死には勘弁だぜ」
あちこちから出る苦情に、土方は気にした風も無く、懐から煙草を取り出し吸い付けて
「嫁さんか、御蔭さんで元気になりつつあるよ。
ま、昨夜の事ァ勘弁してくれや」
と言った。
「「おぉ!副長が謝った」」
ほぼ全員が驚きの声をあげた。
「有り得ねぇ!槍降るぞ!
逃げた方がいんじゃねぇか!」
「本当だ!ヤベー!天変地異だ!!」
「うるっせぇ!!
テメェら、俺が何言ったって文句タラタラじゃねぇかッ!!」
土方は朝餉の乗った盆を片手に怒鳴り付ける。
「当たり前だ!!」
「そ~よ!アンタねぇ、おねだりされたからってぇ、朝までヤり捲くる事ァ無いんじゃないのォ?」
「そうだ!!」
「そうじゃ!!」
「嵌め殺す気かァァァァア!!
死にそうな嫁さん、ヒーヒー言わせてんじゃあねぇぞ!!」
「失神するまでヤってんなァァァァア!!
マジ死んじまうぞ!!コルァ!!」
「ホラーは勘弁だぜ!」
「そ~よ~、アンタ、凹助なんかブルッちゃって、一人で厠行けないって、大騒ぎよ!」
「言うなァァァァア!!」
「ちょっ!なんだってッ!テメェら詳しいんだ!!」
土方は湯呑みを床に叩き付け叫ぶ。
「沖田隊長から聞きました」
「あんの、ヤロー!!総悟ォォォオ!!」
怒鳴り、辺りを見回す土方。
「総悟ならアンタの部屋行ったわよ、副長」
「なにっ!!」
土方は盆を投げ捨てて走り出す。

 

 

 


障子の隙間から中の様子を伺い見ると
良く見知った男の蒲団の上で女が一人
身悶えていた。
身に纏う男物の着物は肩肌脱げ
白く豊かな乳房を露にし
自らの手で鷲掴みにし揉みしだいている。
指の間に挟んだ乳首を捻り、引き上げながら乳房を捏ね繰り回す。
もう片方の手は乱れた着物の裾を割り、太股も露に、両足の狭間に差し入れられていた。

くちゅっ

くちゅっ

女の指が蠢く度、湿った音がする。

くちゅっ

くちゅっ

その音が

ぷちゅっ

ぷちゅっ

に変わったのは
女の指が、溢れる程にむ濡れた女陰に出し入れされたからだ。
身悶え、喘ぎながら
女は良く見知った男の名を口にする。
「ああ…トシ…アァンッ…トシふぅんッ…ンッ…」
途切れ、途切れ
繰り返し名を呼び、いつの間にか延びた両手で肉芽を、女陰を、弄っていた。
両腕に挟まれ盛り上がった乳房が、指を蠢かす度、揺れた。
それは、エロティックな光景だった。
淫らに身悶え、自慰行為に耽る女の姿を見る事など、そうあるものでは無かった。

[旦那ァ、下の毛も銀色なんですねぃ]

沖田は心の中て呟いた。

[いけねぇや。土方さんの嫁さんにおっ勃てちまっちゃあ、マズイ事になるじゃねぇかぃ]

 


自分の部屋の前で、中の様子を覗き込むんでいる沖田を見付けた土方は
「総悟ォォォオ!テメっ!ナニしてやがる!!」
と、怒鳴り付ける。
「土方さん、良い所に」
沖田はそう言って立ち上がり
「後の事ァ、よろしく」
と、去って行く。
「なんだ、あのヤロー」
土方は部屋の障子を開け
「どうした、銀時」
と、声を掛けながら入り
「アァン…」
自慰行為に耽る銀時を見て
「テメェ、ナニを」
驚き、その姿を見詰める。
「ハァ…ヤバぃ、すごッ、ヤりた…ンッん…トシィ…」
既に気を放った後の、トロリ蕩けた表情で、欲情の瞳で、銀時は土方を見た。
自ら胸を鷲掴みにし、捏ねくり回す。
着物の裾は乱れ、股を露に焦れったい様に擦り合わせていた。
「ずっと、そんな、してたのか?」
「う…ぅん、だって…欲しくて…アァン…濡れ、濡れで…フゥン…」
「総悟に見られてたぞ、銀時」
「やだ、弄ってんの…見られた?」
銀時は妖しく笑う。
欲情した笑いだった。

[総悟が覗き見ている事を知った上で、自慰を見せ付けてやがったな…]

