銀色の夢【かぶき町子育て日記 銀時四郎くんと一緒】 壱

 

夕飯の買い物を終えて、帰宅途中の、万事屋一行。

銀時は、眠る息子・銀四郎(生後六ケ月)を胸に抱き、新八は荷物持ち、神楽は定春の背中。

のんびり散歩気分を味わっていた。

もう少しで万事屋と、いう所で、黒塗りの車に行く手を遮られ、慌てて立ち止まる銀時。

「危ないねぇ」

そう、言い終わる前に、車から降りて来た男達に車の中に押し込められた。

走り去る車

「銀さん!」

「神楽ちゃん!定春!車を追って!」

叫ぶ新八。

「定春行くアルよ!」

「アンッ!」

新八は携帯を取り出し土方に電話する。

「土方さん!
銀さんと銀四郎くんが!万事屋の前で、僕の前で!速籠に押し込められて
拘引されました!」

新八は今見た事を詰まりながら話した。

半ば叫び気味だった。

『何っ!』

電話の向こうで、土方はかなり動揺していたが、表に出さぬ様、落ち着いて聞いた。

『犯人を見たか?』

「はい、浪士風の男が三人と、あれは、岡田似蔵、」

『岡田似蔵!?高杉一派か!
クソッ、奴等、また銀時を、』

土方の中で怒りが沸々と沸いて来るのを、新八は感じていた。

「土方さん!
籠っ、籠見ました!
黒塗りの速籠で、ナンバーは
江戸88お12-0Xです!
神楽ちゃんと定春が追っています!」

『分かった!
その車輌を緊急手配する!
志村は万事屋で待機!
神楽からの連絡を待て!』

「はい!」

 

「全車輌に告ぐ!
本日午後4時00分頃、新宿かぶき町
5-11-4、万事屋前にて、
万事屋主人、坂田銀時、土方銀四郎親子が拘引された!」

『何っ!?』

『副長の嫁さんと坊ちゃんじゃねぇか!』

「犯行車輌ナンバーは、江戸88お12-0X、検問を緊急配備!」

『了解!』

「実行犯の中に、
岡田似蔵の姿を確認」

『人切り似蔵!』

『高杉鬼兵隊か!』

『緊急配備だ!』

「済まねぇが、探し出してくれ」

『分かった!』

『任せとけ!』

「てぇへんだ!」

振り返ると寝癖頭にアイマスクを首から下げた沖田が立って居た。

「総悟!テメェ!!
またさぼってやがったなッ?」

「んな事より、旦那ァ拘引されたってぇホントですかぃ」

「ああ、」

土方の額には血管が青筋立てていた。

そして、銜え煙草を吸う勢いが増した。

「岡田似蔵かぃ、また高杉鬼兵隊か、
んで、目撃者がいたんですかぃ」

「志村が見た。
今、神楽が定春と追っている」

「チャイナかぃ、んなら、最近持たせた携帯のGPS機能使いやぁいいじゃねぇですかぃ」

「ああ、」

土方はPCを操り、神楽の持つ携帯から発せられる電波を辿った。

「使えねぇッ!神楽のヤツ!
携帯家におきっぱじゃねぇかッ!!」

益々血管が切れそうな土方だった。

「ありゃま、どうしやす?
連絡待ちですかぃ」

「オメーは捜索出ろ、
俺ァ指令室勤務だからよ」

「席外せねぇって事ですかぃ、」

「ああ、済まねぇが、頼む」

「承知しやした」

沖田は珍しく真面目に返して出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 


「岡田似蔵」

車に押し込められた銀時は

[またか・・・]

と、思い溜め息が出た。

「久しぶりだねぇ、奥さん。
そんなに緊張しなくてもいいよ。
アンタを酷い目に合わせるつもりはないからねぇ」

「こりゃあ酷く無いってぇの?」

「ああ、こいつは済まないねぇ。
こうでもしなきゃあ、アンタ、
素直にあっちゃあくれないだろ?
あの人がさぁ、アンタに会いたいって言うモンだからね」

「高杉のヤツ、」

銀時は銀四郎を抱き直した。

「随分と肝の太い子だねぇ、こんな状況でも起きないなんてねぇ。
流石、白夜叉アンタの子って事かね。
そういえば、父親は真選組、鬼の副長、土方十四郎だったかい。
将来楽しみな剣客になるね」

「良く喋るね。ったく、
何の用か知らないケドさぁ、」

[こうなっちまった以上
騒いでも無駄って事った]