土方は確信した。
「止まん…ない…」
「参ったなぁ」
「キテよ…こんなに、なってんだよ、」
銀時は大きく脚を開き、ゆっくりとした動作で、指を女陰へ出し入れさせた。
「どう、する」
と笑った。
「我慢出来ねぇのか?」
「ムリ…」
「仕方ねぇ…」
土方は障子を閉めて銀時の前に座った。

 

 


廊下を歩き来る足音。
「トシ、どうだ?銀時の様子は」

―スッ

と障子を開ける近藤。
「あ…」
近藤は、銀時の白い豊かな揺れる乳房と、土方に担がれ揺れる脚を目に、固まる。

土方は上半身裸で、辛うじて繋がり合う腰元を着物が覆っているが、太股は丸出し、銀時に至っては、全裸だ。
「みたなぁ!!出歯亀ですか!
コノヤロォォォオ!!」
銀時の叫び声に我に返り
「ナニやってんのォォォオ!!」
近藤は叫び返す。
「ノックしろよ!ゴリラ!!」
「ゴリラじゃねぇ。近藤さんだ」
そう冷静に言いながらも、土方の腰の動きは止まらない。
「トシぃぃぃい!?」
「悪ぃ、近藤さん、もうちょっ、待ってくれ」
「ンッ、アァン、あ、見てるよデリカ、シーねぇ、な、ンッ、ンッあッ、だから、ゴリ、ラなん、だよ…ああンッ!」
「お前ら、ここ何処だか分かってる?」
問い掛ける近藤に、銀時は喘ぎながら言う。
「見んのか?イクとこ、見んのか?アァン…トシぃ…」
「声、でけぇよ」

―スッ

近藤は障子を閉めて出て行った。

「や、もう、イクッ!」
「イケよ」
激しく動く土方の肩を掴んで銀時は痙攣する。
「すげぇ、キンタマ持って行かれそうなヒク付きだ」
グッタリの銀時を余所に、土方は自分がイク為に激しく動き、突き上げを繰り返した。

 

放たれた精液を絞り取るかの様に、銀時の女陰はヒク付き続け、痙攣していた。
「ああ、堪んねぇなぁ」
土方の呟きに、銀時は微かに笑った。

 

 


「副長ォ、朝餉ここに置いておきますよォ、食堂のおばちゃん、怒ってましたよォ。
湯呑み叩き付けて、盆事朝餉、投げ捨てて行ったでしょォ。
俺、片付けときましたからァ」
山崎の声に土方は
「済まねぇな」
と、部屋の中から言った。
「アンタ、そんな事したの?」
銀時は呆れる。
「そうなんですよォ、
旦那ァ絡むと副長我を忘れるって言うかァ」
「ああ!面倒くせぇ!入れッ!!」
「はい。失礼します」
山崎は朝餉の乗った御膳を土方の前に置き、ご飯をお櫃から盛りつける。
「旦那はお粥です。プリンも用意しましたよ」
「サンキュー」
「なんか、旦那なんて呼ぶの、おかしいですよね。
旦那よか、姐御か姐さんが良いかな」
「姐御は神楽がお妙をそう呼ぶから、イヤです!」
「じゃあ、姐さん」
「なんか、ヤクザかチンピラの女みてぇなんで、ヤダ」
「良いじゃないですかァ、うちチンピラ警察って呼ばれてるし」
「山崎ぃ!チンピラったぁなんだ!」
「ソレがチンピラなんじゃねぇの?原因トシだろ?
そう言えばさぁ、誠っちゃんな俺の時、蹴り捲くってたしね。
マスコミにも見られてたしね。ジミーも年中殴られてるモンね」
「分かったよ、悪かったよ。
俺がチンピラだよ。良いから、早く食え」
土方はそう言って、ご飯にマヨネーズを搾り出した。
「うん、あんま、食欲、無いんだよねぇ」
言いつつ銀時はお粥を少し口にして、元が何だったのか、マヨネーズテンコ盛りで分からなくなった、土方の朝餉の膳を見詰める。
「ゴメン、ソレ、キモい…」
銀時は俯き、顔を背けてプリンを食べ始める。
「それとォ、局長が、イジケて泣いてます」
「ああ、そりゃアレだ、俺が泣かせた。
だってさぁ、デリカシー無ぇんだモン」
銀時はプリンに匙を刺して呟く。
「ああ、まぁ、そうですね」
近藤から話しを聞いていた山崎は困った顔をする。
「でも、局長ォ、昨夜の件で、副長を労いに来たんですよ?
休暇とったのに出動させてしまったので…」
「ああ、そうだったの、悪い事…したね…」
「旦那ァ?大丈夫ですか?顔、青いですよ?」
土方は食事を止めて、銀時を振り返る。
「だめ、かも、」
銀時は食べかけのプリンを置いてごみ箱に顔を突っ込む。
「銀時…」
大して吐く物の無い銀時はすぐに顔を上げ、水をガブ飲みすると、もう一度吐いた。
「ゴメ、食べてんのに…」
「ああ?気にすんな、横になれ、薬飲むか?」
土方は銀時を抱いて蒲団に横たえ、薬を差し出す。
「ん…つーかさ、ソレ、何の薬?あんま、薬とか、好きじゃねぇんだケド」
「栄養剤ですよ。
良順先生に話しを聞いてます。食事が出来ない様なら栄養を採らないと、って」
「あ、そう。じゃ飲むよ」
銀時は仕方無しと薬を飲む。
これは吐かずに済んだ。
「あまり無茶しない方が良いですよ。Hのし過ぎも身体に毒ですよ。
身体が安定してからの方が良いらしいですよ」
「んな事まで言ったのか」
「はい。旦那の飲んだ天性薬は身体に馴染むまで時間の掛かるタイプみたいで、十日位はって」
「そんなに、キモいの続くの?」
銀時はイヤな顔をする。
「詳しくは良順先生に聞いて下さい」
山崎はごみ箱に手を伸ばし言う。
「俺がやるから良い」
土方はごみ箱を取って
「ちょっと見ててくれ」
と、出て行く。
「だ、姐さん、とんだ事になりましたね」
「ああ、まぁねぇ」
「でも、あんなに一途な副長を見た事無いんで、多分、副長は一番大切に思ってるんですよ。あなたの事」
「そうだね。山崎くんさぁ、いろんな事、知ってんじゃん。俺の事もトシの事も」
「はぁ、」
「このままトシと、一緒んなったらさぁ、真撰組の皆も困るだろ?
こんな、訳の分からないヤツがさぁ、大事な副長にくっ付かってたら」
「いや、そうでも無いですよ。案外みんな楽しんでますし、副長の色々な面、見れるの、旦那、いや姐さんのお陰ですからね」
「旦那でも姐さんでも良いケドさぁ、トシが一番大切に思ってんのは、真撰組だよ。
それで良いと俺は思うよ。
でないと、俺が困るし、」
「なんで困るんです?」
「ん?色々?」
銀時はニッコリとし、釣られて山崎もニッコリする。

「悪いな山崎。
ちょっ、近藤さんの所行って来る。も少し銀時の事見ててくれ」
「はいよ」
山崎は笑顔で返事をした。

 

 

 

土方がいなくなったのを感じた銀時は、天井を見上げながら山崎に話し掛ける。
「ジミーさぁ、役付きなのにトシの事面倒みんの、大変だね」
「いえ、ここ入ってからずっとだから、あんまり気になりませんねぇ」
「俺さぁ、今、トシが必死んなって俺の世話焼いてんの、あのコの事があったからだと、思うんだよね」
「あのコ?」
「うん、ホラ、沖田くんの」
「あ、ミツバ殿ですか」
「そ、ありゃあ、甘酸っぱい青春の思い出みたいなモンで、俺みたいに薄汚れて無いしね、綺麗なんだと思う訳。
ケドさぁ、あのコと重なるじゃん?
俺がこんな状態で死にそうだったりして…
トシは俺が死ぬの重ねてんの。
何もしてやれなかったって、感じてんの」
「それは、」
「あるだろ?
色々と責任感じて、一生懸命にしてる。有り難いね」
「でも、昔の事を重ねてんの、旦那も一緒じゃないですか。
土方さんは、そんな事、考えて無いんじゃないかな、」
「ああ、なんだ、そうか…
俺自身が引け目感じてんのか」
「そんなモン感じる事無いですよォ。
誰だって、好きな人には、何でもしてあげたいじゃないですか」