銀時はそう思いながら銀四郎の頬を撫でる。

「心配しなくてもあの人の用が済めば無事に帰すよ」

「そりゃどうも」

銀時は口をつぐみ、銀四郎を見詰めた。

 

 

 

 

 

 

 


当番を近藤に代わって貰い、急ぎ万事屋に戻って来た土方。


「土方さん」

「何か連絡あったか?」

「いいえ、神楽ちゃんも掴まらなくて、携帯ここにあるし、」

新八は心配で仕方無かった、銀時が目の前で拘引されたのは二度目だ。

「今の所、検問にも引っ掛かった様子はねぇ。銀四郎も一緒とあっちゃ
銀時も動き様ねぇ」

土方の怒りは銀時と銀四郎の無事な姿を見ない事には収まりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


銀時は廃墟と化した武家屋敷の一間に通された。


そこだけ、取り急ぎ、綺麗にしつらえた様に、衝立と座布団が置いてあり、数個置かれた行灯が薄気味悪い部屋に、微かな温もりを醸し出していた。

 


「よぉ、銀時、しばらく見ねぇ間に、
またァ女っぷりが、
上がったんじゃねぇのか」

高杉が煙管片手に煙草をふかして銀時を見上げた。

「何の用ですか」

「まぁ、座れ」

銀時は仕方無く、高杉の正面に用意されていた座布団に座った。

「テメェ、俺に嘘吐きやがったな。
ありゃあ、一年前だったか?
あん時ゃ孕んでねぇとか吐かしやがって、話、違うじゃねぇか、そりゃ何だ」

高杉は銀時の抱く銀四郎を覗き込んで言う。

「銀四郎くんです」

「チッ!
こんな事なら、あん時犯っちまえば良かった」

銀時は目の前にある高杉の頭に頭突きした。

「ッ!何しやがる!」

「そりゃこっちのセリフだってぇの!
子供の前で変な事言わないでよね!」

「んな赤ん坊、何言ったって分かりゃしねぇだろうよ」

「分かりますぅ、銀四郎くんはアタシに似て賢い子なんですぅ」

「ケッ、何言いやがる」

「つーかさぁ、ナニ?会いたいって?
コレ?コレなの?子供の文句?」

「ああ、そうだよ」

高杉はジッと、銀時の腕に抱かれ、スヤスヤ眠る銀四郎を、見ていた。

「そうだよって、アンタに文句言われる筋合い無いってぇの。
アタシ、アンタの女じゃないし」

銀時は耳をホジホジ空惚けて言う。

「イヤ、言うしかあるめぇよ。
女になった途端、
孕んでガキなんぞ産みやがって、
しかも、なんだそりゃあ、
あの幕府の狗そっくりじゃねぇか」

銀時はまたも高杉の頭に頭突きをかました。

「っ!テメェっ!」

「狗とか言ってんじゃねぇ!
銀四郎くんが変な言葉覚えたら
困るだろーがッ!!」

「ッ、テメェ、二度も頭突きしやがって 狗を狗と言って何が悪りぃ」

言った途端に身体を引く高杉に、頭突きが出来ず銀時は舌打ちする。

「チッ!」

「テメェこそ舌打ちなんぞ
するんじゃねぇよ」

「もう、ナニ?何なの?
アタシに会って、どうしたいの?」

「どう?どうもしねぇよ。
ヤツのガキなんぞ産みやがって、
オメーを女にしたのは俺だってぇのによオメーが産むのは俺の子だったのによ。なぁ、銀時」

「ちょっ!
アンタに女にされた覚えありません!
なんでアンタの子、
産まなきゃなんないのっ!?
つーか、誤解招く様なエロい、
言い方すんなっての!」

「そうかよ。なぁ銀時、オメー、
辰馬からなんか、貰わなかったか?」

高杉はニヤリ笑う。

「なっ、」

銀時は、二年前の誕生日に辰馬から送られた、酒と思い込んで飲んだ、転性薬を思い出す。

「思い出したかよ」

「なんだって、んなモン
送って寄越したの?
アレ?気のせい?もしかして?
えぇん?マジでかァ?
女にしてナニしようと?もしかして?
ナニナニ?うそぉん?
マジですか?」

「相変わらず空惚けたヤツだな。
そうだよ、銀時?俺ァオメーを
自分の女にしようとしたんだよ。
なのに何だオメーは、
前々からあのヤローと
深い仲だったとはなぁ、
そんな事ァ知る由もあるめぇよ」

「晋助?アンタ、ナニ考えてんの?
それで拘引してまで?
文句タラタラ?そんなに?」

「ああ、オメーの行動、
一々、気に入らねぇ」

「気に入らねぇって、アンタさぁ、  勝手に女にしたのはアンタじゃん。
それにさ、付き合ってる男がいりゃあ、ヤんの、当り前じゃん。
ヤったら出来ちゃうの、当り前じゃん」

「ああ、そうかよ。
女になりゃあ、オメーも組安し、
と思ったのが、間違いだったぜ。
なぁ銀時」

「そうねぇ、ウチの人、アタシが男でも女でも関係無いってぇ人だから」

「みてぇだなぁ。何があっても
オメーを手放すつもりはねぇ様だ」

「そうなんだよねぇ。
だから、アタシの事は諦めな。
ヒトのモン欲しがるの、
いい加減やめな」

「俺が、ヒトのモン、
欲しがるってぇのか?」

「うん」
「俺ァ、オメーが欲しいぜ?
単純に、な、」

高杉は銀時の髪の一房を取って言う。

「そりゃアタシじゃなくて、
違うヒトに言ったら?」

「ああ?誰にオメーの文句言えってんだ」

「誰ってぇ、ヅラ?」

「なんでここにヅラが出て来る」

高杉は銀時の髪を放し、不機嫌に聞く。

「だってさぁ、アンタのホントに好きな人はヅラじゃん。
昔っからアンタ、アタシに興味無かったじゃん」

「そんな事ァねぇよ」

「イヤ、あるって。アンタのソレ錯覚 だから、アタシにオヤジ重ねてるだけだから」

「重ねてねぇ、オメーなんざ、松陽先生とは似ても似つかねぇ、同じ血が流れてるなんざ思いたくもねぇ」

「んじゃなんでアタシの事、構うの? アレ?やっぱアンタ、アタシの事、  気に入ってる?ラブな感じ?」

「ラブじゃねぇ。
俺のお気にはヅラだ」

「ホラ~、やっぱヅラが良いんじゃん」

「ん?」

「ヅラにしときな。
アタシ人妻だし、子持ちだし、
フツーの主婦やってんだからね。
アンタにはヅラが良いよ。
似合いだよ。
ヅラね、かぶき町の、
かまっ娘倶楽部ってとこにいるから。
ヅラ子で指名してやってねぇ」

「ヅラのヤツ働いてんのか?」

「そっ、今度行ってあげたら?
喜ぶんじゃない?ねぇ?」

「そうか?」

「そうだよ。アンタ、昔っからヅラの事しか、見てないからね?」

「俺が?ヅラしか見てねぇだと?」

「そうだよ、ねぇ?
銀四郎くん」

銀時は髪を引っ張って起きた事を知らせる銀四郎を見て笑った。

「テメェ!
俺の事丸め込もうとしやがったな!」

「ぶぶぅ」

高杉の文句に答えたのは銀四郎だった。

「な、なんだコイツ、銀髪以外、ヤローそっくりじゃねぇか!
ホントにテメェの子か?
しかも銀髪クネッてねぇし、」

高杉は自分を見詰める銀四郎を見て言う。

「ぶうぅ~うぅ」

「ナニ言ってんのォ?
銀髪ってぇ時点でアタシの子じゃねぇの?
つーか産んだのアタシだし?ねぇ?」

銀四郎はジッと高杉を見ている。

「んうぅ~」

「なぁに?銀四郎くん?お腹すいた?」

「オイ、こんな所で乳出すなよ?」

「ナニ言ってんですか?
そんな事しません!」

銀四郎を抱き直した銀時は

「もう、帰るよ。
アンタの文句も聞いた事だし。
それに、アンタの望む事ァ、
何一つ出来ないからね」

と、高杉に言った。

「ああ、そうだな、」

[何にしろ、コイツァ、人の言う事ァ、何一つ聞いた例しはねぇ。
そりゃ今も昔も、変わらねぇって事か]

高杉は呟き、似蔵を呼んだ。

 

「銀時を帰せ」

「いいのかい?」

「ああ、船に戻る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃神楽と定春は、銀時の連れ込まれた武家屋敷の近くをグルグル彷徨っていた。

「定春ぅ~ここドコアルか?」

「アンッ」

「そうアルか~わからないアルか~。
ワタシ携帯も忘れたヨ。
土方に怒られるアル」

「アンッ!アンッ!」

定春の吠える方を見ると、車が一台出て来る所だった。

「アレ!ん?
さっきの車アルか?違うアルよ」

「アンッ!アンッ!」

「アレに銀ちゃん乗ってるアルか?
銀四郎も乗ってるアルか?」

定春は神楽を咥えて背中に放り投げ、車の後を追って走り出した。