―スッ

「そりゃ、山崎の言う通りだ。
お前が引け目感じる事ァねぇよ。
お前は死なねぇ。
この先、ずっと俺と一緒に生きる」
「副長、」
「近藤さん、もう出掛けてた」
「じゃあ、俺はこれで」
山崎は膳を持ち、部屋を去る。
「居たの」
「ああ、そりゃあ、甘酸っぱい青春の思い出だよ。
好いた女だったよ。死んだ時ゃあ、泣いた」
「ああ、知ってる」
「でもよ、お前が死んだら、泣くだけじゃ、済まねぇなぁ、後追いなんざしねぇ…
けどな、俺の中の何かが消える、全てが終わる」
「トシ…」
「俺は、お前が望む事全てに応えたい。
死にかけているお前が、抱いてくれと言うなら、息を引き取るその瞬間まで、抱いていたい」
「そうか…だから…」
「ああ、だが、終わると思っちゃあ、いねぇよ。
俺達はこれから始まるんだ。
しつけぇ俺がこれで終わらす訳ゃねぇだろーが」
「アハハ、違いねぇ」
「だからな、銀時、お前は俺と一緒に居てくれ」
「ああ、こうなった以上、トシの女房になってやるよ」
「ああ、なってくれよ」
土方は銀時の頬を撫で、柔らかな笑みを向けた。

 

 

 

 

 


―夕刻

 


「松本医師がいらっしゃいました」
「おう、通してくれ」
土方は松本医師を部屋にあげた。
「どうだ調子は」
銀時は浴衣の前を開け、松本医師の診察を受けながら文句を言う。
「アンタ、大事無いって言ったのにさぁ、俺、死にそうなんですケド?
何も食えないし、吐くし、」
「ワッハッハ、何を甘い事を、異郷の薬をナメちゃいかんよ」
松本医師は豪快に笑った。
「天人の天性薬はな、誰もが身体に合う訳ではない。
特に地球人は雌雄に個体が分かれているからな、必要性が無い」
「確かにな、んで?俺、どうなんの?」
「このまま、女子になるだろうな」
「そ、」
「そうだ」
「分かった。何時になったらメシ食ったり出来んの?食欲無いから体力も無いんだよねぇ。
疲れ易いっての?ものっそい、怠いのよ」
「まぁ、二三日は我慢しろ。多分だがな」
「多分かよ」
松本医師は片付けをして笑う。
「それまでは栄養剤を飲んでおけ、いいな?」
「ハァイ、」
銀時は溜め息吐いて浴衣を纏う。
「なぁ、先生、コイツやたらヤりたがるんだが…」
土方の問い掛けに松本医師は笑い
「そりゃそうだろう。何の為の天性薬か考えてみろ、子孫を残す=性行為だろ」
「なる程ねぇ、一応、他のヤローに目が行かねぇだけマシか」
「そりゃお前が強い男だからだ土方。
生物は本能的に強い者の子孫を残そうとするモンだ。
嫁さんは本能に従っているだけだ」
「へぇ、まぁ、確かに強いわな。
んじゃさぁ、トシより強い男と出会ったら?
ソイツに傾くモン?」
「そりゃお前次第だな、お前らにそれ以上の絆があれば、傾く事なぞ無いだろ」
「そ、ありがとう。先生」
銀時はニッコリし、土方は怖い顔をして考え事。
「じゃあな」
松本医師は立ち上がり、土方は見送りの為、共に立ち上がる。

 


「浮気されない様、気を付ける事だな」
「俺よか強いのは総悟だけだ」
「沖田か、だが、まだ青い。
お前の嫁さんが相手にする様な男では無いよ、沖田は、な」
「なら良いがなぁ」

 

「良順先生のお帰りだ。お送り差し上げろ」
土方は笑って松本医師を送り出した。

 

「ヤバイなぁ、沖田くんに色目使ったの、バレたよ…
ありゃあ、怒ってるよ」
銀時は蒲団の上、悩んでいた。

 

―スッ

入って来た土方の視線が痛い銀時だった。
「なんか食うか?」
「んいらねぇ。どうせまた、吐いちゃうし、」
「なぁ」
「ナニ?」
「俺よか強い男ったぁ、誰だろーな」
「あ?ナニナニ?そりゃ、アレだ、俺じゃね?」
「確かになぁ、オメー、朝、総悟に色目使ったろう」
「何の事?」

[来たよ]

と思いながら、惚ける銀時。
「朝のアレだ」
「アレ?ああ、アレね?アレ」
「知ら切んな」
「ナニ?ソレで?怒ってんの?沖田くんに色目使ったって?」
「ああ、違うのか?」
「さぁ?トシの取り方次第?アレを色目ってなら、色目だし?」
「総悟が覗いてんの知ってて、やってたんだろ」
「そう。って言ったら?」
「ムカ付くな…」
「誰にぃ?アンタさぁ、俺が欲しいの、アンタだけナンだよねぇ。
沖田くんが、いくら強いったってね?
ヤるのトシだけだからね?
本能だか何だか知んないケドぉ~、そんな尻軽じゃねぇよ?」
「そうか」
「うん。ね、抱っこ」
「あ?」
両手を差し出す銀時に、小さな溜め息吐いて土方は銀時を抱き上げ、膝に乗せた。
「何がしたいんだ」
「ただ、こうしたいだけ…」
土方の肩に頭を乗せ目を閉じる銀時。
その顔を土方は見詰め、少し頭を傾げ、銀時の額に頬を寄せた。
微かな熱を感じる柔らかい肌。
ギュッと抱き締めて来る銀時を抱き返し、土方はフカフカの銀色の髪に口付けた。
「あんまり、ニオイ嗅がないでね?クサイから」
「色気ねぇ…」
「だってさぁ、風呂ずっと入って無いからさぁ」
「ああ?」
「風呂、入りたい」
「無理だ。躯拭いてやるから、我慢しろ」
「やだよぉ。頭洗いたい。風呂入りたいよぉ」
甘えた口調の銀時。
「オメー、こが男所帯だって、忘れたのか?」
「ああ、そうね。女だったね、俺」
「チッ!どうせ、ソレでも入りてぇってんだろ?」
「さすがトシ。分かってんじゃん」
「離れの風呂使うか、ソレだけで、オメーが風呂入んのバレんな……
ヤロー共は張り切って覗きに来やがるだろうな」
「イんじゃね?」
「オメーが良くっても、俺が嫌だ」
「誰も覗きになんか来ないって」
「来る!ヤロー共は必ず来る!」
「一緒に入るんだから、アンタが気ぃ張ってりゃイイじゃん」
「なんじゃソラ」
土方は相変わらずの怖い目付きで銀時を見た。

 

 


結局、銀時を離れの風呂に入れる事にした土方は、フラフラでまともに歩けない銀時を抱いて離れに向かった。

 

髪を洗い、身体を洗うのを手伝って、土方は銀時を湯舟に入れる。


「温めにしといた」
「ん、気持ちイイ……身体ほぐれるぅ」
湯舟の中でフラ付いている銀時。
「オイ、傾いてるぞ、溺れるから、角に寄り掛かれよ」
銀時の腕を掴み言う。
「ん…アンタも入りゃ、イイよ」
「あん?オメーが気ぃ張って見張ってろっつったんだろーが!」
「大丈夫だってぇ、早くぅ」
銀時に促され土方は湯舟に浸かる。

 

「湯気で良く見えねぇ」」
「一緒に入ったみてぇだぜ」
「ああ、見えて副長はマメってぇか、面倒見がイイってぇか、なぁ」
「副長よぉ、あんなクールな顔して、ヤる事ァ大胆たわ、どスケベだわ」
「何話してんだ?」
「見えねぇぞ、頭下げろよ!」
「うるせぇよ、気付かれんぞ」
「ぉお、抱き合ってんぞ」
「ヤってんのか?」
「ヤってんだろー!!」
「副長よぉ、見張りも立てねぇで嫁さんと風呂なんて余裕だなぁ」
「見張りなら居るぜぃ」
「そうか、いんのか」
「「えッ!?」」
驚いた男達が振り返ると、刀に手を掛けた沖田が立っていた。
「「お、沖田隊長…」」
「バカだなテメェら、土方さんが見張りも立てねぇ間抜けの訳ゃねぇだろぃ。
覗くヤローがいたら、遠慮無く叩っ斬れってぇお達しでぇ。
俺ァ遠慮はしねぇ主義でぇ」
沖田はスラリと刀を抜いて
「誰が先でぇ…オメーか?あぁん?」
一人の首に刀の刃を当てる。
「ヒィィィイッ!!勘弁して下さいィィィイ!!」
平謝りする間に、他の隊士達は、足音も高らかに逃げ出した。

 

「ヤロー!やっぱ覗いていやがったな!!」
「男所帯はコレだからヤだねぇ」
銀時は笑って土方に口付けた。
「湯の中だと躯軽いし、動き易くて良いねぇ」
「なんだ、ヤる気かよ」
「コレはヤる気満々みたいだケドぉ?」
銀時は笑って土方の陽根を握った。
「ヤる気ないならァ、勃てないよにィ。ね?」
銀時はノソノソと土方の上になり、跨いで腰を落とす。
「自分で挿れんのか?」
「ん…ァン」
腰をずらし握った陽根を、銀時はゆっくりと女陰の中へと、収め挿れた。
「ふ…ァッ…」
「んんっ、良く締まんなァ……キューキュー締め付けてるぜ」
「う…ンッ、アァ…」
動かずジッとしていると、クニクニ蠢きだし、土方は驚きの声をあげた。
「なんだ、こりゃあ、」
「ンフフ、なんか…凄い事に、なってんね…」
「ああ、すげぇ…」
土方の首に両手を巻き付けて銀時はゆっくりと蠢く。
「ハッ、ハァアァンッ」
土方は突き出た銀時の豊かな乳房を撫で、口付けて、舐め上げた。
「ひぅッ、囓って、」
乳房を押し付け呟く。
「すげぇ、今までにねぇ、感じ方だ、ナカになんかいんじゃねぇのか?キンタマに絡み付くぞ」
「は、ふぅん、ハッ、ンッンッ、イイ、蕩けそう…と、トシィ…アンッアンッ」
「ああ、堪らねぇ、動くぞ、しっかり捕まってろ」

 


「ホントにおっぱじめやがったぜぃ。
毎ん日、朝から晩までヤり捲りったぁ、オっさんのくせにアンタら、ヤり過ぎだろぃ。
しかし、良く勃つねぃ。俺もなぁ」
沖田は一人ゴチて風呂場に背を向け、自分の股間を見下ろした。

[エロい気分ったぁ、何時でも、男女関係無くなるモンなのかねぃ…
土方さんと旦那の交ぐ合う姿見て、おっ勃っちまう様じゃ、修業が足りねぇなぁ…
イヤ、若けぇからか?]

一人心の中で呟く沖田であった。

 

 


「副長ォ~、夕餉お持ちしましたァ」
「おう、入れ」
「失礼します」
「旦那ァ、今度は野菜スープを作って貰いましたよ」
「悪いね」
銀時はスープの入ったボウルを受け取り、一匙掬って口に運ぶ。
「どうですか?」
山崎の問い掛けに銀時はゆっくり噛み締める。
「うん、大丈夫そうだよ」
それをジッと見ていた土方は、二口目を口に運ぶのを見て、少し安心した。
「トシは食べないの?」
「ああ、食うよ。けど、ここで食って良いのか?」
「マヨ丼?良いよ。なんか平気?みたいだし…」
銀時の笑顔は微かに引き攣っていた。
「イヤ、後で食うわ。顔嫌がってるぜ?」
「え?マジでか!?」
「ああ、」
「副長ォ局長が休暇を一日延ばして良いと言ってましたよォ」
頷く土方に、スープを飲み続ける銀時は考え聞く。
「休み、何日取ったのよ?」
「三日だ」
「そんな休んで良いのかよ?忙しいんじゃね?」
「ああ、だから休みでも俺が必要ならば出動する」
「うん…そうか…」
銀時はスープのボウルを置いて頷く。
土方は僅かばかりのスープを口にしただけで、気分悪そうにしている銀時に聞く。
「もう終いか?」
「…うん…」
ゴロリと横になる銀時。
「オイ」
「大丈夫…ちょっ、ムカムカするだけだから」
銀時は小さく溜め息を吐く。

[ったく!何時までこんな状態だよ!
あんま、人に心配されんの、ヤなんだケドぉ!!
ああ、焦れったい!!どうにかしてくれつーのッ!]

「銀時、」
土方は身を乗り出し名を呼ぶ。
「う、うん。大丈夫だから、トシ食べなよ」

[なんだよ…
俺ァ、こんなに弱いヤツだったか?
斬られ様が、刺され様が、気力で切り抜けて来たじゃねぇか!クソッ!!
死にはぐったんだって、一度や二度じゃねぇ…
なのに、なんだよ!
メシは食えねぇ、テメェの足で満足に歩く事すら出来ねぇ…!
唯一出来んのがHだけったぁ、情けねぇったらありゃしねぇ、クソッ!!]

土方は背を向け寝転がる銀時の後ろ姿を横目に、食事を始めた。

 

 


「それじゃ、失礼します」
山崎が片付けをして出て行くのに頷いて土方は、ごろ寝したまま本格的に寝入った銀時に蒲団を掛けて呟く。
「まどろっこしくて、腹立つだろうな。済まねぇ、銀時」
土方は銀時の髪を撫で、天井を見上げた。